研修は終わりお寿司を食べます
「以上で、退魔師研修を終わります。真田君、村上君は正式に退魔師となりますので何かあれば私に連絡を下さい。では、失礼します」
礼をして出て行く藤原さんの背中を見届ける。そして、俺とイッキしか居なくなった部屋で静かに息を吐いた。
アレからちょうど1週間。色々あったなと記憶を辿る。
あの日藤原さんが迎えに来てソレからはあれよあれよだ。いつの間にか退職届は用意されていたし、アパート即日解約、荷物はこの県北地区退魔師会館に運び込まれていた。
いきなり退魔師研修が始まるし、1周間しか研修しないし。県北地区は俺ら二人だけだし。初めのうちはブラックの匂いしかしなかった。けど、夢とかロマンとか高収入とかそんな物が詰まった仕事がだった。
てか、腹減ったな。時計を見ると18時過ぎ。夕飯時だ。
「なぁイッキ...。寿司は好きか?」
「え?う、うん、好きだよ?」
「じゃあさ!じゃあさ!寿司頼もうぜ!で、待ってる間にこれからの事についてどうするか決めてね?」
「これからのこと...ね。分かった」
okと返事をして、お寿司屋さんに電話する。「特上2人前を桶2つで」あっ、やべぇ住所が分からねぇ。どっかに書いてねぇかな。おっ、あったあった。
悩む事なく一番高いのを頼むなんて100万円の力はすごすぎるな。支度金として俺とイッキ其々に100万円が支給された。
コレで装備を整えろってことだけど研修で色々と触ってみたけどいまいちピンとくる物がなかった。
「イッキ、俺武器買うからちょっと待って」
「分かった」
支給されたスマホには一つだけアプリが入っている、退魔師アプリと言う安直な名前のアプリをタップし起動する。
ファンシーなUIが目を引く。このアプリは1つで3つの機能―異界・通販・SNS―が使える。この良くわからないアプリの中でデフォルメされた刀、槍、和弓のアイコンを選択する。
この1週間暇があるときは出品されている武器防具の類を流し読みしていた。必要なのは重々承知していたが、如何せん値段が高い。一番安い刀でも50万で出品されている。
研修期間で刀を使わせてもらったが、とにかく難しい。抜刀・納刀が想像以上に難しい。そして斬るのに技術がいる。素人が扱うのに不向きだなと率直に思った。
時代劇の殺陣のようにカッコよく舞を踊るように扱えると勝手に思っていたのだが、現実はそう甘くなかった。
槍もなぁ。槍事態が大きく取り回しが難しのがどうしても気になってしまう。それに、異界に入ってしまえば問題ないのだが、入る前に武器を見られるのはあまりよろしくない。
まぁでも、異界に入れる時間が日が沈みきった後だから、そんなに考えなくても良いのかもしれないが......。それに、専用のカバーを作ったり、見た目を誤魔化すくらいはできるだろうけど、なんか嫌だな。気持ち的に。
となると小さめで便利そうな物ないかぁっと色々な武器が紹介されているのをどんどんスワイプして眺めていく。
「おっ!」
クナイ。ピンときた!1本20万円。出品情報の所にはクナイの簡潔な情報が載っていた。万能で軽くてそこそこ頑丈。ただし、投擲には向かない。
えっ?クナイって投げるの向いてないの?まじか。アニメの忍者を想像してたけどそうじゃないのか。いや〜どうすっかなぁ。見た目が好みなんだよなぁ。
けど1本20万は結構高い。いや、でも武器は大事だ!てかもうコレは俺のモチベーションが上がるから買う。
なので、ぽぽぽぽ〜んと操作して2本買った。合計40万円。高いけどコレは必要経費だろ。それにこれからどんどん異界潰して金は稼いでくし何とかなるだろ。
「ヨシ!終わった。待たせてごめん」
「あ、うん、大丈夫。何買ったの?」
「クナイ!2本買っちった。40万もしたから支度金半分なくなった」
「40万!えぇっ!そんなにしたの!?」
「イッキはさ、『異能』で色々出来そうだけど、俺は武器あったほうが確実に戦力upするからなぁ」
「確かにそうだけど...。40万かぁ...すごいなぁ。僕の『鉄』は創造するのに結構な時間使っちゃうから、今の所使い勝手が良くないんだよ。藤原さんが異能は慣れって言ってたから特訓あるのみかな。ユ、ユウ君の『纏い』なんて凄く良い能力だと思うな」
「いや、俺も良い能力だと思うけどさぁ...。俺もなんか魔法的なのやりたかったなぁって。まぁ、隣の芝生は青いってやつか」
「そうだと思う。僕らは新たな異能には目覚めないみたいだから、この異能をとことんまで磨くしかないんだよね。」
一般人と明確な違いであり、退魔師としての証が『異能』だ。異界を消滅させたからこそ目覚めた能力。
