第13話
朝、おもむろに目が覚めるとキッチンで雅が料理をしていた。
「(おはよー)」と私が言うと
「(お、起きたね?寝坊助さんw)」と雅
「(朝ごはん食べるでしょ?駿の分も作ってるから。)」
と、テーブルの上に出されたのがベーコンエッグとパンだった。特段変わった朝食でもなく、改めて雅は普通の女の子なんだな、と思った。
「(いただきます。)」そう言ってベーコンエッグを口にした。
「(どう?)」と雅
「(ん?美味しいよ?)」
「(よかった!私、人に料理作るの初めてなんだ!)」
「(それは嬉しいね。初めての人になって。)」と昨夜初めての人になれなかった思いが複雑だった。
「(今日は学校サボったんでしょ?今日はどうする?外は雨だけど。)」
「(雨か。どうしようかな?)」
「(昨日の続きしようか...)」
「おっと!」
雅が押し倒してきた。そこからまた二人は重なった。この日は何度も何度も幾重にも契りを重ねた。雨ならソファーで何をしようかリリィ。
雅が仕事に行く時間が近づいたので支度をしていると、フッと雅が意識を失い床に倒れこんだ。私は驚いて
「おい!大丈夫?大丈夫か、雅!」と声を出して言ってしまった。ハッとして意識を集中して
「(雅?おい!大丈夫か?おい!)」と言うと
「(ああ、ごめん。時折、寝落ちすることがあるの。気にしないで。)」と雅が言う。
「(それより仕事に行かなくちゃ。ごめん、ありがとう、駿!)」
そういって仕事へと向かった。私は久しぶりに塾へと行った。
自習室に行くといつも通りミホとケイがいた。
「ひさしぶりじゃん!何してたの?」とケイが言った。
「この前、模試も受けてなかったじゃん。」とミホ。
いろいろと聞かれるが、本当のことは何一つしゃべりたくなかった。秘密を破ることで全てが壊れそうな気がしていたから。そう言って授業のクラスへと言った。それより寝落ち?する雅の方が気になった。
それからまた水曜日がきてあの小屋へと行った。いつも通りに雅が
「(おはよ!)」と言う
「(今日も学校から直行?)」
「(そうだよ!雅に会いたくて!)」
「(それは嬉し...)」と言いかけてまたソファーで眠りこんだ。
「(大丈夫?また寝落ち?)」
と以前のことがあったから多少びっくりはしなかったが驚いた。
「(ああ、ごめんごめん。最近なんだかこういうことが多くて...)」
「(病院には行った?)」と言うと
「(私、健康保険証持ってないのよ)」と言うので
「(今度、姉の持ってくるからそれを使ってよ!)」と私は言った。
「(大丈夫よ。それよりそんな法に触れるようなことしたらだめよ?)」と返された。
それから毎週水曜日、行くたびに雅は寝落ちしてその寝落ちの時間も長くなっていった。
そして夏休みに入った。もう学校は自習モードであとは自由という状態だった。これで雅と毎日会えると思う反面、雅の寝落ちが気になってしょうがなかった。夏休み初日の朝から雅の小屋へと向かった。すると雅は起きていた。正直ほっとした。
「(ああ、駿、おはよ!)」
「(それより雅は体大丈夫なの?)」
「(うん。何とかね。でも最近妙にリアルな夢を見るんだけど朝になったら覚えてないのよ。不思議だわ。)」
「(そうなんだ。でも体が大丈夫なら良かったよ。)」と言った瞬間に雅がバタリと倒れ込んだ。
「(大丈夫?雅?体調悪いの?救急車呼ぼうか?)」というと、微かな声で
「(...救急車は呼ばないで...)」と言って寝落ちした。
私はなす術もなくソファーでねる雅を見つめていた。
その日、雅は起きる様子がなかった。私は白馬の王子様にはなれなかったので一緒に寝ることにした。
すると夢で飛行機がビルに衝突する夢や大地震が来る夢、戦争の夢などが走馬灯のように妙にリアルなビジョンで夢をみた。バッと起きて「はぁ、はぁ、」と呼吸と脈拍は早かった。雅の様子を見るとスヤスヤと寝ている。辺りはまだ暗く深夜だった。小屋の外へ出て風に当たっていると何故かマスターがやってきた。
「駿ちゃんはどうやら見たみたいだね?」
