第13話 Confess/ 事情

   13.Confess/ 事情


 こちらの世界では、ふつうの朝だった。向こうでは一晩を過ごし、朝になっていたけれど、時間のすすみ方が基本、同じではないので、こういうことも起こる。

 こちらではまだ数日しか経っていないけれど、向こうでは数ヶ月だったり、向こうで十時間以上を過ごしても、こちらでは三時間ぐらいだったり……と。

 移動する場所もばらばらで、特に決まりはない。勇者の母親になれそうな女の子のところに行く、というだけで、だから偶然に魔族とバッティングしたり、余計な争いに巻き込まれたりする。

「朝食の準備ができましたよ」

 グランシールが起こしに来た。向こうでは鎧だけれど、こちらでは大人の女性で、ボクの世話をするメイド、の立場を貫く。

「もしかして、ボクが子種を授けるまで、向こうで待っていたの?」

「…………」

「向こうでの時間は限られる……と以前、言っていたよね?」

「…………」

「一晩、待てるのなら、これまでだってそうすればよかったのでは?」

「ご飯、冷めてしまいますから、早く……」

「誤魔化さないでくれ!」

 ボクが大きな声をだしたことで、グランシールもびくっとする。

「ボクを異世界に連れていく理由は、何なんだ……? 女の子たちとエッチをして、子種をさずけて……。それが、異世界を救うことになると信じていたけれど、半人半馬のケンタウロスと話をして、異世界は単純じゃない、と気づかされた。いい加減、本当のことを教えてくれ」


 グランシールは部屋の入口に立ったまま、どうしようかと逡巡しているようだ。

 ボクは近づいて、その腕をつかむとベッドに引き倒した。そのまま彼女に覆いかぶさり、メイド服の上からその大きな胸を鷲掴みにし、荒々しく唇を重ねた。

 グランシールは拒絶すらしないものの、戸惑っているようで、ボクのそうした行為を受け入れる。

 メリンとのエッチで、久しぶりに大人の女性と関係した。というより、これまで大人の女性はグランシールと、だけだった。

 各種族で、年齢に差はあったけれど、大体が大人になる直前ぐらいの女性と……が多かった。

 それは勇者の子種をさずけるのは、未婚の女性……特に、ボク以外の男とはエッチをする機会がないことが大きいようだ。

 人族のアルティオーラ――。

 エルフ族のレマ――。

 ドワーフ族のデリドラたち――。

 セイレーンのレレシア――。

 猫人族のミャロとミャム――。

 みんな、町や村が崩壊し、また男たちが戦いに駆り出され、彼女たちはエッチをする機会を奪われていた。

 だからボクが現れたとき、受け入れやすかった面はあるだろう。好きな人がいる、といった心のハードルがなかったからだ。


 ボクが勇者の子種をもつ、とは託宣によって示されただけ。その理由は未だに不明だ。

「そもそも、キミを遣わせたのは誰だ?」

「私は……あッ! 神官により……求められた……はぁぁぁ……。それだけ……」

 ボクにエッチを教えてくれたのは、グランシールだ。でも、ボクも経験値が上がって。彼女を感じさせることができるようになった。その大きな胸を揺らし、ボクの突きに彼女は一回、一回頭を反らし、ボクが到達するのを確認するように目を閉じて、小さく嗚咽を漏らす。

「私は……あなたの……鎧。……あぁ、導き手……。余計な……情報は……」

「余計じゃない。ボクが……ボクであるために必要なことだ」

「あぁぁぁぁッ‼」

 グランシールはイッた。彼女は前回、あくまで教育係として自分のことよりボクにエッチを仕込むことを優先していたので、ボク一人がイッた形だった。でも、今回はちがう。

 元々、ボクの拙い指使いでも反応していたように、彼女は感じやすいタイプのようだ。そしてボクも色々な子と体験することによって、テクニックもみにつけ、グランシールを感じさせられるようになった。

 彼女は荒い息遣いで、胸を大きく上下させる。絶頂からの余韻を愉しむように、目を閉じてじっとしているのが、妙に愛らしかった。いつもボクに指示をだし、冷たい印象すら与える彼女が、女性にもどった瞬間でもあった。

「ほら、教えて。そうしないと、ボクはもっとキミでだしちゃうよ」

 ボクは再び腰を動かしだす。

「ダメです。子種は大切に……。あッ!」

 まだ余韻の中にいるグランシールは、ふたたび始まった胎動に、もう抵抗する力もないようだった。


 ボクはいつでも、何時間でも異世界に行けるようだ。でも一々もどる、という戦略をとった。その理由は不明だけれど、彼女にそうするよう指示をだした何者かがいるはずだ。ボクはその相手、つまりボクが『勇者の子種をもつ』と託宣をだした、神官に会う必要を感じていた。

 ボクは異世界に行くとき、こちらで全裸となり、グランシールに手をひかれ、部屋をでる。すると、向こうではグランシールをまとった状態……要するに服を着た形となるわけだ。

 協力しないことを匂わせたため、とある小さな、古い祠のあるところに来た。

 驚いたのは鳥居もあり、日本を思わせることだ。もっとも、ここは並行世界というのだから、お堂がのこっていても不思議ではない。

「おやおや。連れてきてしまったんだね」

 そこに現れたのは老婆だ。といっても、よぼよぼという感じではない。ただ顔に刻み付けられた深い皺は、苦労をしてきたことがうかがえ、それが年齢をより高く見せる原因だ。

「あなたが託宣をうけた老婆?」

「そうなるかね」

「ここでその託宣をうけたの?」

「それは正確じゃない。ま、立ち話もなんだから、こっちに来なさい」


 祠の近くに、小さな山小屋があって、森にうずもれたそこで、老婆は暮らしているようだ。

 家の中は囲炉裏がある部屋が一つだけの、簡素なつくりだけれど、老婆は白湯をだしてくれ、それから話をすることとなった。

「こんなことを教えたら、きっとあなたは絶望すると思った。だから隠した。あなたは元々、この世界の人間なんだよ」

「え? だってボクは……」

「向こうの世界の両親に育てられた、だろ? そこが間違いなんだ。勇者として誕生したのは、あなたなんだよ」

「……?」

「しかしその資質が開花する前に、魔族に奪われて異世界へと連れていかれた。あなたを育てていたのは、魔族だよ」

「待ってくれ。魔法なんてつかえなかったよ」

「それはそうさ。こっちの魔法は、向こうの世界ではごくわずかな力になるんだよ。グランシールが、そちらの世界では人間にもどってしまうようにね」

 もどる……? ボクも驚いたけれど、考えがまとまる前に、老婆はこう告げた。

「魔族にとって誤算だったのは、あなたを殺すと、こちらの世界に転生して、強力な能力を開花させ、魔族を凌駕してしまうことが。それが分かったから、あなたが自死するか、寿命で亡くなるのを待つしかなくなった」

 それで虐待を……。

「あなたは異世界に転生すると、勇者としての能力に目覚めるらしい。そうなると、こちらの世界にあなたがいる状態で殺されてしまうと、向こうの世界で勇者の力を目覚めさせることになる。だから、あくまで所属は向こうの世界で、こちらの世界は仮の居場所、とするのがよいと決めた」

 それでボクは、元の世界により長く滞在させるよう、気をつかっていたのか……。

「でも、待ってくれ。そこまで綿密な情報を、グランシールとやりとりしていたのか? いつ?」

「いつでも、だよ。私はグランシールと、いつでも会話できるんだよ。ほら」

 老婆は押し入れのようになったところの、襖を引き開けた。すると、ボクもびっくりする。そこにはグランシールが、人の姿で横たわっていたからだった。






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