第2話 サクラ
「あのような力で富を繁栄させることは、各国の秩序の乱れになる。早急に対処していただきたい。」
「あの力は魔女の力だ。」
国同士の会合に行くといつもこれだった。
別に女王の力は国を栄えさえ、民をしあわせにするためだけにある。
たしかに文献を読んだ時に、一度私利私欲のために使う王もいたらしいがそんなことは今の女王ではありえない話だ。
女王はその度に悲しそうな顔をしている。
「相変わらずでしたね各国の王達は。別に戦争を仕掛けるわけじゃないんだから、本当に困ったもんですよ。」
私があははと笑うと、女王はぽんぽんと僕の頭を優しくなでてくる。
「仕方ないわよ。私たちの力は倫理に反しているのかもしれない。でも民をしあわせにしているならそれで構わない。…それに私は願いを込めてインクを使ってる。後悔はない。」
女王はまた何かを書いていた。
今日はあの不思議なガラスペンで何かを書いている。
「ある国の言葉でね…徳孤ならず 必ず隣有りという言葉があるの。徳のある人は孤立せず、必ず理解し協力してくれる人間がいるって意味らしいんだけど…きっと私たちにも理解してくれる国があるはずなの。」
「ふーんそうなんだ、徳がある人は協力者がね。実際、女王陛下には僕ブッコローがいるんだし、何も怖くはないでしょ。」
僕が胸を張ると、女王はまたクスクスと笑っていた。
「そうかもね。まぁ、私に何かあってもブッコローさんが徳を積む人になるなら、誰か手を差し伸べてくれるんだろうけど。」
私は女王のメガネの奥の瞳をじーっと見た。
最近そうやって寂しそうにするのはなんでなんだろうか。私にはわからなかった。
「あの…」
「できた!」
私が言いかけると、女王は何か小さなものを紙に描き出し生み出していた。
紙の上には小さな木と、ピンク色の花が咲き誇っていた。
サクラだ。
ある国では国の花となっている春になると咲く綺麗な花だった。
私でも本で読んだことがあるくらいだが。
女王は確かにサクラが好きだと前に言っていたような気がする。
「サクラの木。綺麗でしょ?…まぁ私も幼い頃に見たことあるだけなんだけど。」
小さな小さなサクラの木を女王は愛おしそうに見つめていた。
「せっかくなら、力で生み出しちゃえばいいのに桜の木。その方が女王陛下も毎日見れて嬉しいんじゃないんですか?」
私がそう言うと、女王はハァとため息をついた。
「作り上げるのはできるけど、趣がない。それに…これは夜桜って名前のインクなの。とっても好きなインク。こんな綺麗なインクを見たことがない。これは個人で楽しみたいの。」
『夜桜』というインクは綺麗な落ち着いたピンク色をしていた。
そのインクから作り上げられたサクラの木は綺麗だったが、落ち着いたピンクだからこそ儚さすらも感じられた。
「ふーん、そんなにインクって楽しいんですか?」
「楽しいわよ!」
私がそう言うと女王はワクワクしたように目を輝かせる。職務だけのためにそれぞれのインクやペンに向き合ってきた王達の中、ヒロコ女王は異色だとよく言われていた。
まぁそんな女王だから面白いのだけど。
「あっそうだ…せっかくだからあなたにも何かプレゼントしようかしら。インクに興味があるの?私がおすすめのは…」
「えーっ…じゃあガラスペンがほしい。」
私がそう言うと女王は不思議そうな顔をした。
「ガラスペン?まさかガラスペンに興味があったの?」
「興味湧いてきた…だけです。陛下が毎日その話を楽しそうにするから、インクは次。先にガラスペンが欲しいです。…できるなら、陛下と同じ形の。」
「これの同じ形?」
女王は不思議なものを生み出すガラスペンを不思議そうに見ていた。
「同じ形を持てば、陛下の気持ちがわかるんじゃないかと思うだけです。だめですか?」
私がそう言うと女王は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。じゃあ早急に用意しなきゃね。あなたにしては珍しいけど。」
女王は相変わらずクスクス笑うだけだった。
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