第14話 Dialogue/ 世界の真実
14.Dialogue/ 世界の真実
元の世界では、人の姿をとるけれど、こちらの世界では鎧となるはずのグランシールが、そこに横たわっていた。ただ、死者のように顔面蒼白で、血の気は一切感じられない。
「魔装具に、この子の魂を乗せたのさ。そう簡単に、こちらの世界とあなたの世界を行き来するのは難しい。鎧と人、二つの状態をとることで、自由に行き来することが可能となった。彼女がこちらに来ているとき、私はこの子と話をすることができるんだよ」
確かに、グランシールは骨伝導でボクに話しかけてくることはあるけれど、あまり多弁ではなかった。それは単に気をつかっている……と思っていたけれど、ここで老婆と話をしているとすれば、納得のできる話だ。
「ボクが……勇者?」
「正確にいえば、勇者の資質がある血をもつ者、だよ」
「ボクは向こうの世界にいること、が大前提だから、こちらの世界に長くはいられない。だからその血を継がせた子なら、勇者になれる……と?」
老婆は頷く。その話を全世界に、あまねく行きわたらせたことで、グランシールという鎧を身に着けたのが、勇者の子種をもつ、と認知された。そしてボクがこちらの世界と、異世界とを行き来することで、居場所を悟らせにくくすることにも効果がありそうだ。
色々な子と、種族を別けて子種をさずけているのも、勇者の資質をもつ子供、と気づかれても狙われにくくする、と考えてのことだろう。
そして、これが重要なことだ。
「魔族って、何ですか?」
そう、あらゆる種族から敵視され、またあらゆる種族を滅ぼそうとする。以前、出会った魔族は「ノマドを何のために滅ぼそうとするのか、知らないのか?」と、逆に質問してきた。
「この世界は、あなたのいる世界と、どこかで袂を別った。恐らくそれは、こちらで起きた第三次大戦だと考えている。そのとき魔法開発がすすみ、魔力をもった人々が誕生した。それが魔族だよ」
「魔法開発……?」
「そのとき、人間のあらゆる可能性を試した。その結果、人間が幼形進化を果たしたのさ」
「幼形……進化?」
「人間は、猿の幼形進化、とされる。サルの赤ん坊と人は似るだろう? 毛を失ったことや、二足歩行に適した身体、というのはサルの赤ん坊そのものだよ。昆虫も、多足類であるムカデのような生き物の幼形進化、とされる。
昆虫は幼形進化により、多様な種をうみだしたが、人間のそれはそうはならなかった。それが第二の幼形進化、子供っぽくなることと同時に、多様化を生んだ。昔はお伽話の登場人物……と思われた、そんな種族まで存在するようになった」
「魔族もそうした進化の一つ?」
「多分、ちがう。さっきも言った通り、魔法開発とは進化の形ではなく、能力の解放だからね。魔族は我らをノマドと呼んで、危険視するのも、きっと血の純化を考えているからだろうね」
今でも種族を越えて、生殖をしても子を生せる。人間が種の分化をはじめているとしても、犬のように完全に分化しているわけではないのだ。魔族が、別の種族との混血を望まない……のなら、単に接触を避ければよい話だ。相手を危険視し、滅ぼしてしまう理由とはならないはず……。
「あなたは一体……?」
「私はエレオノーラ……。グランシールは私の娘。そして私の祖母は、魔族だったんだよ」
「え⁉」
「言ったろう。魔族とは能力開発された人族だって。人族の中にも、魔力をもつ者がいるんだよ。そして、祖母がだしたのが、勇者到来の託宣だよ。その条件に合ったのがあなた。
しかし魔族とて、力をつかえば同じ託宣をうけられた。そこで、あなたは誘拐されて、この世界から消えた。あちらの世界へと移された」
「ボクのことを殺せない……と言っていたけれど、あなたたちでもボクを殺せたのでは? そうすれば勇者が誕生だ」
「そんなことをすれば、あなたは魔族としてこちらに転生するだろう。いずれにしろ誰も手をだせない。アンタッチャブルとなった」
「でも、魔族に殺されかけたけれど……」
「こちらの世界でみかけたから、だろうね。こちらにいるなら、殺しても向こうの世界で力を発揮するようになるだけ。恐らく魔族もあなたが世界を行き来している、とは考えていないのだろう」
あなたの子が勇者になる、とされるのは、転生と同じ効果をもつのでは? と考えられるからさ。〝勇者の資質がある血をもつ者〟とはそういう意味だよ」
遺伝子は、受精するとリセットされるようだけれど、それと転生が同じ効果をもつのか……?
「ボクがリセットされることが重要なら、わざわざグランシールに守らせなくてもよかったのでは?」
「転生を待つ……というのも一つの手だけれど、自然死や自殺したら困るし、それよりこちらで子づくりをさせた方が、可能性が広がる、と考えたのさ。転生したら一人だけど、子供なら何十人もできるからね」
なるほど、ボクに子づくりを優先させる理由が、よく分かった。
「でも、いつ子供ができるかなんて、分からないでしょ?」
「それはそうさ。でも、グランシールはいずれ分かるかもしれない……」
「どういうこと?」
「祖母の血を、この子が一番強く受け継いでいるからさ、だから魔装具に魂を移したり、異世界と行き来したり、向こうの世界でも、弱いながらも魔法がつかえたりしただろ?」
弱いながら? 不良グループを一瞬にして再起不能にするぐらい、強力な魔法をつかっていた。
「じゃあ、ボクを守っているのって……」
「魔装具の力じゃないんだよ。あれは魂を乗せる器、そこにグランシールが魂を乗せることで、あなたを守る力となる。今も、こちらの世界にくると、本体に移ることもできるはずだけれど、あなたを驚かせたくないんだろうね。真面目なんだよ、この子は……」
「ボクは魔族と会ってみたい」
エレオノーラはびっくりしたように、目を丸くする。
「かつて、人族だって魔族とは対話を重ねてきたんだろう? あなたの祖母もそうだったように、魔族といっても人族に協力する者だっているかもしれない。
特に、何で他種族を滅ぼそうとするのか? その理由を聞いてみたいと思っています」
エレオノーラも、ボクの決意が固いことを知ると、沈黙してしまう。色々と知りたい……その思いで、ここまでやってきた。まだ、人族の事情を聞いただけだ。魔族側の事情も知りたい、というのは自然なことだ。
ボクがその小屋をでると、一人の少女が立っていた。
「勇者の血をもつ者が、この世界にもどっている……と聞いて、いずれここに現れると思っていたわ」
金髪で、ふりふり衣装なので、すぐにわかった。それは魔族――。
「話を聞かせてもらえるかい?」
「なら、場所を変えましょうか」
魔族はボクの手をとって、空を飛んだ。そのまま山頂へと至り、辺りを見回せる場所にきた。
「グランシールはこんな場所、見せてくれないでしょう。見るがいいわ」
ボクも驚いた。そこからは、ボクが知るのより大分発展した、近未来の都市がみえた。でも、すでに放棄されてから長いらしく、緑に覆われ始めており、森になりつつあった。
「ほとんどの都市は壊したけれど、あそこは核にも耐えられる都市として設計され、しんどそうだから、そこそこに壊して放置したの」
少女はそう説明する。
「キミたちはどうして他の種族を滅ぼそうとするんだ?」
「滅ぼしたいわけじゃない。でも、多様性を獲得した人類は、地球を滅ぼすのよ。昆虫が一体、どれぐらいの種類に増えた? 今も急速に、種類も数も爆増している。それは人類も同じ。このまま増えたら地球全体がおかしなことになる。その数を減らすことが必要なのよ」
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