厨坊ですが何か?大人ってそんなに偉いの?ただ長く生きてるだけじゃないの?偉いってなら、じゃあ何で世界を救わないの?ねぇ何で?そんなに偉いなら、さっさと世界を救いなよ?出来ないなら黙って見とけ!
chomocho@処女作執筆中
第xx章 戦争勃発
運命のヒト
第xxx話 大人って、そんなに偉いのかよ?
「そうかよ……。だがな!だったら、俺に頼るな!」
マジでムカつくんだが?
こいつら大人達ってやつは……どうして、こうも馬鹿なんだ?
「そんな偉そうにモノを言うなら、お前ら大人が!お前ら自身で何とかしろよ!問題を何一つまともに解決出来ないクセに!何が大人だよ!?よくそんなんで偉そうに振る舞えるな!?」
──ダンッ!!!!!
痛っ……勢い余って、会議テーブルを強く叩き過ぎた。
だけど、こうでもしなきゃやってらんないよ。
馬鹿馬鹿しい。
「な、なんという言い草だ!使徒様だと思って、お前には今まで良くしてやったろう!それを……ガキが付け上がるなよ!?貴様の様なガキが使徒様である筈が無いわ!大人を馬鹿にするなど許される事では無い!貴様は一体、何様のつもりなのだ!」
逆ギレかよ。
ちょこっと、正論を叩き付けたらこうだ。
これが……偉い偉い大人サマだって?
ほんと下らない。
反論出来ない正論を突き付けると、いつだってこうだ。
子供相手に逆ギレして、勢いで押し切ろうとする。
子供は大人に怯えるものだと信じ切っていて、だから怒り狂って筋違いな発言をするのだろう。
「厨坊ですが何か?大人ってそんなに偉いの?ただ長く生きてるだけじゃないの?偉いってなら、じゃあ何で世界を救わないの?ねぇ何で?そんなに偉いなら、さっさと世界を救いなよ?出来ないなら黙って見とけ!」
それに使徒様だって?
そんなもん俺には関係無い。
そもそも、俺自身で使徒だと名乗った事など無いからな。
お前らこの世界の大人達が、勝手に俺の事を『使徒様』と呼んで勝手に持て囃してきただけだろうが。
それも、何時だってお前ら大人達にとって都合良く、只のコマとしてコキ使おうとしてきただけじゃねぇか!
今まで良くしてやった?
それはこっちのセリフだっての!
お前ら大人達のメンツというものも一応考えて、角が立たないように、だから俺は、今まで放浪の旅へと出ていたってのに。
俺がこの国へ戻ってきたのは、旅の途中で出会った仲間達が住んでいる国だからだ。
お前ら大人達の都合に合わせて戻ってきてやった訳じゃ無い。
事情が事情だから、せめて協力でもしてやるかと、そう思って顔を出してやったってのによ!
「ぐぬっ……!こ、この……クソガキが!」
ははっ。
遂に、暴言しか出てこなくなったか。
こちとら正真正銘、只の厨坊、クソガキですよ?
クソガキに向かってクソガキって吐き捨てれば、事態は解決するとでも思っているんですか?
偉い偉い、とっても偉いハズの、大人サマなのに?
偉くても脳味噌は発酵しすぎて腐ってるのかな?
賢さゼロなんですか?
ゴブリンだって、もう少し頭使って行動しますよ?
