緑雨のあした ☔

上月くるを

緑雨のあした ☔





 赤信号で大型トラックが停止すると見えなくなるが、流れ始めると、また視野に。

 ほとんど影を留めていないブルーシートの切れ端が歪んだ甍に引っかかっている。


 堅牢だったはずの白壁も四方八方くずれかけているが、入口付近はとくにひどい。

 建物の下半分を覆うナマコ壁も巻き添えにして地球の引力を証明してみせている。

 

 そのむかしはこのあたり一帯を支配する庄屋か豪農だったと思われる本棟づくりの母屋に並んで、おそらくは歴代の家宝級を保管してあったと思われる総二階の土蔵。


 長年にわたる放置の痕跡もあらわな屋敷林が丈高く伸び過ぎて電線を超えている。

 直下型震度六強の地震から十余年を経ているのに、無惨に放置されたままの旧家。


 すぐとなりはテレビCМでよく観る住宅メーカーの総ガラス張りの六階建てビル。

 国道を挟んだファミレスの窓際席から、新旧の対照の際立ちがいやでも目に入る。




      🍹




 わたしには……いや、少なくともわたしには、たぶん一生言えない台詞だよね~。

 読みさしの小説のカッコいい啖呵に衝撃を受け、半拍遅れの感じで胸中喝采する。


 雇用主でもある病院長に向かって看護師が「先生、やめてください、訴えますよ」

 若い看護師のお尻にさわる行為を院長特権として来た医師、さぞ仰天したろうね。


 医師以外は人間じゃないと思って来た(小説の一節💦)常識が覆ったんだから。

「おまえはクビだ!!」が常套句だったその口、ぽかんと空いただろうね。(´艸`*)


 いやあ、よくぞ言ってくれましたね、平気で再就職の邪魔すらしかねない院長に。

 実業界でよく似た場面を見て来たヨウコは「天晴れ!!」を連呼せずにいられない。


 だが……ひるがえって自分を顧みれば(ここで急に声が小さくなるのです(笑))相当年下の主治医の慇懃無礼に異議を申し立てたこと、ただの一度もないんだけど。




      🦅




 大型が走り去ったあとを見ると、電線の上まで伸びた樹木の途中に鳥の巣がある。

 よくまあ、まん丸につくったね、えらいえらいと褒めてやりたいくらいまん丸い。


 その鳥の巣のある屋敷林に、季語で緑雨と呼ばれる春雨が粛々と降り注いでいる。

 途中まで来ている国道の拡幅工事が進めば、あの鳥の巣もこのファミレスも……。


 それでいいんだけどね~、いつまでも古いものにしがみつく必要はないんだから。

 鳥はもっと環境のいい森を探せばいいし、ファミレスも建物ごと後退すればいい。


 どんどんいい方向へ変わっていけばいいんだよ、恒久平和&人権尊重さえ守れば。

 変革を恐れない、近未来の足を引っ張らない、それが既存世代の役目なんだから。


 そういえば、司法ОBの介入で大阪の騒音公害をめぐる最高裁判決が不当に覆ったドキュメント番組があった。まさかとは思うけど、あんな蛮行、現在はゼロだよね。


 いずれにせよ、権力を笠に着ている自覚がある人にもない人にも、自撮り動画撮影をお勧めします。なんじゃこりゃ? 想定外の悪相、ぎょっとするよ、きっと。🤢


 

  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。



 まごまごしていると緑雨どころか梅雨に入りそうなので、例によって「いやいや、わたしなんぞ……」いやがる原稿、ストックから引っ張り出してまいりました。(^^;




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