特別エピソードⅢ 【矢印の方向の行方 partⅡ】 

 七瀬は八百にアルコールの入った缶を差し出し、八百はそれを受け取ると、七瀬の隣に腰を落とした。


「さてと、俺がどうして此処に呼ばれたのかまだよく分からないって顔してる夕凪と藍にそろそろ説明してあげなさいな、リリィ」


 八百は缶の蓋を開けると、零れ出てきた泡を慌てて口に含んだ。

 ふふふっとリリィは微笑む。


「ちょっと前に八百にぃと郁くんが廊下で会話している場面に出くわしてね、こっそり聞き耳を立てていたところ、私では絶対に聞き出せないことを意図も簡単に聞き出してたんだよね~」

「まぁ、簡潔に言うと……人よりなのよ、俺」


 夕凪と藍は首を傾げる。

 八百は人差し指と中指立て、ピースサインをすると、いたずらっぽく笑った。


「郁くん然り、ユヅル、真緒、ノアの箱舟男性、女性諸君がそれぞれどんな異性が好みなのか、異性の何にときめくのか。

雑談してる中で自然に相手に聞き出せちゃうわけよ」

「「……っ?!」」

 

 夕凪と藍は驚いた様に息を飲み込んだ。

 マリアは感心したかの様に「ほぅ」と短く呟き、アルファも目を大きく開くと、口元を手で隠す様な仕草をした。


「だからと言って、俺もベラベラと喋るつもりはないけどな……って、残念そうな顔するなよ、リリィ」


 不貞腐れた顔をするリリィの方を見た八百は、ははっと笑った。

 話を聞いていた七瀬は口を尖らせると、八百の頬に人差し指を突き刺した。


「んじゃぁ、一つくらい可愛い乙女たちに助言くらい言いなさいよぉ~!」

「七瀬、本当にお前飲み過ぎ……痛ぇ痛ぇ、頬に指をどんどん食い込ますなっ! 

 助言ね……あぁ、一つあるわ。

 大半の男は胸と尻が大きい女が大好きなんだ……」


 八百が言い終わる前に七瀬は頬に突き刺していた指を離し、拳に変えると八百の頬をぶん殴った。


「えっ? 八百さん、今何て言いました?

すいません、最後だけよく聞こえなくて……」

「いいわ、夕凪。

八百が今、言ったことは聞き直さなくていいから。

……一気に今ので酔いが冷めたわ。

ありがとう、八百。

そして、貴方はもう余計な事言わないでね?」


 七瀬は八百の胸倉を掴むと、にこりと笑った。

 八百は腫れた頬に手を添えると、首を縦に振った。


「……まぁ、俺から言えるのはさ、時は無限じゃないから伝えられるときに相手にはちゃんと想い伝えた方がいいよってのと」


 八百はそう言うと、七瀬はピクリと八百の胸倉を掴む手が震える。

 藍も八百のその言葉を聞いて、グッと唇を噛んだ。


「超能力者じゃないんだから、相手の気持ちが判るわけがない。

自分の気持ちを伝えて強く反論する様な奴を好きな訳じゃないのだから、タイミング次第で伝えてもいいんじゃないってことだな」


 夕凪は考える様に視線を落とし、リリィは「ふーん、そうだね」と言った。

 リリィのその様子を見て八百は困った様に笑った。


「こりゃ……真緒も俺と同じく想い人の方が難敵そうだな」


 八百は小さな声でぽつりと呟き、愛弟子真緒の顔を思い浮かべ、溜息をついた。



 女子会はその後、七瀬がまたもや酒に潰れたことにより、八百が七瀬を抱えて部屋を最初に出ていき、残された夕凪達は順々に睡魔が襲いかかり、お開きになった。

 翌日、夕凪は軍服をセーラー服の上から羽織り、姿見鏡で身なりを整えると、自室のドアを開けた。


 「あ、おはよう。 夕凪ちゃん」


 ドアを開けた先には偶然部屋の前を通った郁が夕凪へ挨拶をした。

 夕凪は驚きのあまり目を見開くと、心配した様に郁は夕凪の顔を覗く様に見つめた。


「確か、昨日の夜はリリィの部屋で女子会って言ってたね」

「……あ、ああ。 

少し寝不足気味なんだ……気にしないで、」


 夕凪は部屋から一歩踏み出すと、廊下と部屋の間の少しの段差に足がもたれてしまった。

 郁は転びそうになっている夕凪を自身の胸に抱き抱える。


「わ、夕凪ちゃん大丈夫? 

めずらしいね、段差で躓くなんて……」


 夕凪は次の瞬間、昨夜のことを思い出し、茹でタコの様に赤くなる。


「~っ!!」


 廊下の壁に隠れていたリリィは嬉しそうに二人の事を見ていた。



 




 

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デッド・オブザワールド ShinA @shiina27

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