退魔師は全員が異能をもち、ソレを武器として異界の魔物を相手している。偶然迷い込んだ異界で、魔物を倒し異界を消滅させた証。
異界に偶然入り込んでしまうことは往々にしてあるらしい。分かる限りで行方不明者の3分の1はコレに該当するらしい。
日本の年間行方不明者数は約8万人。つまり、約2万7千人は偶然異界に入り込んでしまったことになる。そこから生還できるのは今までで年間10人を超えたことが無いとの事だ。つまり、俺とイッキが今生きてるのはかなり運が良かった。
藤原さんは言っていた「退魔師とは異界を滅する者」の事だと。「一般人でありながら異界を消滅させた為、陰でも陽でも無い人間の枠を外れた人間。その副産物として特殊な能力に目覚める」のだと。だから、もう新しい異能には目覚めないらしい。とても残念だ。
「話変わるけどさぁ、イッキは退魔師としての目標とかってある?」
イッキは「んーっ」と腕を組んで唸る。正直スマン。そりゃ答えにくいよな。俺も急にこんな質問されたら困るわ。
「んー......。正直退魔師としては今のところは無いかな。あっでも、お金は沢山稼ぎたい!」
「俺も!俺も金は欲しい!っとなるとさぁ、俺らが安全に潰せる異界は今の所『と級』までじゃん?と級1個一律5万だから、二人で折半するとして週1個潰せば月10万。週2個で20万。『へ級』まで手を伸ばせばもっと稼げるけどどうする?」
「どうしようね...。へ級は数が増えて範囲が大きくなるだけって藤原さんは言ってたけど、ちょっと怖いよね」
「じゃあ、今月はと級を最低週2個潰すのをノルマとしてへ級の準備をして行くか。死んだら元も子もないしな。」
「うん、そうしよう。明日行ってみる?」
「いや、明日は買い物しよう。欲しいものは支度金で買ってこの家での充実度をあげようぜ!あ、あとイッキは髪切りに行こうか!」
イッキは髪が長すぎる。特に前髪が鼻に掛かっていて視界不良すぎるだろ。それで前見れんのか?チラッと見た感じ可愛い顔してるのにもったいない。
「えっ、あ、髪かぁ...。そうだよね、短めに切ってくる。行きつけの1000円カットあるからそこで切ってくる」
「ちょっ、1000円カットって...。いや、ソコも悪くは無い。悪くはないが俺の行きつけの理容師んとこで切ってこい、カッコよくしてくれるから」
「う、うん。そこって、よ、予約とかって必要?」
「必要。あー俺が予約しとくから」
「うん、お願いします」
ちゃちゃっと予約しますか。「あ、もしもし真田ですけど明日って空いてる時間あります?あ、俺じゃなくて友達なんですけど、いけます?13時から?じゃあその時間で。名前は村上でお願いします」よし、これでOK。
「イッキ、13時からだって。だから此処12時半頃でるぞ」
「はやっ!12時半ね分かった」
「俺の車じゃなくて、支給された車で行くぞ〜。てかイッキは免許持ってる?」
「んっ、持って...無いです...」
「明日次いでに自動車教習所に入りに行こうか。俺もバイク乗りたいから一緒に通おうか」
「えっ!?お金は!?あっ...支度金があるか」
「嫌だったか?」
「あ、いや、別に嫌じゃない...。ただ...人が多いところは苦手で結構怖い...」
あぁ、そうかぁ。そういう感じか。これは悪いことしたなぁ、グイグイ行き過ぎた。あまり深くを聞かなかったしなぁ。いや、でも――
「もう怖がる必要なくね?もう俺らは普通の人間じゃないだし」
「あ、え、そう...かも。そうだよね、怖がる必要ないや」
「だろ!魔物に比べれば人間なんて大したことないって。じゃあ必要な物を用意して明日入学すっか」
「うん!僕頑張る!」
イッキはなんか可愛いな。後輩というより弟みたいな感じがしてついついお節介を焼いてしまう。必要なのかそうじゃないのか分からないけどな。
イッキの過去に何があったのか知らないけど、俺にとってイッキはすでに特別な存在だ。出会ったのは運命だ!なんて言ったら前までの俺だったらクサいしキメぇ〜なんて思ってはずだ。
でもさ、偶々あの時間あの場所で、偶々二人がすれ違った瞬間に異界が出来上がって、偶々二人で魔物を倒すことができた。これで運命感じない方がどうかしてる。
だからできるだけ力になりたいし、仲良くしたいなと思う。
そんな事を考えてるとビーと言う音が聞こえた。
おっ、寿司かな?
「イッキ、寿司きたかも」
「ホント!?」
「多分な。取りに行こうぜ!よーし今夜は寿司パーティーだ!」
どちらかと言えば主人公ではない彼等は退魔師という最高の仕事を満喫する @negimori
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