「ま、そこまで言うなら、好きにしたら?クソガキだと侮辱するくらいだもんな。俺の協力なんて必要無いって事だろ?な?」
さぁ、何て応えるのか。
この異世界の文明は、地球に比べたらかなり遅れている。
街の見た目は古・ヨーロッパって感じだし、まぁそれはそれで俺的には見応えが有ってとても興味深いんだが。
だけど、見た目だけじゃなくて社会の構造も古臭いのが問題だ。
封建社会で、完全なる縦社会。
それも男尊女卑が当たり前で、奴隷制度まであるからな。
地球でも昔はそうだったらしいが、現代人、22世紀で生まれ育った俺にしてみれば、糞すぎる社会だ。
豊かな人が圧倒的に少なく、ほんの一握りの特権階級を除けば世界人口の99%以上が貧しい労働階級なんじゃなかろうか。
それも、女と子供を含めて、だ。
子供に大して、まともに教育を施そうなんて思考が無い。
子供は大人に従って、言う事を聞くのが当たり前。
しかも、労働力として働かされるのが当たり前の社会。
そんな社会に、俺みたいなリベラルなガキが転移してきてしまったのだから大変だ。
この世界の文明レベルは、良くて地球の中世レベル。
22世紀人の俺からしてみたら知識は糞ほど遅れているし、常識というものでこの世界の大人達と共感する事など、絶対に有り得ないんじゃないかとすら思える。
「く、くそが!ガキのクセに、舐めた口を利きよって!」
ほ~謝るとは思えなかったが、引き下がりもしないと。
それが、こいつら『偉い大人』の答えなんだな?
良いだろう、よ~く解った。
「確かに、俺はお前らに謝れとまでは言ってないしな。謝罪が無いのは別に構わないが……俺はせめて黙れと言ったんだ。なのに偉くて賢いハズの大人サマが、そういう態度を取る、と」
俺の協力は必要無いから暴言を吐いたんだろ?
俺の力が必要なら、せめて、黙るべきなんだからな。
まさかこんな簡単な事が、賢いハズで偉いハズの大人サマに理解出来ないハズが無い。
「な、何が言いたい!」
「アホくさ。協力する気が失せたわ。もう、お前らだけで好きにやってれば良いよ。勝手に、いつまでも戦争続けてれば?俺はもう、お前らには何も協力しねぇから。じゃ、帰るわ」
こいつら馬鹿な大人達は黙らなかった。
つまり、俺の提案を蹴ったという事なんだから。
今のこの国、リグレイト皇国は、メルデシナ共和国という隣国から侵略戦争を仕掛けられている。
世界を放浪する中、その噂を聞いた俺は、急いでこの皇国へと駆け付けた。
駆け付ける途中で、多くのメルデシナ軍を追い返してやった。
だが、大国が擁する大軍は、俺が追い払った数などモノの数に入らないと言った程度のものでしかない。
この国のお偉い大人サマ達の事を俺は好きじゃないが、世話になった人や仲間として共に行動したヤツらが沢山住んでいるし、だから、俺はこの国を救おうと思った。
その為には、個人的な感情は押し殺してこの国の軍部と協力してやる必要が有ると思ったからこそ、俺はこうして……気が進まないのに皇国軍の会議へと参席してやったってのによ。
ま、それももう終わりだ。
ほとほと、俺は呆れ果てた。
あとは好きにやってくれりゃ良い。
俺は俺の、大切だと思える人だけを救うとしよう。
この国がどうなったって、俺は構いやしない。
この国からしてみたら、メルデシナ共和国を蛮族的な扱いをして馬鹿にしてたりするが……俺からしてみたら、この古臭い世界の中で共和制を取っている分だけメルデシナの方がマシかもしれないんだからな。
国に住む下々の者からしてみたら、国を統括する上層部が誰になったところで大差は無いだろう。
つまりだ。
俺は俺の大切な人だけを護り、戦争が終わるのを待っていれば、どちらが勝つにせよ、俺にとっては大差の無い事だ。
昔からこの国に住む者、その中でも特に、偉いとされる大人達にとっては大違いなんだろうけどな。
