第5話 街で

「アデル、なんで安全なこの道でなくて、森を通ったんだ」

「森を抜けるのは近道なの。村でね、ビが発生したんだ。大急ぎで薬を大量に作って対処しないといけないの」

「カビぐらいで大げさだな」

ビはね畑の作物も家もみんな腐らせるの」

「ふーん」


 そして、日が暮れる前に街が見えた。

 街は石の壁に囲まれている。

 カレンダーでこういうのを見たことがある。

 ええと、外国のお城だ。


「街ではうろうろするなよ。迷子になったら探せないからな。なにせ村の存亡がかかっている」

「大丈夫、来年から中学生だから」

「中学生がなんなのか分からないが、学生っていったらエリートだな」


 門を入る列に並んでいたけど、僕たちの番になった。

 ブルーファイヤホースは還したので、ロックスさんはフォレストウルフの毛皮4枚を持ってフラフラと歩いた。

 僕とアデルはフォレストウルフの毛皮をひとつずつだ。


「入っていいぞ」

「ご苦労様です」

「です」

「ご苦労様」


 僕は敬礼をした。


「何だ坊主、その恰好は。でも馬鹿にされている気はしないな。恰好良いポーズに見える」

「敬礼って言うんだ。僕の街では警察官がやるんだ」

「覚えておくよ」


 門番さんが敬礼を返してくれた。


「さっさと行くぞ」


 毛皮は重かったけど、なんとか剣の紋章がある大きな建物に到着した。


「すげえな。フォレストウルフの毛皮だぜ」

「あんなにたくさん」

「凄い使い手なんだろうな」


 フォレストウルフの毛皮が珍しいみたいだ。


「素材の買取と依頼を頼む。トリリン村でビが発生した。駆除依頼だ」

「承りました」


 受付のお姉さんとロックスさんが話している間、掲示板を見る。

 うわぁ、ゲームみたいだ。

 冒険者は恰好いいかも。


「終わったぞ」


 ロックスさんが僕たちのところに来た。


「この後どうするの?」


 アデルが尋ねる。


「疲れているところお前達には悪いが、急いでとんぼ返りだ。そうしないと村が浄化されちまう」

「浄化ってなに?」


 僕は尋ねた。


「浄化ってのは災いのもとに火を掛けて燃やすことだ」

「嫌だ。村が無くなるなんて嫌だ」


 アデルがそう訴えた。


「僕も何か手伝える?」

「ショータには帰りの馬を頼みたい。3人乗れるしな」

「もっと大きくできるけど」

「それなら、冒険者達も乗れるな」


 騒がしくなって、兵士がなだれ込んできた。


ビの発生したトリリン村は浄化と決まった。村人は名乗り出ろ」

「くっ、こうなると分かっていたが、手が早い」


「ロックスさん」


 受付のお姉さんが呼ぶ。


「呼んでるよ」


 受付に行くと、6人の冒険者がいた。


「自己紹介は後だ。領主に嗅ぎつかれた。素早く村に向かうぞ」

「了解」


 僕たちは素知らぬ顔で兵士達の横を抜けようとした。


「おい、お前、名前は?」

「ハックスです」


 ロックスさんが嘘の名を名乗った。


「子連れじゃ違うだろ」

「そうだな森を子連れで抜けられるわけない」

「行って良いぞ」


 何だが分からないけど危機が去ったようだ。

 門の所に行くと、門は閉じられていて人が集まっている。


 あの敬礼を教えた門番がいたので、敬礼をする。

 門番は敬礼を返してくれた。


「急使だ、通すぞ」


 敬礼の門番が僕たちを通用門から通してくれた。


「ありがとう」


 ロックスさんが礼を言った。


「いいってことよ。俺の村も浄化された。あんな悲惨な思いは他のやつにさせられない。初期なら薬でなんとかなる」

「恩に着る」


 僕は敬礼して、門番さんと別れた。


「ショータ、馬を出してくれ」


「【ネームド:ファイヤーエレメンタルのブルーファイヤホース。サモン・ファイヤーエレメンタル。ループ。レベルインクリメント。ループエンド】」


 ブルーファイヤホースが現れ、むくむくと大きくなる。

 象ほどの大きさになった時に、1枚のカードを抜いた。


「【ブレイク】」


 ブルーファイヤホースの成長が止まる。

 ブルーファイヤホースは口に僕を咥えると背に乗せてくれた。

 続いてアデルも同様に乗せてもらった。


 ロックスさん達はよじ登ったようだ。


「大急ぎでやってくれ」

「ブルーファイヤホース」


 僕が声を掛けると、ブルーファイヤホースは滑るように駆けだした。


「ヒヒン」


 速い速い、車より速い気がする。

 必死にブルーファイヤホースに生えている炎のたてがみがつかむ。

 そして僕は姿勢を低くした。

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