第21話


「──あれ、シャルル様……?」

 ララが寝台の上で目を覚ます。まだ窓の外は暗く、夜明け前であることが窺える。


 隣で寝ていたはずのシャルルがいないことに気付き、ララは体を起こした。


 そっと寝室から出て、シャルルの姿を探す。

(どこにいるんだろう……)


 執務室の扉から漏れ出す光に気付くと、そっと隙間を開けて覗き見た。

「……あ」

 小さく溢れた声に、椅子に座り書類に目を通していたシャルルが顔を上げる。


「……ララ?」

 目を見開いたシャルルが椅子から転げ落ちるようにしてララのもとへ駆け寄ってくる。

「何かあった?」

 慌てたその様子にララは数度瞬きをして、コテンと首を傾げた。

「いいえ、シャルル様がいらっしゃらなかったので……」

 ふわりと微笑んだララに、シャルルは眩暈がする。


(俺がいないから……?)

 まるで自分がそばにいないことに違和感を抱いているようで。

 ララの言葉にモジモジと恥じらう様子を見せて、シャルルは言葉を零した。


「俺はあまり眠らなくても平気な体だから……ララとの時間を無駄にしないためにも、君が眠った後、仕事を片付けていたんだけど」

 まるで言い訳のようにそう告げると、ララの顔を覗き込む。そんなララの表情は変わらず笑みを浮かべていた。


「私もここにいていいですか……?」

「えっ、でもララは身体を休めないと……」

 慌てたように手をパタパタと振る。否定してはいるが、頬を染めているその顔は“嬉しい”と言っているようなものだった。


「では、シャルル様も一緒がいいです」

「えっ」

「一人は寂しいじゃないですか」

 ララの言葉にピタリと動きを止めると、シャルルの長い睫毛が揺れる。


「……本当に?」

「はい、シャルル様と一緒に寝るのは好きです」

 一度人の温もりを感じてしまえば、もうすっかり慣れたはずの寂しさも心細いものだ。魔族領に来てから数日間、いつも寝る時には隣にシャルルがいた。

 だからこそ、彼のいないベッドはララをどこか不安に思わせたのだ。


 彼女の素直な思いに、シャルルは顔を赤らめてその無表情をほんの少し崩した。

「うれしい」

 その瞳の奥に、愛情が見え隠れする。ソワソワと落ち着かない様子のシャルルにララはクスリと笑った。


 無意識に腕を摩る仕草を見せれば、すぐにシャルルが羽織るものを持ってきて彼女の肩へ掛ける。

「……ララ」

 そしてそのまま、愛おしい存在をその腕の中に閉じ込めた。

「愛してる」

 ちゅ、と彼女の瞼に口付けを落とす。擽ったそうに身を捩ったララを見ると更に額頬へ唇を寄せ、何度もキスをした。


「俺も眠くなってきた。一緒に寝よう」

 未だ恥ずかしそうに……しかし嬉しさを隠しきれない様子で、シャルルはララの肩を抱く。

「はい!」


(……本当は“眠たい”のではなく、ララと共に“眠りたい”だけなのだけれど)

 愛するララの可愛らしいお願いを却下するなどという考えは彼の頭には塵ほどもなく、抱き寄せた体はそのままにゆっくりと寝室に向かって歩き出した。


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魔王様は愛妻家 向日ぽど @crowny

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