まぁ、どちらが勝つにせよとは言ってみたが……実際には皇国が負けるんじゃねぇのかな。
駆け付ける中、助けた皇国軍の兵士から聞いた噂話だが、あっちには『覚醒者』が付いてるらしいからな。
種族覚醒者、それはこの異世界の人類種と呼ばれるヒト型の知的生命体の中から時折現れる、存在進化を果たしたと言える上位種族の事だ。
俺みたな地球人からすると人間でしかないが、こっちの異世界だと
鬼人族が覚醒すれば『鬼神』で、獣人族なら『獣神』と呼ばれるし、エルフやドワーフみたいな妖人族の場合は精霊を憑依出来る様になるらしい。
その場合は『ハイエルフ』や『ハイドワーフ』ってな感じだ。
まぁなんにせよ覚醒者ってヤツは、普通の人類種と比べるのが愚かという程に、遥かに強い存在らしいからな。
だからこのまま俺が参戦しないなら、恐らくこの国は滅ぶ。
逆に、俺が参戦するなら……正直なところ絶対に勝てるとまでは言わないが、負ける事も無いと思う。
この世界の魔法は、地球の知識と妙に親和性が高いからな。
魔法の扱いにおいて、俺よりも上手い奴を俺は見た事が無い。
そのくらい、俺はこの異世界において魔法上級者だ。
この国の大人達が言うには、俺くらい魔法を扱えるなら魔導師ってヤツになれるとかって話だが、俺は断った。
結局のところ、どんな称号を得たとしても、この国の大人達に利用されるだけでしかないからな。
そんなの、こっちからお断りだぜ。
「ま、待て!き、貴様、まさか皇国を見捨てるつもりか!?」
はぁ……。
「本当に、お前の頭には脳味噌詰まってんのか?俺が見捨てたんじゃないだろ?俺が見捨てる様に、お前ら大人達が誘導したみたいなもんだろ。俺に協力をして欲しいのなら、お前らの態度はおかしいってのが判らないのか?」
「ば、馬鹿なっ!貴様、皇国を裏切るなど許される事では無い!出会え出会え!もはや使徒様とは思わぬ、捕らえよ!」
うっわ……嘘だろ?
いや、もはや、こいつら程に頭の悪い大人の判断なら、こうなっても仕方が無いのかもな。
いや……頭が悪いってより、社会構造からくる固定観念に囚われ過ぎていて、大人である自分の方に非が有る等とは、到底思い至りもしない、という事だろうか。
そうだな、せめてそうであって欲しいところだ。
そうでなきゃ、いくらなんでも頭が悪すぎて救えない。
「あのさぁ……。今更かもしれないけど、あんたら、本当にもう少し頭を使って考えた方が良いぞ?子供だからって、ぞんざいに扱うのは間違ってる。子供の中にも賢い者はいるし、子供の中にも強い者はいる。実際、お前らは覚醒者に対抗出来てないから、戦争で俺に協力して欲しい訳だろ?その唯一の対抗手段である筈の俺を、お前ら程度の馬鹿で弱くて脳味噌の代わりにウンコでも詰まってそうな奴らがどうするって?捕らえる?出来るのか?」
「ぐ、ぐぬぅ……!な、生意気なっ!」
命令を受けた、只の兵士達は顔を見合わせて狼狽えるのみ。
そりゃそうだ。
平時から訓練を含めて戦う環境に身を置く兵士達は、俺の強さを良く理解している筈だからな。
過去には模擬戦をしてやった事も有るし、覚醒者でもない兵士が何人集まろうとも俺の敵なんかじゃないからな。
「偉い筈のお前なんかより、普段は命令される側でしかない、偉くない筈の兵士さん達の方が余程賢いらしいな?」
兵士としては、本当に俺を捕らえるつもりで戦うのなら、命の覚悟をしなければならない筈だ。
命の懸かった兵士達は、賢いもんだ。
冷静に、俺の戦力を理解して、自分自身の命を守る為に踏み止まっているのだから。
ほんと、馬鹿な大人ってのが多すぎて困る。
『それが当たり前』って考えを持ったら終わりなんだろうな。
自分は命令する側、偉い側、だからそれ以外の者は自分の命令に従って『当たり前』って、そう思うからこそ、こんな馬鹿げた発言を出来るのだろうし。
マジで、俺にはそれが信じられないけどな。
大人になるって、馬鹿になるって意味なのか?