「え?何のはなしですか?」
「夢の話だよ。」
「あの妙にリアルな夢ですか?」
「そう。あの夢。あれは全部、雅が見せている未来に起こること、予知夢なんだ。」
「え?え?どういうことですか?」
「私はね、こういう者でもあるんだ。」とマスターは公安の手帳を出した。
「え?公安?どういうことですか?雅が一体、なんだっていうんですか?」
「雅とその両親はもともとテレパシーを使える特殊な人間だったんだ。その中でも雅は夢の中で予知夢を見るという特殊能力を持っていた。しかしその予知夢は気まぐれでノイズが入ってて的確に見ることができなかったんだ。そして両親の交通事故。ますます彼女の予知夢にノイズが入ってきた。そんな中で我々の研究で分かったことが彼女に欠けているものが『情熱』というものだと分かった。だから私も関係を一度持った。しかしそこに彼女の恋心は生まれなかった...。
「え?それならば俺が雅と恋愛関係になるのも仕組まれてたってことですか!?」
「いや、それは賭けだった。君が神経症になったときに微弱な思念波を受け取れる人物ということがこちらの研究でわかっていた。それで私たちは『あの』小屋に雅を住ませることにしたんだ。君が塾に通う満月の夜に彼女の歌声が届くのではないかと。一か八かの賭けで君は彼女のところに辿り着いた。そして互いに恋に落ちた。我々の目論見通りにいったのだ。」
「え?え?俺たちの愛は作られたものだったというわけ?」
「いや、そこまでは我々は確信できない。君たちは本当の恋に落ちた。そして雅の欠けていた『情熱』が今補完された。」
「じゃあ、雅はどうなるというのです?」
「もう雅は起きることはない。ずっと眠りについたままだ。我々に未来を見せながら。」
「ふざけんな!雅は人柱じゃねんだよ!俺と恋愛したせいでこうなっちまったというのか!?」
「そうまでは言わない。ただ、雅はこの先、何千何万の命や事件を解決するだろう。そのためには彼女ひとり犠牲になってもらうしかないんだ。」
「くっ!」
私は小屋に走り、雅を起こそうとした。意識を集中して
「(雅、雅起きてくれ!また一緒に旅に行こう!また花火もしよう!せっかくこれだけ愛したのに眠ったままなんて嘘だろ?起きてくれよ!)」
私は泣きながら雅に叫んだ。しかし雅からの反応はなかった。マスターが
「やめたまえ!余計に彼女が昏睡状態に落ちたらどうするんだ?君は彼女の命を救えるのかね?」
「じゃあどうしろっていうんだよ...」私は膝から崩れ落ちた。
「この小屋はぼろいように見えるが最先端の通信技術が詰め込まれているんだ。そこで君のサンプルデータも取らせてもらった。君だけには教えよう。彼女は岡山大学病院のどこかで眠ることになる。君が望むなら岡山大学の入学を斡旋させてもいいのだが…。」
「んなもんクソックラエだ!」
「おい!お前ら、雅を運べ!」
とマスターが言うと階段から十人くらい黒服の大人がやってきて雅を特殊な担架で運びだした。
「くそ!雅を返せよ!」
「君にも少し眠ってもらうよ...。」
とマスターがスプレーを私に当てた。そうするとだんだんと眠くなり、完全に意識はなくなった。
それから目覚めると自宅のベッドの上だった。あれは夢かと思ってもみたがおそらく違う。そう思って水島臨海鉄道にのり「あの」部屋まで行ったが、部屋自体が跡形もなく消されていた。おそらくこんな話をしだしたら私は間違いなく精神科の閉鎖病棟行きだと思ったので誰にも話せなかった。
私の神経症が酷くなっていた。それをかき消すように勉強をした。3年の夏休みからの話だった。当然私に岡山大学の医学部には入ることはできなかったが、工学部には入ることはできた。一人暮らしをさせてもらい、ビールを飲みながら満月の夜は雅の歌が聞こえてくるのではないかと目を閉じて方向を定めている。
性戦 秦野 駿一 @kwktshun
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