第30話 アリシア・アンモライト
私が初配信をして、最初に感じたものは違和感だった。
確かに私はこの職業につけば私の疎外感がなくなるのではないかと、人気者になり誰か見てくれるのではないかと……そう思っていた。
しかし私にはその実感が湧いてこなかった。
私は思ったんだ。もっと人気にならなければこの違和感は無くならない。そりゃあっから人気にはなれないと。
それで私はやけになり配信をする日々を送った。
人気ものである理由。チャンネル登録者を増やすために色々なジャンルの配信をした。
周りから見たら少し気を張りすぎているように見えたらしいがそんなものは知らない。
これは私が私を認めるために大切なことだから。
それでも違和感は消えなかった。
薄々私は察していたのだろう。
視聴者が見ているのは私ではなくアリシア・アンモライトというガワ止まりなのだと。
そんなときにあるスレッドを見てしまった。
『アリアってぶっちゃけ雑談面白くないよね。外見と声がいいから見てるけど』
その反応に対する他のリスナーの反応は『そんなこと言うなら見るなハゲ』『氏ね』『アリアは可愛いだろうが!』と私を養護するような言葉ばかりだった。
でも雑談が面白くないというのは誰も否定していなかった。
私の中にあった違和感は明確な形にもった。
全員が有澤叶ではなくアリシア・アンモライトを見ていると。
私は必死になり人気者になろうとした。
他の人の配信を見てどのようにすれば視聴を続けてくれるのかを研究する。
他の人気者を手本にする。
それからだった。詩織のような人気者に対して徐々に恨みを持った目で見てしまうのが始まったのは。
こんな人は私のように努力もせずに持ち前の才能だけでみんなから注目されてるんだろうなと、嫌な想像をしてしまう。
突っ走る。
もっと人気になれば中身の私に気づいてくれるかもしれない。
皆が私を見てくれる。
――――世界に居てもいいって思えるようになる。
歌ってみた配信をすればより一層人気が出るだろう。
だから私は止まれない。
この気もちを拭わないと私は壊れてしまう。
だから私は止まれない。
そしたらきっと私のトラウマもなくなってくれるはず。
だから私は止まれない。
だから。だから……!
もう、私を振り向かせないでほしい。
――――――――――
「そんな、こと思ってたの」
「……はい」
これまで話してきた内容を慎重に咀嚼するように詩織は頭を下げている。
そんな詩織を私はどこか冷たいような、それでいて本心は不安でいっぱいにながら見つめていた。
「だからもう。私に変な気は回さないでください。これまでと同じように接してくれればいいんです」
変なことをいってるだろう。
あんな本心をさらけ出しておいていつも通りに接しろと言っているんだ。そんなことをこの娘ができるはずがない。
「……私の内心に関わらないでください」
この子はきっと私を拒絶していくか過剰に心配するだろう。
それなら私は詩織を突き放す方がいいと思った。
詩織はまだうつむいている。
私の言葉が聞いたのだろうか、微動だにもしない。
これで私はなんの憂いもなく私の道を走れる。
私は話が終わったと思い、詩織とは反対の方向をむこうとする。
刹那、私の顔は両手に包まれ、詩織の方に向いてしまう。
「ッ……これ以上なにか言うことがありますか!」
私は再度詩織を突き放さんと声を荒げる。
でも詩織は顔を上げない。
私は詩織のその様子に苛立ちを募らせていく。
「関わらないでって言ってるの!」
ついいつもの敬語が外れるが気にしない。
それほどまでに私はこの子を……詩織を深く考えさせたく無かった。
それでもまだ詩織はうつむいたまま。
こんな詩織を見たことが無く、私は怒りと同時に不安も湧き出てくる。
「なにか言ったら……」
「――――――ね」
「は……?」
私の言葉を遮りながら詩織は顔を上げる。
その顔は清々しいほどの笑顔だった。
その顔に私は混乱を隠せずにいる。
そうすると先程は小声で聞こえなかった言葉を今度ははっきりと言った。
「あんたバカね」
「は……い……?」
私はその言葉が耳に入った瞬間、頭が真っ白になった。
「だってそうだよ。まず根本から間違えてるんだもん」
そんな私を気にせず詩織は私に語りかける。
「根本……ですか……?」
「うん。皆から避けられてるってとこ。疎外感……だっけ?」
「え、ええ……」
まだ混乱してる私はその問いかけに思わず反応してしまう。
「うーん……私から見たら全然阻害されてないと思うけどね」
「……いやいや。皆私と関わらないですし、何より私には大学以前の記憶が……」
そこで私はハッと目を見開いてしまう。
詩織にはまだ記憶喪失の話なんてしていない。する気もない。
なのにその話を思わず詩織にしてしまった。
詩織は私に向かって訝しげな目を向けはぁとため息をつく。
「その話もまた今度してもらうからね」
「……」
そうすると詩織は椅子を立ち上がり私を上から目線になる。
「たとえ記憶がなかったとしてもそれは疎外されてるってことにはならないと思うな」
「言わせておけば……!」
そこで私は怒りが爆発する。
「あなたに分かるんですか!?目覚めたら何もわからない!自分の家に帰ってもどこか自分の居場所とどうしても思えない!こんなことを感じておいて疎外されてないなんて……それこそ最高の皮肉ではないですか!」
「それでもだよ」
「なんで……!」
詩織は私に顔を近づけてくる。
その顔はどこか私の中を見透かしたかのような目をしている。
「だってリスナーや本社の人、私だって、叶のことは大好きだもん」
そう、
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