第14話 傘の下の秘密

 東京郊外にある、私立高校の昇降口。

 ガラス扉の向こう側は、突然の大雨で白く烟って見えた。

 部活や委員会の活動がない週の真ん中の放課後は、早々に生徒の姿が校内から消えて静かになる。

 俺もいつもならもう家にいて、ポテチでも食べながらのんびりしている時間なのに、進路のことで担任に呼ばれたせいで遅くなってしまった。

 靴を履き替え、学校指定のリュックから折り畳み傘を取り出したところで、よく知っている二人の姿が視界の端に入ってきた。

 二人とも同じクラスの人間で、そのうちの一人は俺が中学校入学の日に一目惚れし、今も一方的に思い続けている男——倉橋隆義——だ。

 二人は親密な雰囲気で、なんとなく声をかけにくい。

 時々内緒話をするかのように耳元で囁き合い、楽しそうに笑っている。

 そういえば中学の頃、二人は付き合っているのではと思うことが度々あった。

 ただの友人というには少し、二人の距離が近すぎるのだ。

 単に二人の距離感がバグっているだけなのか、それともそういう関係なのか、本当のところは俺にはわからない。

 倉橋がリュックから折り畳み傘を取り出して開き、もう一人の男の頭上にかざしている。

 二人一緒の傘に入って帰るのだろうと思って見ていたら、その傘を相手に握らせて一人で帰らせてしまった。

 倉橋が一人になったところで俺はわざと足音を立てて近づき、人ひとり分の距離をあけて隣に立ったが、倉橋は驚く様子もなく、チラリとこちらを一瞥しただけだった。

「で、お前はどうすんだ?」

 そう聞きながらバサバサと傘を広げていると、ふわりと空気が動き、倉橋が俺のすぐ隣に立った。

「キミの傘に入れてもらう」

 男にしては薄い肩を、俺の二の腕に押し付けるようにしながら倉橋が言った。

「ずうずうしいな」

 俺は冷然と答えはしたが、本当は、鼻腔をくすぐる柑橘系の香りに理性を持っていかれそうになっていた。

「突然の雨で、しかもこれだけ土砂降りなんだから、男二人で同じ傘に入っていても変な目で見られることはないだろうし、それに」

「それに?」

 倉橋は答えることなく、黙って俺から傘を奪うと、俺の胸元を軽く押した。

 不意打ちを喰らった俺は少しよろけ、すぐ後ろにある太い柱に背中が当たった。

 なにすんだよ、と言いたかったが、それを声に出すことはできなかった。なぜなら、倉橋の柔らかな唇が俺の唇を塞いだからだ。

 傘で自分たちを覆い隠すようにしながら、倉橋が少し掠れた声で囁く。

「キミの傘は大きいから、目隠しにもなる」

 俺の脚の間に太ももを割り込ませ、体を密着させた倉橋の体温が、制服の布越しに伝わってくる。

「こんなところ誰かに見られたら、毎年学級委員をやっているような優等生のお前は困るんじゃねえの?」

 服の中で少しずつ形を変えようとしているものから意識を逸らすため、俺は倉橋との会話を続けた。

「困りはしない。それに、僕はキミたちが思っているほど優等生ではないよ」

 耳元で内緒話でもするかのように言いながら、倉橋がゆるりと腰を動かした。太ももに当たる硬い感触が、俺の理性のほとんどを吹き飛ばしてしまった。

 今いる場所が外であることなど構わず、俺は倉橋の唇を貪り、こぼれた唾液を追って白い首筋にしゃぶりついた。

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