第31話 魂

「だってリスナーや本社の人、私だって、叶のことは大好きだもん」


 親友が放った一言はそれだった。

 そんな言葉に対して私は少し狼狽えたあと、頭を抱える。


「……貴方が私を好いてくれているのはわかってます。だけどリスナーや本社の人がスキなのはアリシアの方でしょう。私はそう言っているのです」


 そう。私を好いてくれているのは詩織だけ。他の人は私じゃなくてアリシアを見ている。そんなのわかってる。


「んー……そうじゃなくて」


 詩織が少し困ったように首を傾げる。

 そうすると言葉が思いついたのかコチラを向いてくる。


「……は?」


 詩織が放った一言に私は唖然としてしまう。

 だってそれは私の中で一欠片もなかった考えであり、私の考えを全て壊してくる物だったから。


「叶は悲観的に考えすぎなんだよ。アリシアと叶は一緒の人物!叶はアリシアでアリシアは叶なの」


 目を見開いたまま下を向いてしてしまう。

 眼の前にはベットの凹凸があるはずなのにそれが均一に見えてきてしまう。


――――頭が割れるように痛む。


 全てがシロと化していく中、私だけがような錯覚を覚える。


――――思考が渦巻く。


 今まで考えてきたことは何だったのだろうか。

 そんな簡単なことで……根底から潰されていいのだろうか。


 良い訳がない。


 瞬間、私は詩織の襟を掴む。


「そんな事ありません!絶対に!私とアリシアは別なんです!絶対……絶対……そうじゃないと……」


 詩織は驚いた表情も見せずに私をまっすぐ見ている。

 そんな瞳を私は怯えた瞳で見る。


 次第に涙がこぼれてくる。そんな涙を追いかけるように下を向く。

 詩織が未だにコチラを見ている中、私は震えた声で……。


「私のこれまでが……無駄になる……」


 あのときの決意の時炎が、消えてしまう。


 そう言葉をこぼした。


「……」


 静寂が場を支配する。


 しかし私の中は静寂を一切感じられないほどざわめいていた。

 その殆どが否定。


 私が啜り泣く声が響いている中、詩織はそっと私の肩に手を置いた。


「……貴方の考えを否定するようなことを言って申し訳ないけど、私は私の考えを変えれない」

「……ッ」

「叶がいなきゃアリシアは生まれなかった。叶だからこそ、アリシアは生まれたんだよ」


 詩織は一拍おいてこう告げる。


「つまりそれって叶はアリシアの魂ってことじゃない?」


 一層襟を掴むの手に力が籠もる。


「皆貴方を見てくれてるんだよ。ガワだけじゃなく……心も……魂も……」


 涙が落ちる。


「だからさ」


 視界が霞む。


「そんな顔、やめなよ」


 胸が苦しくなる。


「今は感じられないかもしんないけど」


 でも。


「いつか、感じられるよ」


 希望の炎が私に灯った。


 ――――――――――


「そんなわけで歌ってみた公開記念配信です」


 コメント

▷キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

▷¥2000 いい歌やった

▷歌うま過ぎで草


 あれから数日……数週間が立ったある日、やっとの思い出歌ってみたはネット上に上がった。

 当初はもっと前に収録、公開される予定だったのだが私の都合によりだいぶ延期になったのだ。

 それまでは配信も休んでしまい、リスナーにはだいぶ心配をかけたと思う。

 こんなにブランクが空いた配信だから視聴者数は減るものだと思っていたが、むしろ増えていた。これは……私を信じて待っていてくれたリスナーたちのおかげもあるだろう。


「本当に……ありがとうございます」


 コメント

▷アッ

▷召される〜

▷ヘブンはココにあったんやなって


「誇張しすぎですよ」


 思わず漏れてしまった言葉に過剰反応するリスナーたちのコメントを見ながら私は優しく微笑む。


 そんな中、1つのコメントが私の目に写る。

 

 コメント

▷なんか垢抜けた感じがする


「そう……ですか……?」


 なんでバレたのだろうと疑問に思いながら私はここ数週間を脳内で振り返る。


 詩織のあの言葉の後、私は電池が切れたかのようだったらしい。


 病室でずっと窓の外を見て、ご飯は少ししか食べないし、寝るのもパタンと倒れるように寝ていたらしい。

  

 それもそうだ。それまでずっと悩んで、苦しんで来たものを真っ向から否定されたのだから。


 それでも詩織や坂本さんは私を信じて待ってくれていたのだという。


 それから1週間が立ったある日、私は突如元の私に戻った。

私視点では気絶から戻ったかのような感覚だったのだが周りから見れば急に朝にもとに戻ったかとのように見えたという。

 この間に私に何が起こったのかは知らない。覚えてない。

 だけど私は幸せそうな顔をしていたらしい。


 それならいいかと私はそこで考えを止めた。


「ニーリャには感謝しなくちゃね……」


 コメント

▷お?

▷ニーリャとなんかあったの?

▷てゆうかアリアの敬語以外始めて聞いたかも

▷教えてー


「い、嫌ですよ!絶対に教えません!」


 私から見たリスナーたちへの印象もだいぶ変わった。これからは他人行儀に話すこともなくなるだろう。


 ここが私の再出発点。一歩は進めるように努力をしよう。


「皆さん。これからも宜しくお願いします!」





 ターニングポイント【Vtuberの魂】


 ――――true route




 

★★★


1章終了に当たって2章構想作成によりしばらく投稿を休ませていただきます。

宜しくお願いします


★★★

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今と向き合い、神秘的美声Vtuberは生きていく なすびづくめ @nasubizukume

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