第10話 報酬

「渋いなぁ……」


俺は手のひらに乗っている銀貨を眺める。

初めてのクエストを終え、ギルドに戻って報酬を受け取ってきたばかりなのだが、そこで報酬として受け取れたのはたったの銀貨3枚。


ルイスにこの銀貨1枚でどれぐらいの価値があるのか聞いてみたところ、1枚あたりだいたい1000円ほどのようだ。


この世界の硬貨は3種類。

一番価値が低いのは銅貨で、これは100円ほどの価値がある。銀貨は1000円、そして金貨は10000円と考えるとわかりやすい。


「まぁ、こんなもんだよ。たかがスライム討伐だしさ。質屋にでも行ってみる?」


「あぁ……クエスト報酬ですら銀貨3枚なんだから、こいつがそんなに価値あるものだとは思えないがな」


スライム討伐の副産物として手に入れた色とりどりの玉。

最後の希望として俺はこれを質屋に持ち込んだ。


「いらっしゃ……なんだ、ハジキか。兄ちゃんは見ない顔だな」


質屋の男は俺たちを見るなり露骨に態度を変えた。嘘っぽい営業スマイルを辞めて台に頬杖をつく。


「これを売りたい。いくらになる?」


「あぁ、こりゃまた貧相なものを。ハジキがハジキを持ってきたってわけか」


この男は口が悪い。

これには少々腹が立った。


「買ってもいいが、大した値にはならないぜ。これ全部で銅貨5枚だ」


「それでいい。買ってくれ」


銅貨5枚で500円。

副産物にしては上出来か。


この値が高いのか低いのか。あるいはぼったくられているのかは、まだこの国の相場もわからない俺では判断出来なかった。


「ハジキっていうのは、俺たちのことか?」


質屋の男が机の上に散らばった玉を拾い集めている間に、俺は男にそう尋ねた。


「そうだよ。この国では有名な落ちこぼれさ。知らない奴はいねぇよ」


「そうか……」


「兄ちゃんはどういう訳ありなんだ? 好んでハジキの仲間になったわけじゃないんだろう?」


俺は答えなかった。

代わりに男が拾い集めた玉を指さす。


「それは何に使うんだ?」


男は質問に答えなかった俺に肩をすくめた。


「すり潰して絵の具にするのさ。このサイズじゃなんぼにもならねぇがな」


質屋の男は俺に銅貨を3枚手渡した。


「次はもっとマシなもん持ってこいよ」


店を出る時に、男はそう言った。


店を出た後、俺はしばらく道で考えていた。

今後どうするべきか。

また依頼を探すといってもすぐに見つかるとは限らない。それに報酬も良くない。


「何かもっとないのか。劇的に稼げる方法が」


「ヨースケって意外とがめついのね。私、お腹が空いたわ」


空気を読まずにアメリアが言う。


がめついと言われればそうかもしれない。

何せ、うちは母親がいなかったから家系が苦しかったのだ。

高校に入ってすぐにバイトを始め、父親の収入と合わせて生活費諸々の足しにしていた。

そうなれば必然、金に厳しくなるだろう。


「そうだ。ロゼは仮にも金持ちの人間だろう? 親に資金援助を頼めないのか?」


ロゼは顔を曇らせた。


「ごめんなさい、ヨースケ。私は半ば縁を切られるように家を追い出されたの」


すっかり忘れていた。

ついさっきハジキだと質屋の男に言われたのに、想像力が足りなかった。俺はすぐに謝った。

すると、アメリアがため息を吐いた。


「もう、そんなに困ってるなら私の村に行ってみる?」


「エルフの村か。興味があるね」


「ここからもう少し西に行くと渓谷があるの。それを越えるとエルフの村があるわ」


ルイスが目を丸くする。


「知らなかった。そんな所にあったんだな」


「村の場所は秘密なの。多くの人に知れると村が危険だから。私について来て」


アメリアは先頭に立ってずんずん歩く。

街を出てずっと歩くと、確かに深い谷がある。


「アメリアは平気なのか。村に戻って」


ロゼのように、縁を切られているとか、迫害されるわけではないのだろうか。

それが心配で尋ねると、アメリアはあっけらかんと言った。


「行ってみないとわからないわよ」


アメリアらしい回答だ。


谷には橋がかかっていて、渡るのは簡単だった。

しかし、霧が濃く一寸先もよく見えない。

慎重に進む必要があった。


「私の生い立ちは前に話したわよね? まったく。私を安い金で売り飛ばした親が今頃どんな生活をしているのか見物だわ」


本心はどうかわからないが、口で言うことは肝が据わっている。


長い長い橋を渡りきると、霧が一段と濃くなる。


「危険だからはぐれないように手を繋いで」


アメリアの指示通り、俺たちは手を繋いで進んだ。

アメリアの額には、赤色の石が埋まっている。

これがレーダーのようになっているのか、そのおかげで村の場所がわかるようだった。


「この辺りね」


周りは相変わらず霧が濃くて何も見えない。


「我が名はアメリア=コースティー。ユースピアの村よ、姿を現し給え」


アメリアが詠唱を終えた途端、周りの霧が晴れた。


「おかえりなさい、ユースピアの民よ」


目の前には石の鳥居があった。

その奥には村があるのがわかる。


(これがエルフの村……)


俺はゆっくりと石の鳥居に足を踏み入れた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る