少女小説的お姫様ロマンス
カズノコ
完結編
チェルシーはルーン王国のお姫様。ある日、彼女は伝説的な魔法使いの息子であるマルコに一目惚れをしてしまいましたが、お目付け役のレナードは「あり得ない」と怒り心頭の様子です。それでも彼女の思いは止まりません。だって彼……すごくかっこいいんだもの。
「わたし、マルコと結婚するわ!」
チェルシーは大声で叫びました。でも、この発言にレナードも、チェルシーの父も怒りは止まりません。結婚なんてまだ早いし、マルコなんて危険すぎる! と。
「なんなのよ……どうしてそんなこと言うの? あなたなんかただの雇われじゃない! それに何より、あの人は誰よりもかっこいいもの!」
チェルシーは喚きながら部屋を出て行きます。すると、廊下でテイラーに出くわしました。何かにやにやとした笑みを浮かべています。
「また怒られたみたいだね?」
「えっ…………どうせわたしのこと馬鹿にしてるんでしょっ!」
「いや、違うってば」
テイラーは彼女の頭をポンポンと撫でます。そして耳元で何かを囁くように言いました。
「へ…………?」
突然の言葉にチェルシーは思わずぽかんと口を開けてしまいました。それを見て、彼はさらにニヤッと笑って続けます。
「君がもう少し大きくなったら、その時に言えばいいさ。それまでは俺が代わりをしてやるから」
そう言って彼は去っていきました。
「ちょ、ちょっと待って! どういう意味よ!?」
チェルシーは慌てて彼のあとを追いかけようとしますが、今の彼女はドレス姿。走るわけにはいきません。仕方なく歩いて後を追うことにしました。
すると、今度はレナードと出くわしました。
彼はチェルシーを見るなりこう告げます。
―――お前はもう立派なレディなんだから、もっと淑女らしく振る舞えないのか? まぁ、それはともかくとして、今は急いでいるから手短に伝えるぞ。いいか、今すぐ王宮に戻ってこい。国王陛下がいらっしゃっている。
それだけ言うと、レナードはすぐにどこかへと行ってしまいました。残されたチェルシーは呆然と立ち尽くしています。
しかし、すぐに我に返りました。
そして、父がいるであろう場所を目指して駆け出します。
(どいつもこいつも勝手なことばかり言って……。一体何様なのよ)
そんなことを思いながらも、チェルシーの心の中には少しだけ嬉しさもありました。なぜなら、彼女にとって両親はたったひとりの家族だったのですから。
こうして彼女は両親のもとに向かいました。ところが、そこには信じられない光景がありました。
なんと両親が何者かに襲われていたのです! 彼らは床に転がされていました。ふたりとも意識を失っています。
――まさか……暗殺者!? 恐怖を感じつつも、両親の身を守らなければという気持ちでいっぱいになりました。彼女は勇気を振り絞って敵に立ち向かいます。
魔法を駆使してなんとか撃退することに成功したものの、同時に自分も傷ついてしまいました。痛みに耐えつつ、彼女は自分の部屋に帰ります。
すると、そこにはテイラーの姿があったのです。
彼も怪我をしていましたが、チェルシーほどではありません。
どうやら彼は彼女の様子を見に来たようです。彼は心配そうな顔で彼女に近づきました。
――大丈夫かい? 痛むだろうけど手当てをしよう。その言葉を聞いて、チェルシーはあることに気づきました。先程テイラーが言った言葉を思い出したのです。
――君がもう少し大きくなったら、その時は俺が代わりをしてやるから。
そこでようやく理解したのです。彼が何を言っていたのかということを。
だからチェルシーは笑顔で彼に言いました。
――ありがとう、テイラー。じゃあ約束通り、代わりに私の夢を守ってね! それから数年後のこと。
ある晩餐会での出来事でした。ルーン王国では毎年盛大なパーティーが催されており、国中の貴族が集まってくるので大賑わいとなります。もちろん王族も出席し、交流を深めるので大切な行事なのです。
そんな大舞台に、若き日のチェルシー王女が現れました。彼女は美しいドレスに身を包み、堂々と会場の中央に立っています。
――彼女が噂のチェルシー様だわ。
――なんてお綺麗なのかしら。
周りの人々は口々にそう呟きます。
それを聞いたチェルシーは満足げに微笑みました。そして、隣にいる人物に向かって小声で話しかけます。
――ねぇ、テイラー。わたしのお願い聞いてくれてありがとね。おかげでみんなに褒めてもらえたわ! すると、相手はニッコリ笑って答えました。
――ああ、本当に良かったよ。これで君は自由だ。これからは好きに生きればいい。
