第3話
部室のドアをがらりと開ければ、私を待つのはいつもの光景である。右手に本棚、左手に本棚、正面にはソファが二つ向かい合わせで置いてあり、ソファの間にはテーブルが置いてある。ちなみにこのソファは学校の廃品で出されるものを先生に無理を言ってもらったものである。持つべきものは友でも金でもなく、廃品を譲ってくれる先生であると、その時の私は気付いた。その先生もういないけど。元気かしら。冗談だよ。持つべきものはやっぱり友達だと思う。
さてさて。かくして部室紹介を終えた訳だが、
「学園問題解決促進委員会」
それが私の部活の名前だ。え、何? 委員会じゃん? いつだれが部活の名前が委員会じゃないって言ったんだよ。私か。女子高生たるもの、嘘の1つや2つ使いこなせなくては、やっていられないのだ。最近の女子高生は大変なんだよホント。
そんなことはさておき、委員会とは言ってはいるが、れっきとした部活だ。委員会と部活の違いはよく知らないけど、私が部活と言ったのだから部活である。なぜそんなことがまかり通るのか。答えは簡単。部員は私しかいないからだ。
部員は私しかいないからだ。もう一度言う。部員は私しかいないからだ。
大事なことだから三回言った。再三いうとはまさにこのこと。大事なことだからしっかり伝えておかないとね。あとから後悔するかもしれないからさ。
部員が増えることを願って早一年が経とうとしている。このままでは部の存続が危うい。私が立ちあげた部なのに、私の代で終わらせてしまっては、立ち上げたときの私が可哀そうではないか。
本当は今頃、可愛い後輩や頼れる同級生、カッコイイ先輩と部活動にいそしんでいる予定であった。しかし、現実は無常なり。その真逆である。そろそろペッパー君でもおこうかしら。あれ高いんだよね。持つべきものは友でもお金でもなく、お金で手に入れる友なのかもしれない。友で手に入れるお金なのかもね。おっと。これは永久機関の完成じゃないか。うら若き私はまた、地球の諸問題を一つ解決してしまったのか。にくいね。
現状を憂いても何も始まらないので、未来を見据えよう。
何をしている部なのかと言うと、名前の通りの部だ。我が学園、
というのが部の設立において使った建前だ。建前ってのはどこでも大事なんだぜ? 本音はいつでも忍ばせておくぐらいがちょうどいいのだ。
本音は、のんびりできるところが欲しかったのだ。教室以外で、のんびりとできる場所が欲しかったのである。なんでかと聞かれれば、特に理由はない。良くない?のんびりできる場所。私は怠惰を愛し、怠惰に愛された女子高生なのである。
そんなこんなで、設立した部である。部としてて成立させるには、毎月の活動報告をせねばならない。サッカー部がサッカーをするように、吹奏楽部が吹奏楽をするように、学園問題解決促進委員会は学園の問題解決をして、生徒の生活を良い方に促進させること部として成立する条件なのだ。
では、どんな問題を解決しているのか。これを語れば、すぐにはすまない。なので、割愛。またいつか、お話しよう。
今現在も部として成立しているということは、それなりにしっかりと活動しているというわけだ。それなりなのかしっかりなのかは微妙なライン。普通に良いと同じぐらいの意味だ。普通に良いって、あれ、どっちなんだろうね。多分良いの意味合いが強い気がする。普通においしいもおいしいしね。
今日は活動日ということで、こうして部室に足を運んだ次第である。私がどこかに赴くというよりかは、問題が自分でやってくるのを待つのだ。自分から動くの面倒だしね。あっちからやってくるんだったらそれに越したことはない。問題なんてない方が良いんだけど、その問題がなければ、私はこの部室を失ってしまう。そんな矛盾を私は抱えて生きている。この部活動は私の矛盾によって成り立っているのだ。不純である。は?
かくして、私はソファに腰かけ、本棚から本を取り出すのであった。ちなみに本棚に入っているのは全部少年漫画ね。家に入りきらなくなったのをコツコツと移動させて、今では壁一面に少年漫画が敷き詰められている。
少年漫画は良い。夢と希望が詰まっている。少女だから少年漫画を読んではいけないという道理は今のところ存在していないので、私は心置きなく少年のための漫画を読むことができる。少年の中に少女も含まれているという見方もできるが、ともすれば、少女の中には少年も含まれているかと言われると、そうでもないんじゃないかと思う。少年漫画も少女漫画も今すぐ、少年少女漫画に変えた方が良いよ。多分。
今日は何を読もうかしら。ここに在るのは全部読んだやつだ。私は何度も読み返す派なので、溜まり続けていく一方だ。ちなみに、味のしなくなったガムも、いつまでも噛み続ける。顎痩せを狙いつつ、捨てるタイミングを見計らって噛み続ける。何事も、最後まで楽しんでこそ女子高生は花開くのだ。
以上、部活紹介のコーナーでした。興味がある人はぜひ、私の部室まで遊びに来てほしい。お茶もお菓子もないけれど、おかしな話ならたくさんあるよ。
―ガラガラー
そんなこんな話をしていたら、ドアから音がするではないか。この部活に私以外の部員はいない。つまり、入ってくるのは部屋を間違えたの人か、不審者か、依頼人の3択である。あ、顧問の先生の可能性もあるのか。でもあの人ほとんど見に来ないし実質ない。さて、どれだろうか。私はゆっくりと、音のする方を向いた。
「あ。すみません。間違えました。」
間違えた人だった。
「あ。はいはーい。」
同じく「あ」で始め、適当に相槌を返しておく。ここで無視せず、適度に反応しておくことが、後々の依頼につながるのだ。営業精神ここに極まるのかもしれない。
うっかり屋さんは去っていき、またひと時の静寂が部屋を包み込む。このまま今日は何もないと良いなと思いつつ、本棚に手を伸ばそうとすると
「あの。すみません。学園問題解決促進委員会の部室であってますか?」
「あってますよー。ようこそ学園問題解決促進委員会、{学解委員}へ」
確認すべきことが二つ。まずは依頼人が来たこと。よし、仕事しよう。そしてもう一つ、この部活の略称について。今考えた。
さてさて。本日の依頼はいかがなものか。のらりくらりと、やっていこうではないか。
学園探偵推理道 楠治 加布里(くすじ かふり) @kusu2ka
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