仮面強盗
花里 悠太
オカメの美学
『ニュースです。最近巷を騒がせているオカメ強盗についてです』
「オカメねえ」
出先から帰宅して椅子に腰掛けた老婦人。
テレビに流れるニュースを見ながら、彼女は呟いていた。
『この強盗はオカメの仮面を被っています。犯人は複数いると思われ……』
「強盗とは品がないねえ」
顔をしかめていると、玄関のドアが開く音がする。
廊下で足音がしたかと思うと、彼女のいる部屋にオカメを被った男が出刃包丁を片手に入ってきた。
「金を出せ!」
「はあ、噂のオカメ強盗さんかい」
包丁を突きつけられているにもかかわらず、のんびりと答える老婦人。
毒気を抜かれかけたオカメ強盗だが、再び金を要求する。
「金を出せって言ってるんだよ! この包丁が見えないのか!」
「怖いねえ」
「お前なめてんのか!」
老婦人の反応にオカメ強盗が苛立ったその時。
部屋の反対側にあるドアが大きな音を立てて開けられ、別の男が乱入してきた。
「お婆さん、大丈夫か!」
「なんだテメエ!」
「おやおや、今日は騒がしいねえ」
もう一人の男も同様にオカメを被っている。
「オカメ仮面参上! 私がきたからにはもう大丈夫だ!」
「何がオカメ仮面だ! 頭おかしい奴には用はねえよ!」
「オカメ仮面の名にかけて、オカメの悪事は許しはしない!」
二人のオカメが取っ組み合いを始める。
その隙に落ちた出刃包丁を老婦人が拾い、オカメバトルを見守った。
間も無く、オカメ仮面がオカメ強盗を殴り飛ばして気絶させた。
「おばあさん、もう大丈夫だ。私はもう去るが、こいつを警察に突き出してくれ」
「ありがとうねえ、オカメ仮面さんとやら。ところで一つ聞いてもいいかい?」
「すまない、もう行かなければ! 街の平和を守らねばならんのだ」
立ち去ろうとして背中を向けたオカメ仮面に静かに声をかける。
「なんで、あんた家の中にいたのかねえ」
「……」
「大方、おまえさんもオカメ強盗じゃろ? 出るに出れなくなって、誤魔化そうとしたんじゃろ」
「い、いや、それは」
老婦人は拾った出刃包丁の刃を返し、オカメ仮面の首筋に包丁の背を打ちつける。
パタリと倒れ込むオカメ仮面。
老婦人は懐からオカメを出してかぶりつつ、二人のオカメの懐からお金を抜き取り警察に通報する。
「強盗などとは品がないのう。こういうのはスマートにやるもんじゃ」
パトカーのサイレンが遠くに聞こえてくる中、二人のオカメを見下ろすオカメ。
真のオカメは強盗など品のない真似はしないのだ。
仮面強盗 花里 悠太 @hanasato-yuta
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