厨坊でしかない俺に、誰か答えて欲しいくらいだぜ。
「ええい!何故だ!何故動かぬ!?早くそのガキを捕えろ!」
日和って、動こうとしない兵士達。
兵士に罪は無いし、俺としても兵士さんとは戦いたくない。
出来れば、このまま動かない事を願う。
「ってかさ、そもそも、俺を何の罪で捕らえる訳?俺はお前らに対して、好きにしろ、勝手にやってろって言っただけじゃね?何の罪だよ?それとも、罪なんか無くても強権を振り翳す訳?」
俺が、明確にこの国に対して叛意を向けたならともかく、俺は協力しないと宣言しただけだ。
一応、この国にも拙いながら法律ってもんが有るらしいが、その法律には子供相手なら何をしても良いとでも書かれていたりするんだろうか?
「罪状など、どうとでもなる!私を誰だと思っている!皇国の国防、その一翼を担う辺境伯だぞ!?」
「へぇ?それで?この国の法律的には、罪状が無くても好き勝手にガキを捕らえて問題無いと?」
「法など関係無い!今のお前に許されるのは、大人しく投降するか、大人しく我々の作戦に協力するかのどちらかだ!」
……はぁ。
ついさっき、ほんのついさっきだぞ?
お前ら程度じゃ、俺を捕らえれないだろって指摘してやったばかりだと言うのに。
どんだけだよ?
どんだけオツムが弱いのよ?
頭に血が上った大人って、こんなにも馬鹿なのか?
まぁ……地球でもそうだったかもな。
コンビにやスーパー、デパートなんかで、無茶苦茶な事を言って激昂してるのってオッサンとかオバサンとか、ジジイババア、ともかく大人ばっかりだしな。
子供は親に我儘言って泣き喚く事は有っても、店員に対してブチギレてんのとか見たこと無ぇし。
突然ブチギレて論理無く自分の意思だけを押し通そうとするとかさ、どこぞの半島の風土病患者かよ?
マジでこのおっさん、ウンコだわ。
さっさと家に帰ってウンコはウンコらしく、ウンコ酒でも飲んでウンコして寝てろっつーの。
「法が関係無い、ね?お~い、兵士さん、聞いてたよな?このオッサン、神皇サマに叛意を示したぞ?捕らえなくていいのか?この国の頂点、神皇サマが定めた法を無視するってよ?」
法を蔑ろにするというのは、法を定めて法を施行している、最高権力者である神皇を蔑ろにするのと同義だ。
頭が弱いヤツは別問題だと主張するのかもしれないが、複雑高度に発達した先進的社会ならともかく、封建社会みたいな、権力者が好き勝手に権力を振るう社会でなら同義だろう。
「なっ!?き、貴様……っ!小賢しい事を!」
「小賢しい?俺は小賢しいんじゃなくて、単純に、あんたみたいなウンコより賢いだけだ。感情に任せて喚き散らすだけの、状況を把握出来ず大して価値の無い頭を下げる事も出来ない、ウンコ並の脳味噌のクセしてプライドだけはデカいあんたよりな」
さて、言いたい事は言ったし帰るか。
「ま、待て!お前がいなければ我が国は……」
はぁ?
あれだけ俺の事を雑に扱っておいて、待つわけ無ぇだろ。
無視だ、無視。
馬鹿に付ける薬は無いって言うし、こんなウンコ並の馬鹿を相手にいくら話そうとも、時間を無駄にするだけだ。
大して価値の無い頭を下げれば、お願いする相手が気分良く仕事が出来る様になるかもしれないってのにな。
それが出来ない大人ってどうなのよ?
偉ぶるだけ偉ぶって、結果として交渉すら上手く纏めれないとか無能過ぎてヤバくね?
お願いする相手である、俺の気分を害する様な発言と態度を取るとかマジで意味不明過ぎるっつーの。
まぁ何でもいいや。
もう、こんな所に用は無い。
俺は急いで、馴染みの奴らに声を掛けに行くとしよう。
「はいはい、お疲れさん。俺は帰るから。そこにいるウンコ、早く捕らえて処分した方がこの国の為だぞ?じゃあな」
呆気に取られて動けないでいる兵士さんに一声掛けると、俺は会議の場を後にした。
◆
「糞がっ!」
──ヒュイーーーーーッ……パチチッ!
