第3話 別れと出会い

「ブッコローさん、ブッコローさん。」


私はうっかり寝ていたみたいだ。

昼間の行政を終わらせて、疲れて眠ってしまったのだろうか。

目を開けると、女王が私を揺すっていた。

月明かりが差しているなか、女王の表情はよくは見えなかった。


「陛下…どうされましたか?何かありましたか?…申し訳ありません、寝てしまいましたかね。」


私が申し訳なさそうに起きると女王は「ブッコローさん」と小さく名前を呼んできた。


「短い間でしたが、ありがとうございました。ブッコローさんとはお別れです。」


私は何を言っているかわからなかった。


「陛下…?私は何かをしましたでしょうか?何か陛下を怒らせるような…」


私はわからなかった。

私が戸惑っているのがわかったのか、女王は首を振った。


「そんなことないです。ブッコローさんはたくさんのことをしてくれました。だから、あなたを逃します。」


「逃す…?何から?」


私が言葉を言いかけたとこで、城から見える城下の街が赤くなっているのが見えた。

火が街を焼き尽くそうとしている。

そして街の中で先日の会議の場で私たちの国の力を「魔女の力」と罵っていた国の旗が見えた。


敵国が攻め込んできたのだ。


「は、早く女王陛下、逃げないと、早く逃げましょう!」


私が慌てて言うと、女王は首を振った。


「私は行けません。狙いは私の力であり、私です。私が行けば、民が犠牲になります。だから、あなたは民を逃してあなたも逃げてください。ブッコローさん。……この手紙を送った人に会いに行ってください。」


女王は私に1通の手紙を渡してきた。

それは何日か前に女王が書いていた、ピンクのペンタスという名前のインクで書かれた手紙だった。

その手紙の文の中にある文を私は見つけた。


『これは私からの願いです。必ず、私に何かあったらブッコローさんだけでもどこかへ逃してあげてください。我が一族に受け継がれた力では、ブッコローさん自身も消されてしまいます。この世界にいてはいけません。よろしくお願いします。』


ペンタスの意味は希望が叶う色。


「女王陛下……」


私が女王を見つめると、女王は悲しそうではあるが優しく笑った。


「元気でいてくださいブッコローさん。必ずあなたを助けて、協力してくれる人がいますから。…ガラスペン、お揃いのもの…渡せなくてごめんなさいね?あなたに渡すものだから、一から作りたくて時間かかるみたい。」


「……必ず、ガラスペン貰いますからね。必ず、生きてまたお会いしましょう。」


最後に私が見たのは、女王が手を振って街に向かう姿だった。

私は城から女王が手紙を送った相手に連れ出され、追っ手に追われながらも女王が作り上げたという異世界に通じる扉に押し込まれた。



気がつくと、そこは知らない世界だった。



着ている服も違う、どこの世界かわからない。

一体どこの世界に私は飛ばされてしまったのかわからない。

私は何かの家の前でぺたんと横になっていた。

女王に逃してもらったが、もう私は生きていられるかわからない。

私は薄れる意識の中で「女王陛下…」とつぶやいた。


すると、誰かがその家屋から走ってきた。


「大丈夫ですか?」


私は残りの力を振り絞り、顔を上げた。

目の前にいたのはメガネの女性だった。


そこにいたのは女王陛下だった。


「陛下…?」


女性は不思議そうな顔をしていたが、私を見ると「怪我をしています。早く中に連れていきますね?」と言って、私を持ち上げた。


気を失う私の目にうっすらと文字が見えた。


『有隣堂』


徳孤ならず、必ず鄰有り。

徳のある人は孤立せず、必ず理解者が現れる。


「陛下…」


それが私の有隣堂、そして女王陛下…に似たオカザキヒロコとの出会いだった。

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