第15話 Father/ 勇者の父親

     15.Father/ 勇者の父親


「魔族は、人類の数を調整しているのか?」

「それだけじゃないんだけどねぇ……」

 金髪の少女は、そういってニヤッと笑ってみせる。

「魔族って、人族の能力がすごい……的な感じなんだろ? それだと殺人をしていることになるじゃないか」

「人族がどれだけ、人類を犠牲にしてきたと思っているの? 今の亜種が増えていく状況も、人族がうみだしているのよ」

「亜種を増やす状況を……?」

「猫人族や、水人族など、他の生き物と人族を合わせ、亜種をうみだしつづけているのよ。それは単純に興味、ということでね」

「人族は滅びに瀕しているのだろう? そんなことをする余裕が……?」

「だからよ。そもそも第三次世界大戦は、地球が環境的におかしくなってきて、色々な争奪戦がおこった。少しでも有利になるよう、兵器の開発もすすめた。その一端が魔法だった。

 そして遺伝子の人為的な改変という道に手を染めた。私たちのことも能力開発、とか言っていたでしょう? 遺伝子を弄って、元の形すら失おうとしている。そんな生物を未だに生みだしつづけているのよ」

 魔族の少女はそういって指をさしてきた。

「あなたもそうよ」


「勇者……。それも一つの種族ってことだね」

「あら? 驚かないのね」

「ボクの子供も勇者になれる、というなら、そういうことだろうと思っていたよ。魔族に対抗するために、色々と試す中で、他種族を生みだしていった。その可能性の中で生まれたんだろ。ボクが……」

 エレオノーラの説明でも、ボクの両親という話がでてこなかった。あくまで元の世界に行った時の、魔族による両親の話でしかなかった。

 ボクは勇者として生みだされたのだ。ただ、生まれた段階ではその力がよく分かっていなかった。しかし託宣により、凄い力を発揮することが予告され、それで誘拐されたのだ。

「ボクを殺そうとするのも……?」

「それは私たちの脅威になる、と言われているんだもの。他種族を滅ぼそうとするのと同じで、殺したくなるでしょ? でも、そう考える一派だけじゃないってこと。あなただって、それに気づいているから、私たちと接触したい、話したい、と思ったのでしょう?」

「勇者は魔族に対抗できる……。でも、勇者の子種は、魔族にだって授けられるんだって……」

「ふふふ……。この短期間で、そこまで分かったなんて、やっぱりあなたは特別なのかもしれないわね」

 魔法少女が近づいてきた。

「私はイーリア。これは魔装具といって、これをまとっていないと魔力が暴走し、死んじゃうの。だから、このままで……」

 彼女はボクに唇を重ねてきた。魔族だって人族の一つ。彼女たちが唱えるのは、歪みによって生みだされた種族を淘汰し、人の姿をとりもどすこと。多分、それは自分たちも……と考えている。


 人は欲望のまま生みだし、その失敗を後悔し、とりもどすということをくり返している。

 魔族を能力開発で生みだしてしまった。その失敗を取り返すため、様々な種族を生みだす、という過ちを犯しつづけ、その結果、一つの形として〝勇者〟という種族を生す、ボクという存在がうみだされた。

 ボクの力がどういうものか分からない。リセットされると能力を発揮する? そんなことを言われても、今生きているボクが、ボクなのだ。

 そうなると、勇者の力は子供において発揮されるのだろうか? 多分、ちがう。

 ボクがそうであるように、生まれたときから勇者となれる、と言われても、何の力ももたないように、勇者とはその人間のありようなのだ。訳もわからない力をつかえることではない。

 ボクはイーリアと関係することで、魔族側の意見を聞いて、さらにその意を強くした。

 ボクが勇者である理由――。それはこの世界に、平和をもたらすために力を尽くすということなのだ。

 誰かを倒して、一方の安寧を得ることがボクの存在理由ではない。今ある形を、人間が生みだしてしまった多様性という問題にケリをつけ、多くの種族が仲良く、平和に暮らせる世界をつくることが、ボクに与えられた使命だ。


 ボクはあれからも、ボクの世界と、この異世界を行き来している。でも、ちょっぴりこの異世界への滞在が長くなった。それは、ボクが大人になったから。元々、親の遺産で生きていけるようになり、ボクの世界ではお金の心配もなく生きていけるからだ。

 だから異世界にきて、今でも子づくりに精をだしている。そして、多くの種族にボクの子供ができた。

 そして、ボクはその子たちにこう教えている。

「色々な種族がいるけれど、互いの違いをみとめ、仲良く暮らしていかなければいけないよ」と……。

 生憎と、託宣にあったようにボクの子供の中に、勇者の力……といった特別な力をもつ者は現れていない。

 でも、ボクの子供たちが互いに顔見知りとなり、また親戚、友人として仲良くするようになって、少しずつ世界が変わり始めた、とは考えている。

 それは魔族も同じ。イーリアとの子が、魔族を説得して他種族との共存を訴えるようになり、少しずつ戦闘が減ってきた。

 そう、ボクの勇者の力とは、こうして他種族をまとめる存在となること、だったのかもしれない。

「まさか、こんな形になるなんて……」

 グランシールも、今ではボクとの間に生まれた双子をあやすようになった。

 ボクはもう、グランシールに守られることなく、二つの世界を行き来できるようになった。もしボクに勇者の力がある、というのなら、それはこうして世界を跨いで移動できることかもしれない。


 そして、元の世界でもボクは結婚している。荒木 汀奈――。学級委員長として、イジメられていたボクにも、気をつかってくれていた子だ。

 彼女との間にも、三人の子がいる。ボクが異世界にいくのも、お仕事にいく……ぐらいに考えているようだ。一応、彼女には事情を説明し、受け入れてもらっているけれど、こちらの世界の子供も、他種族、多様な人々と共存することを教えていかなければ……と思っている。

 ボクの子供たちが、いずれ世界平和を果たすことになれば、それはボクの子供たちが勇者なのだ。そしてそれを育て、大きくしてくれた彼女たち母親が、勇者という存在を育ててくれた、ということ。

 何も生まれたときの特別な力……なんて必要ない。正しく生きるように教えることで、世界を平和に導くことができるのだ。そして、ボクはそうなることを望んでいるし、子供たちにもそうなって欲しいと思っていた。

 そのとき、ボクのことはこう記憶されるのかもしれない。ブレイバーズ・ファザーと……。






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Braver's Father ~勇者の子種~ 巨豆腐心 @kyodoufsin

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