コイルが、甲高く鳴る様な音。
その様な音が、静かな湖畔に、静かに響いたかと思えば。
一瞬の放電音。
──ドゴァァァアアアンッ!!!
そして、遠く離れた位置から、遅れてやってくる爆音。
リグレイト皇国、その政に携わる大人達に彼は深く失望し、失意の中で、彼は酷く苛立っていた。
彼、この物語の主人公の名は、
京夜は、自らの苛立ちを抑えきれず、湖畔に鎮座していた巨大な岩石に向かって魔法を放ったのであった。
放たれた魔法はロックバレットの一種なのだが……只のロックバレットでは有り得ない程の、初速を誇っていた。
京夜が魔法を放とうとした時、先ずは魔力が変質し、彼の胸の前にバスケボール程の球体が生成された。
腕は両腕共に前方へと突き出し、傍から見れば両の二の腕で球体を挟み込むような、おかしな格好に見えるだろう。
フィクションによく登場する様な、突き出した手の先、その空中に球体が生成されているのとは訳が違う。
だが、この状態にこそ、意味が有った。
何故ならば、その驚異的な射出速度、その初速を実現しているのは電磁気力を利用しているからである。
電磁気力、つまりローレンツ力により加速して撃ち出す魔法。
その正体は、電磁投射砲、EML、電磁加速砲など様々な呼称が存在するが、最も広く知られている呼称、それは──
──レールガン、であろう。
この世界は現実世界であり、フィクションでは無かった。
魔法や魔物が存在し、地球人である京夜からしてみたら、なんとも
フィクションの様に、突き出した手の平の先に物質を生成して撃ち出すというのは、京夜にとっては馬鹿馬鹿しい程に効率が悪かったのである。
しかし、京夜がそうした様に、前方へと突き出した腕と腕の間、そこに物質を生成し、両腕を2本のレール、つまり、電極棒として見なしてローレンツ力を用いて加速して撃ち出せば……途轍も無い初速を得る事が可能となるのだ。
コイン等を電気の力で撃ち出すフィクション等も存在するが、あくまでそれはフィクションであり、根本からして『レールガン』とはまるで別の代物である。
レールガンとは、レールと電力を利用し物体を加速して射出する装置の事を指すものなのだから。
京夜の放った魔法は、正しく、レールガンであった。
音速を軽く超える弾体、それも、只のロックバレットとは一線を画したものだ。
原子番号76番、元素記号Os。
オスミウム、だ。
光沢の有る青白色の硬い金属で、耐食性に優れた白金族元素のひとつであり、 地殻には平均で0.0004 ppm (0.00000004%)しか含まれておらず、 比重は22.6と、地球上で確認されている金属の中では、最も重い物質なのだ。
地球の深部、コアにはそれなりの量が存在していると考えられているが、地殻……つまり地表付近における元素の豊富さは非常に希少であり、レニウムと同様に最も少なく、50×10^-12しか含まれていない。
金の比重が19.3、最近のフィクションには度々登場する様になったタングステンでも19.2、ミリタリー好きでなくとも耳にした事は有るであろう、劣化ウラン弾も19程しか無い。
そんな代物を、バスケボール程の大きさに生成し、音速を軽く超えた速度で撃ち出すのである。
その運動エネルギーはK=1/2mv²[J]で求められるが、代入して計算をしてみれば、その数字の大きさが判るであろう。
ここが、地球であるのならば、現実的に、オスミウムを兵器として使用する事など出来はしない。
自然界に存在する量が、少なすぎる為である。
しかし。
この異世界には、魔法というものが有った。
この異世界の魔法は、地球ではフィクションとして語られる方の錬金術に近いものなのだ。
それは、魔力を代償として、脳内にてイメージした物質を生成する事が出来るというもの。
また、この異世界の魔法はサイコキネシスとも似ていて、魔力は目に見えない手の様なものとして扱う事も出来る。
つまり、通常のロックバレットであれば、魔力で石を生成し、魔力の見えない手で投げる様なものなのだ。
