詩人だった、あの恩師の声
与方藤士朗
舞鶴出身の、小太りな英語教師。そして、散文詩人。
京都府の舞鶴出身の英語教師・井元霧彦さん。2022年没。
この人は教師のかたわら、詩人をされ続けていた。
そして詩集も、何冊となく出されている。
今も、その詩をまとめた所が出版されている。
基本的には口語自由詩。ときに、散文とも解説ともつかぬ文章。
それが、この詩人の作詩の基本型=ルーティンのプロトタイプ。
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井元先生は、小太りな中年男性。
あだ名は、イモッチ。
生徒だけでなく、後輩の同僚の先生からも言われていた。
大阪や神戸の街中から戻って来た若手の先生も、このイモッチには、一目も二目も置いていた。
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イモッチは、どんな生徒であろうとそれで対応を変えることはなかった。
良くも悪くも、いや、明白な意図をもってだろうな、あれは。
それは、教師と呼ばれる大人に対しても、そうだった。
男性か女性か、はたまた管理職の校長教頭か、先輩か後輩か。
そんな概念、詩人井元霧彦にも教師イモッチにも、なかったかのかもな。
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私が小説を書き始めたのは、とある少年少女のラブコメ=悲恋の映画。
その映画の中で、あるおじさんが少年にこんなことを言っていた。
「どんなに時がたっても、気になる相手の声は覚えているものだ」
私は、その映画の登場人物をモデルに意識しつつ、また別の小説を書き始めた。
イモッチに英語を教えてもらっていたあの頃、接触のあった大人たち。
養護施設の職員、大学の先輩、国鉄の人。
かれこれ、いろいろな人たち。
最近では、同級生の映画監督が設定した人物もモデルにして書いているよ。
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昨年夏、私は、イモッチの同僚だった、神戸帰りの恩師に言われた。
「大槻さんや山崎さんはいくらでも書けるようだが、井元先生は書けるか?」
私は、即座に答えた。
「無理です、まだ・・・」
かくも、イモッチは、とらえにくい、ミステリアスな人なのねん。
実物は、豪放磊落にして繊細至極な人なのだけど・・・。
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そんな中迎えた、2023年4月15日未明。
二度寝、三度寝を通して、横になっておりました。
再び寝付けたか、変な夢を見ました。
養護施設のような場所で、集団生活を強いられている模様。
正直、勘弁だ。
あの施設にいた同級生の宮木正雄もいた。そいつのコメントは控える。
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目が覚めた。
嗚呼、夢か。
またもう一度、目を閉じた。
今度は、本の目次のような文字群が。
自分では書いた覚えのない項目が並ぶ。
ページをめくって、びっくり!
その本には、宮木正雄の「行き倒れ」の節があることが、明らかになった。
「それは確かに書いたけど、わしゃ、こんな本書いた覚えあらへんわ」
そんなことを思って、ふと目を開けて、また、閉じて。
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何だか、脳内に懐かしい声が響き渡る。
「ようこそ、詩作の世界へ! イモトキリヒコです!」
あれれ、イモッチさん?
「そうです。どうですか、詩を書いてみて、感想は?」
ええ、まあ、その・・・
「まあ君、しっかり、頑張って書いていきなさいよ!」
あの声は、確かに、井元先生の声だった。
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i = イモッチ、否、詩人の大先輩・イモトキリヒコの残像
詩人だった、あの恩師の声 与方藤士朗 @tohshiroy
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