第12話

雅がマスターに「初心者でも飲みやすいワイン出して」と紙に書いて渡した。するとマスターが


「ジョセフドラーテン ゲヴェルツトラミネール カビネットなんてどう?甘口の白だよ」


と出してくれた。そしてまたマスターが


「駿ちゃんは高校生だからこれ一本で今日は我慢するんだよw」と


「(とりあえず今日の旅行に乾杯ね!)」と雅


「乾杯」とその場の雰囲気に合わせようと小声で言った私。


ワインなんて飲んだことないけど、一口飲んでみるとなんていうか大人の味だ。鼻からふっと抜けるぶどうの香りとまろやかな甘みと酸味。ぶどうがどうやったらこんな味になるの?という不思議な思い。そしてマスターがあてを出してくれた。ものすごくこじゃれたものだったがとてもワインと合うものだった。筒状のものに何かを詰め込んだものにソースがかかっている。どんな風に作ったのかは分からないが手がこんでるなという印象は強い。


「(マスターにまかせておけば大丈夫でしょ?ワインバカ一代だからw)」と雅


「(うん。ワイン初めて飲んだけど美味しいし、雰囲気もめっちゃおしゃれ!ところで雅はここでなんの仕事をしてるの?)」


「(グラスを出したり料理を出したりお皿を洗ったりしてるわ。)」


「(ふーん。わりかしちゃんと仕事してるんだねw)」


「(わりかしってどういう意味よ?w)」


とニヤニヤしながらワインを飲んでいたらマスターが


「駿ちゃんと雅はなんだか話が通じてるような気がするね!」


「あ、ああ、なんとなく雅の表情で分かる気がするんですよ!」と私。


「ああ、それなら俺もあるけどさ、なんかもっと深い感じで繋がってるよね?」とマスター


そうすると雅が足を蹴ってきた。


「なんて言うんですかね?雅とはビビっとくるものがあるんですよwハハハ...」とごまかした


そしてワインを一本飲み干して店を出ることに。そこでマスターが見送ってくれた。


「駿ちゃん、酔ってない?ちゃんと歩いて帰れる?」


「あぁ、これぐらいなら大丈夫ですよ。僕って意外と飲めるみたいですw」


「これから雅の家によるの?若い二人だからね。ふふふwそれじゃあねー!」とマスターそして雅に紙を渡した。


「(マスターから何渡されたの?)」と私


「(若い男の子をたぶらかすな!だってさ。私はそんなに道を外れたことはしないわよ!)」


などと言いながらほろ酔いの二人はあの小屋へと向かうのであった。


小屋に着いてソファーにすわり一服した。すると雅が


「(私はね、1年前までは両親がいたの。そしてその両親とはテレパシーで繋がってたの。でもそのことを表ざたにはすることが何故かできなくて手話などを習うこともなくただ両親だけとのコミュニケーションを取っていたわ。でもその両親が交通事後で亡くなって私は一人この社会に放り出されたの。手話も何もできない私が路頭に迷ってる時にマスターと知り合ったわ。だからマスターは人生の恩人みたいな人なの。でも私の事を女性として見ることはなかったわ。私もマスターを男として見ることはなかったけど。なんていうか父親みたいな存在。うん。そんな感じだわ。)」


「(そうなんだね。でも何で俺とは彼氏?みたいな扱いしてくれるの?)」


「(彼氏ねw分からないわ。何故か波長が合うんだもの。こんな風に会話もできるしね。運命のいたずらかしら?w)」


「(いたずらってw)」苦笑する私


「(そういえば前に買った花火があるわ。ちょっと酔い覚ましにしない?)」


「(うん。いいよ。)」


「(綺麗だね。花火なんてするの何年振りだろう。小学校以来かな?)」と私


「(私はあんまり記憶にないの。ずっと隠されて生きてきたから。遠くで打ちあがった花火を何度か家族で見た覚えはあるわ。だからこの花火セットを夏を待ちきれずに買ったの。」


しばらく沈黙して花火を眺めていた。そうしているうちに


「(あーあ、花火なくなっちゃった。)」と雅


「(へび花火が残ってるよ?)」と私。


「(何これ?花火なの?)」


「(うん。この丸い黒いやつに火をつけると、うにょーって伸びてくるの。見てみて。)」


へび花火に火をつけてみた。それがうにょうにょとのびていった。


「あっはははははははは!」と雅が声を出して笑った。


「(え?そんなに面白かった?)」と私


「(だってう〇こみたいだもんw)」と笑いをこらえるのに必死な雅。


「(今日はいろいろあったけど今日一の喜びだねw)」


「(そんなことはないけど、ふふw面白いw...そうだ!この伸びる長さで勝負しよ!)」


「いいよ?じゃあ、お互いのライターで火をつけよう」


「(せーの!)」で火をつけた


へび花火はうにょうにょと伸びていった。ぐるぐるととぐろをまきながら意思を持ったかのように。


そして私の花火のほうが長く持った。


「(よっしゃ!俺の勝ち!)」


「(ちぇっ。負けちゃった。罰ゲームはどうする?)」


「(え?罰ゲームなんてあったの?)」と私


「(罰ゲームなしでこんなのやってられるかー!なんてねw...で、どうする?)」


「(どうする?って言われてもなぁ。)」と考えながらも下心が出てしまう。


「(じゃあ、キス?)」と私


「(うん。いいよ。)」と雅


二人口づけを交わすのだが、私が


「(ちょっと、長くない?)」と言うと雅が


「(これだけでいいの?部屋に行かない?)」と言った。


そこで初めて二人は契りを交わした。若い二人の情熱は聞くのも愚問である。ほとばしる熱いパトスというやつです。


事後に私は煙草を吸いながら(これがセックスというやつか...)としみじみと考えを巡らせていた。(俺はこれが初体験だが、雅はどうなんだ?)とふと思ったので聞いてみた。


「(雅はこれが初体験じゃないの?)」


「(マスターと一度だけあるわ。)」


「(え?父親みたいな存在じゃなかったの?)」


「(源氏物語でもあるじゃない?なんか初めは父親みたいな存在が大きくなったら性の対象みたいになったって話。違ったかしら?まぁ、そんな感じよ。)」


打ち明け話にあった純情をささげたってやつに大人げなく嫉妬したりなんかして。っていうミスターチルドレンの曲が頭の中で流れた。


明日は月曜日で学校である。終電も逃した。家族には友達の家で勉強してくると伝えたが、おそらく明日は学校にも行けないだろう。そう思いながら部屋の絨毯の上で寝た。雅はソファーの上で寝ている。


to be continued...

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