だから本来ならば、わざわざレールガンの様にして撃ち出さずとも、魔力によって撃ち出す事が可能であり、その場合には、フィクションによく見られる様な、手の平の前に、物質を生成して撃ち出す事となるであろう。
しかし、何故、京夜はそうしないのか。
それには、明確な理由が有る。
魔法を扱うには、明確なイメージや意図が必要となるからだ。
只の人間には、それは非常に難しい事なのだ。
フィクションの魔法を想像する者にとっては、それが難しい事だとは思えないであろう。
だが、現実世界であるこの異世界においては、そう都合良くはいかないのだ。
魔法を行使する者が生きる世界、つまり3次元空間に対し、どんな物質が、つまりどういう元素が、どの位置に、つまりどの座標に有るか、それがどの様な働きをするか、つまりどの様に動くのか、……と言った様々なものを、全て明確に、イメージしたり意図したりせねばならないからだ。
それは、生身の人間にとっては、非常に難しい事である。
天性の、余程優れた天然の感覚を有する者か、常人には到底不可能な程の計算速度、頭の良さが必要となる。
3次元空間における認識能力の高さも必須。
こういった事から、この異世界には魔法が存在するが、魔法を自由自在、十全に扱える者など、ほとんど存在しないのであった。
だが、八坂京夜という男は、異世界転移を果たし、異世界人からは使徒と呼ばれる程の存在。
IQ172を誇る京夜が、異世界転移に巻き込まれたのは、果たして偶然の事なのか、それとも……。
本当に、神と言える存在に、選ばれし者なのか。
それは、誰にも判る事では無い。
無い、が、しかし。
京夜は類稀なるその頭脳と、地球で知り得た科学知識を存分に発揮し、この異世界において、魔導師と呼ばれるに値する程、魔法の扱いに長けているのであった。
京夜本人としては、偶然、としか思っていないだろう。
自分に魔法を扱える能力が有る事が、必然、と思うには、そこまで自惚れる程、京夜は馬鹿な男ではなかった。
ともかく。
魔法に対する適正を十分過ぎる程に有していた京夜は、魔力によってオスミウムを生成し、それを魔力の見えない手によって撃ち出すのでは無く、レールガンとして撃ち出したのであった。
レールガンとして撃ち出すのであれば、目に見えない、魔力の手をイメージする必要が無いからである。
そこに思考のリソースを回すよりも、レールガンというイメージしやすいものをイメージした方が、効率が良かったのだ。
だからこその、レールガン方式。
目に見えないものを明確にイメージして、それで物質を射出するとなれば、それはもはや、人間に可能な計算速度では全く足りないであろう。
それを計算などせずとも、なんとなく、といった感覚で可能としてしまうのが、『天性の感覚』の持ち主である。
その『天性の感覚』の持ち主のみが、この異世界では魔法を扱う事が可能なのだ。
それだけでも一握りと言えるような存在なのだが、その中でも更に、特に優れた者が、『魔導師』と呼ばれる事となる。
八坂京夜という男は『魔導師』に匹敵する能力を有している。
京夜は煩わしいと感じて断ってしまったが、その実力は魔導師として十分過ぎる程に有る。
だが、京夜は天才かどうかで言えば、天才では無かった。
『天性の感覚』それが乏しかったのだ。
アニメや漫画、ゲームや映画など、地球での経験や体験が元になり、魔法のイメージには役立っているし、異世界現地の人類種よりも有利であった事。
そして優れた頭脳によって、得意だった科目の知識をフル活用する事により、あくまで計算尽くで魔法を行使しているのだ。
天才、とは、頭の良し悪しでは無い。
『天性の感覚』
その、有無である。
京夜は天才では無いが、極めて優れた、秀才なのであった。
◆
ふぅ……魔力がすっからかんになりそうだ。
でも、思いっきり暴れたおかげで、気持ちはスッキリしたな。
別に……俺には破壊衝動が有るって訳じゃあ無い。
だけどモヤモヤした時なんかは、やっぱ身体を思いっきり動かすのはスッキリするもんだ。
スカっとするよな。
さって、皆が待つ村へと帰るか。
「ニシシ──。見てたゾ?お前、何者?凄いナ?」
……っ!?
