カボチャ便り

 拝啓 名も知らないカボチャ売りの女の子へ


 果たしてこの手紙は届くのでしょうか?

 何せ住所など、わからないのですから。船乗りからの人伝えで届けば良いのですが……。いえ、届くと信じています。キミはどうも街の人知れぬ名物のようですし。


 キミを見かけたのは、町はずれの小さな通り。イエローにブラウン、それにレッド。鮮やかなカボチャの中で、紅に染まった頬が一層キラキラしていましたっけ。


 物珍し気にわたしが覗いていると、キミは百倍になった笑顔で、「あら、ご新規さん。キレー。かわいーー。くりくりおめめ!」なんて、語りかけてくれましたよね。今思えば、商売人のお世辞トークだったのかもしれませんが、わたし、とっても、勇気づけられたんです。わたしは名の売れないダンサーで、そのままこの港町の安いPUBで、一生を終えるのかなとか思っていて。だから勧められるまま、カボチャ初心者フルセットを買ってしまったのです。あとで両腕が筋肉痛になっちゃって。ダンサーなのに。ちょっと後悔したけど。「キレー」だなんて。


 あれから何度か通っているうちに、キミは将来の夢についてのんびりと、でも元気いっぱいに語ってくれましたよね。この町にカボチャ専門ショップを建てる。なんてね。ふふ。


 途方もない夢を純粋に語るキミの瞳につられてか、わたしも語ってしまいました。大都会の一流のダンスフロアで何時か踊りたい。ミュージカルにも参加したい。そして名を広めて、世界の町々にツアーに行きたい。トップダンサーになりたい。


 さよならの時に、あなたは微笑んでくれましたね。バイバイの代わりに、「色んなカボチャ食べれるんだ、うらやましー」なんて。


 あれから5年が経ちました。楽しいこと、嬉しいこと、色々とありました。悲しいこと、辛いことも、色々ありました。


 わたしは一流にはまだまだだけど、どうも成れそうもない見切りがついてしまう三十路になってしまいましたけど。


 ジャジャーン(*^o^)


 なんと、この港町で一番おっきなダンスフロア、「ヴィラージュ」で凱旋公演が出来るまでになりました。楽しいこと、嬉しいこと。もちろん一杯ありましたよね。あなたにもきっと。公演は来月のクリスマスイブ夜7時からです。


 チケットを同封します。是非、是非!


 それからあの日から今日まであった沢山のことを語り合いましょうね。


 それでは、お手紙が届くことを信じて。

 see you again!


 カボチャ売りの少女はくすりと笑い、わたしの夢はまだまだ遠くだなぁ、なんて思いながらも。久しぶりに会うだろう優しくて、でも情熱たっぷりの子と再会するのを楽しみに思った。

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港町のカボチャ売り えんがわ @26095

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