第6話 除菌のカード

 村まではあっという間だった。

 ここがトリリン村。

 風がほのかな苦甘い匂いを運んできた。


ビの増殖が進んでやがる。冒険者さんは薬草の採取と薬の調合をお願いする」

「おうよ、任せておけ」


「ショータ、火の従魔を出してお湯を沸かせてくれ」

「任せて」


 村に入るとビがなんなのか分かった。

 黒いカビのお化けだ。

 家の壁から、畑の作物、みんな黒い斑点がある。

 ビ育つと、僕の腕ぐらいの触手を生やすみたいだ。

 家からそういうのがいくつも出てた。


「あれはビの花」

「そうなの」


 村の広場に薪が集められている。

 その薪にもビは付いていた。


「この薪じゃ駄目だ。薬の品質が下がっちまう。ショータ出番だ」


 ロックスさんがそう言った。


「【ループ。サモン・ファイヤーエレメンタル。ループエンド】」


 ファイヤーエレメンタルが増殖する。

 用意された鍋に水が張られ、ファイヤーエレメンタルが温め始めた。


 沸騰した時に、冒険者が戻ってきた。


「薬草、第一弾だ」


 そう言って鍋に薬草を入れる。

 プールの消毒液の匂いがした。

 この匂いは嫌いだ。

 でも好き嫌い言ってられない。


 出来た薬は、試しとして、集められた薪に使われた。

 薬を掛けられると黒い斑点は綺麗に消えた。


「さあ、ビを退治だ」


 出来上がった薬を村人が瓶に小分けして持っていく。

 ファイヤーエレメンタルの数が十分に増えたのでループをブレイクする。


 冒険者も続々と薬草を持って来る。

 鍋で何百杯もの薬ができ上がった。


 なんか分からないけど、まだ薬は必要みたいだ。

 家を除菌するのなら小瓶じゃ足りないのは僕でも分かる。


「大変だ。領主の軍があと2日の所まで来ている」


 馬に乗った村人が駆け込んできた。


「くっ、間に合わないか。こうなったら。家財道具を持ち出して家を焼こう」


 ロックスさんがそう言った。


「嫌。あの家はお母さんとの思い出が詰まった家よ。絶対に嫌」

「アデル、我がままを言うんじゃない」


「ショータ、助けて。ショータなら出来るよね。今までも奇跡を起こしてきたんだし」


 無理言うなよと言いたかったがぐっと堪えた。

 家が無くなったらと想像したんだ。

 生まれた時からの家が無くなったら、それはもう悲しい。

 思い出がいっぱいあるからだ。

 傷ひとつ、染みひとつに思い出がある。


「やってみる。そうだカードを作ろう。除菌のカードだ」

「やる。一緒に作ろう」


 アデルとカードを作り始めた。

 除菌と書いて、カードにする。


「【除菌】」


 手に持った薪の黒い斑点がいくつか消える。

 成功かな。


「【除菌。ループ。レベルインクリメント。アタック。ループエンド】」


 あれっ、除菌の力が広がらない。

 除菌がレベルアップして、ビを攻撃するはずなのに。

 何がいけないのかな。


 なるべく本物に近づけよう。

 作り直しだ。


 まず、説明書きに『このカードは除菌でビを退治する』と書いた。

 他のカードは絵とふちの模様がある。

 絵はスプレーの絵を描いた。

 他のカードのふちの模様を見ると英語なのが分かる。

 小学生でも簡単な英単語を覚えるから、アルファベットは分かる。


 でもただの英語じゃない。

 ループなら、『while(1){』といくつも書いてある。

 それが模様みたいになっているんだ。


 サモン・ファイヤーエレメンタルは『fd=fire_elemental(level);』。


 呼び出すのだから、サモン・ファイヤーエレメンタルを参考にすればいいと思う。

 除菌の英単語は知っている、『sanitize』。

 なぜ知っているかというと旅行した時に除菌関連の道具の説明書きに書いてあったからで、肺炎が流行って除菌しないといけなかったからだ。


 カードの名前も決まった、『サモン・サニタイズ』。

 ふちの模様は『fd=sanitize(level);』、これでいいはず。


「プロセス・スタート、【サモン・サニタイズ。ループ。レベルインクリメント。アタック。ループエンド】」


 お酒の匂いがして、村中にあった黒い斑点が消えていった。

 触手も干からびて、そして消えた。


「やった」

「ショータ、ありがとう。お前は大魔法使いだよ」


 宴会が始まった。


「大変だ。領主軍にビを退治した事を伝えたが、やつら聞く耳持たない。この村をどうしても滅ぼすつもりだ」


 そう言って男が駆け込んできた。


「何で?」

「仕方ないのさ。軍を動かしたら金が掛かる。成果なしってわけにはいかない」


 ロックスさんが悲しそうにつぶやいた。

 こんな結末は認めない。


「プロセス・スタート【ネームド:ファイヤーエレメンタルのレッドジャイアント。サモン・ファイヤーエレメンタル。ループ。レベルインクリメント。ループエンド】」


 炎の燃え盛る巨人、レッドジャイアントを召喚した。

 レッドジャイアントはどんどん大きくなり雲を突き抜けた。

 もういいかな。


「【ブレイク】。領主軍を見下してやって、お前らはこんなにちっぽけなんだって」


 レッドジャイアントが足を踏み出してた。

 地面が地震と勘違いするほど揺れる。


 そして、レッドジャイアントが中腰になって下を覗き込んだ。

 ええと、ここからどうしたら。


 しばらく放置かな。

 しばらくして、偉そうな兵士が白旗を上げて馬に乗って駆け込んできた。


「もうしません。許して下さい」


 兵士の顔は青い。


「だってよ。ショータどうする?」

「悪いことした場合に謝ったら許してあげないといけないんだ。道徳でそう教わった。だから許す。でも3度目はないから」

「はい」


 偉そうな兵士は去って行った。


「ショータ、なんで3度目なんだ」

「仏の顔も3度までだから」

「なんだそりゃ」


「恰好良い」


 アデルが僕に尊敬の眼差しを送る。


「アデルは嫁にやらんと言いたいが、ショータなら仕方ないか」

「えへへ」


 はにかむアデル。


「ロックスさん早すぎるよ。せめて大人にならないと」

「そうか、その時が楽しみだ」

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最強のカードゲーム魔法~カードは何億通りの魔法を生み出す~ 喰寝丸太 @455834

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