誰……だ?コイツ……。
俺が、その接近に、全く気付かなかっただと?
ツノ……って事は……コイツ、鬼人族か。
「……お前こそ、何者だ?この一帯は、部外者が気安く立ち入って良い場所じゃないぞ?」
ここ、デュデブ村近辺は、皇国直轄の特区だ。
皇国においてこの一帯は、神皇から与えられた領地を治める貴族の支配を受けない、特別な場所。
だから部外者はそうそう入って来るものじゃない筈だが……。
「ん……?そう怖いカオするなよ?タダの散歩だヨ」
尚更怪しいじゃねぇか。
散歩で来る様な場所じゃないぞ?
村から一番近い伯爵領の領都まででも、歩きなら片道で一週間ほども掛かるんだ。
そのくらい山奥に有る、こんな所に……散歩?
俺に遭遇したのは偶然だとでも、コイツは言うつもりだろうか。
「いやいや、怪しすぎる。こんな山奥でか?」
今、この国は戦時下に有る。
油断は出来ない。
暴れて疲れていたとは言え、俺に全く気付かせる事無く、こんな近くにまで近寄ってきたコイツの実力は侮れない。
メルデシナ軍の、尖兵の可能性が有る。
「だからそう言ってるダロ?良い場所だナ?綺麗な湖だ」
警戒しまくる俺に対し、コイツは全く、チリ程も俺の事を警戒していない様に見える……。
それはそれで、何だか癪だな?
と言っても、コイツに、俺と戦う意思が無いのなら、それはそれで助かる。
ムカついてたからとは言え、暴れまわった直後で、今の俺は魔力がほとんど残っていない。
この場における最も合理的な判断は……迎合、だな。
「この場所は初めてか?俺のお気に入りの場所なんだ」
少しだけでも良い、引き出せる情報は引き出しておかないとな。
「ニシシ──!そうか。お前、怖いカオをしてるから、ウチと戦いたいのかと思ったゾ?でも、そうだナ?良い場所だ」
戦いたいだなんて、とんでもない。
少なくとも、今、戦うのだけはダメだ。
話しを合わせたら途端に笑顔になったが……。
本当に、コイツには裏が無いのだろうか。
「散歩って言ってたが……どうしてこんな所に?誰か……仲間と一緒に来ているのか?」
ちょっと、具体的に突っ込み過ぎか?
「ん……?ああ、もしかして、お前、リグレイト軍なのか?安心しろヨ、今は、本当にタダの散歩だからナ!ニシシ──」
……探ってみたのが、モロバレか。
だが、『今は』って言ったな。
って事は、やっぱコイツはメルデシナの軍属なんだろう。
こっちの事をまるで警戒していないし、雰囲気からして、聞けば何でも応えてくれそうだ。
思い切って、正直に問い質してみるか。
「いや、俺は軍人じゃないよ。只の村人さ。そういうお前は……メルデシナの軍人って事でいいのか?村を襲いに来たのか?」
「だぁ~から!今は散歩だって!ウチがもし、襲うつもりなら話し掛けてないゾ?それに……近くに村なんて有るのカ?」
……何て言うか……その、コイツの目。
めっちゃ純真無垢って感じなんだよな。
嘘を言っている様には見えないし、なんなら、メルデシナ軍の人間だとも思えない程だ。
だが、腐っても鬼人族……侮れない。
言っている事は尤もと言えば尤もだし、なんとなく言ってる事は本当の様な気がする。
「そうか……。俺は、その村を護りたい。襲わないでくれるか?それを俺と約束出来るか?約束して貰えないと、落ち着いて話す事も出来そうにない」
俺は……馬鹿な大人達は嫌いだが、それでも全ての大人が嫌いって訳じゃ無いからな。
信じ難い事だが……異世界転移、俺がこの異世界へと訪れた時に最初に辿り着いたのが、デュデブ村だ。
デュデブ村の人達には、本当に世話になった。
言葉が通じない、着ている服も地球のもので、現地人とはまるで違った怪しい子供。
そんな俺を、受け入れて飯を食わせてくれて、暖かく出迎えてくれた人々が住む村だ。
恩を仇で返す訳にはいかない。
世界を放浪する中で出会った数少ない、この国に住む者には、この村へと避難する様に告げて回るつもりだ。
大事な奴らが戦禍に巻き込まれない為に。
色んな意味で、俺はデュデブ村を失う訳にはいかないんだ。
「なんだ、そんな事カ?いいゾ?そのくらいの約束、いくらでもしてやるヨ。ニシシ──。お前、良いヤツなんだナ?」
全く、これっぽっちも曇りの無い……屈託の無い笑顔。
あ……アレ……?か……可愛い……ぞ?