そんな会話をしているうちに、いつの間にかダンスの時間が訪れました。すると、周囲から声が上がります。
――あら、ご覧になって! マルコ王子よ。
――まぁ、なんて素敵なのでしょう。
そう、なんと現れたのは伝説の魔法使いの息子、マルコだったのでした。彼は優雅な身のこなしでチェルシーの前に立つと、優しく手を差し伸べます。
――お嬢さん、私と踊ってくださいませんか? その瞬間、周りにいた人々からは感嘆の声が次々と上がりました。
――素敵だわ。まるで絵のようだわ。
――とてもお似合いのおふたりね。そんな中、チェルシーは満面の笑みを浮かべながらこう言いました。
――喜んで! そして、ふたりは踊り始めます。
その様子を見て、誰もがこう思ったことでしょう。
このふたりはきっと結ばれるに違いないと。
しかし、実は違いました。
チェルシーは心の中でこう思っていたのです。
(……でも、やっぱりわたしには無理みたい。だってわたし、本当はあなたのことが大好きなんだもの)
その想いを伝えることはできませんでしたが、彼女は幸せな気持ちで満たされていました。
こうして彼女は新たな一歩を踏み出したのです。
――好きな人と一緒にいられるだけで幸せだよ。――俺も同じ気持ちだ。
――えへへっ、嬉しい!
――俺もだ。
――ずっと一緒だよねっ?
――もちろんさ。俺はお前のことを愛しているんだから。
――えへへっ、ありがとう!
――ほら、もっとくっつけよ。――うん、わかったー!
――おい、あまりくっつくなって。――どうして?
――………………。――ふぅん、そういうことなんだ。――ち、違うぞ!?
――いいもんいいもん。もう知らないから!――待ってくれよ、俺の話を聞いてくれってば!
――やだ! 絶対聞かないもん!
――頼む! ちゃんと話し合おう!
――ふん、知らないったら知ーらない!
――……。――分かったよ、降参する。だから機嫌直してくれよ。――やった! 許してあげる!――ははは、相変わらず単純だな。まあ、そこが可愛いんだけど。――えへへ、ありがとう!
――あ、そうだ。ひとつだけ約束してほしいことがある。――なになに、何でも言って!
――絶対に浮気だけはしないでほしい。――当たり前じゃん! そんなことしてる暇があるなら、あなたのために時間を使うわ!
――本当かなぁ。――何疑ってるの!?
――冗談だって。信じるから怒るなって。――う〜ん、じゃあ信じてくれるって言うまでキスしてくれたら許す!
――は? 何を言い出すんだよ。――いいから早く!
――仕方ないな。――えへへ、ありがとう!
――これで満足か?
――うん! すごく満足したよ!
――そうか。それは良かった。――ねぇねぇ、もう一回して欲しい!
――ダメだ。――ケチ!
――はいはい、分かりましたよ。じゃあ今度は頬っぺたにしてやるから我慢しろよ。――やだ! 唇がいい!
――贅沢を言うんじゃありません。――ぶー。――あ、そうだ! じゃあせめてぎゅーって抱きしめて!
――はいはい。――えへへ、温かいね!
――ああ、そうだな。――……あのさ、できれば頭を撫でて欲しいかも。――はいはい、了解しましたよ。――えへへ、幸せだなぁ。
――ああ、俺もだ。
――これからもずーっと一緒だよね?
――もちろんだ。約束しよう。――わーいっ!
――約束だぞ。――うん! もちろん!
――よし、良い子だ。――わわっ、ちょっと苦しいよぉ。――悪い悪い。つい嬉しくて力を入れすぎた。――むぅ、ひどい!
――悪かったって。――じゃあさ、今度こそ本当の約束してくれる?――ああ、約束するよ。――本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に……
――ずっと一緒にいるよ。
――……。――えへへ、ありがとね!
――どういたしまして。
――これからもよろしくね!
――こちらこそ。
――えへへ、嬉しいなぁ。
――俺もだよ。
――これからもずっと一緒だよね?
――もちろんさ。俺たちはいつまでも一緒だ。
――うん! 約束だよ?――ああ、約束だ。
――絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対の絶対に……
――俺がお前を幸せにするからな。
――……えへへ、嬉しい!
――約束するよ。ずっと傍にいる。だから安心してくれ。
――うん絶対だよ
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