色黒で……笑うとチラりと見える犬歯、ちょっとした会話から俺の考えを見抜く頭脳……。
す、好き、かも……俺、コイツめっちゃ好きかも!
「良かった。約束だからな?」
俺は顔がニヤつかない様に、キリっとして応えるのは、その一言が精一杯だった。
──ウォーーーーーーーン!
夜空に、響き渡る魔獣の咆哮。
フォレストウルフの遠吠えか。
って、もう、こんな時間かよ!
た、楽しすぎて……いつの間にか時間を忘れていた。
俺の直感が、コイツは悪いヤツじゃ無いって言った。
だから、俺は何とかしてコイツを口説こうと……あれやこれやと話しを振りまくってみたが……。
「ウチな、強いオトコが好き。少なくともウチより強いオトコ」
マ!?
こ、これはチャンスじゃ……?
鬼人族は種族として滅茶苦茶強いが、それは男の鬼人族の話だ。
まぁ、だからコイツは強い男が好きなんだろうが……。
どちゃくそチャンスじゃね?
今は無理だが……体調が万全の時にでも、コイツに俺の力を見せ付けてやれば……ワンチャン……有ると思います!
「ビエン!た、頼む。今日は無理だが……今度、俺の実力を見てくれないか?きっと、驚くハズだ!」
と、俺は半ば、それもう実質、交際の申込みをしたのだった。
「ニシシ──!ウチは正直なオトコも好きだゾ?いいヨ?じゃあ今度、見せて貰おっか?」
っしゃあっ!!!!!
勝った!勝ち確定やろコレ!?おぉん!?
鬼人族と言えど女だ。
使徒様と呼ばれ、魔導師にも匹敵すると言われたこの俺だ!
少なくとも、コイツには負けないだろうて!
と、この時の俺は、めっちゃ好みどストライクな女に出会って舞い上がっていた事も有り……自分にとって、都合良く気軽に考えていたのだが……。
◆
「ごっふ……!そん……な……ば、ばかな……ビエン……」
八坂京夜、14歳。
幼き頃の、淡い初恋を除けば……初めて、明確に惚れた相手。
それは、鬼人族の女であった。
容姿から性格から、京夜の好みド真ん中。
勇んで、己の力を誇示しようと、鬼人族の女、ビエンに挑んだ京夜であったが……。
結果は、敢え無く惨敗であった。
京夜は、冒険者ランクで言えばSランク。
転移者で有り使徒で有り、魔導師にすら匹敵するのだが……。
「ニシシ──!そう悔しがるナ、いいセンいってたゾ?」
満開の、華やかな笑みで応えるビエン。
そう、ビエンこそが、メルデシナ共和国が蜂起した切っ掛け。
種族覚醒者、『鬼神』であったのだ。
ボーイ・ミーツ・ガール。
この物語は、そんなお噺。
京夜とビエンの行く末は、戦争の行末は、国の行末は……。
どうなるのか、乞うご期待。
厨坊ですが何か?大人ってそんなに偉いの?ただ長く生きてるだけじゃないの?偉いってなら、じゃあ何で世界を救わないの?ねぇ何で?そんなに偉いなら、さっさと世界を救いなよ?出来ないなら黙って見とけ! chomocho@処女作執筆中 @chomocho
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