第29話 ワケ

「ッ……ん……」

「あっ!起きた!」


 目の前には白い壁がある。

 ……いやこれは壁ではなくて天井なのだろう。

 私はいまベットに寝っ転がっている。

 横からは詩織がコチラを覗いている


「大丈夫!?急に倒れたんだからね!?」

「……そうなのですか」


 確かこうなる前の私の記憶では普通に帰路についていた気がする。

 今日の練習から嫌な予感がしていたがまさかこんなことになるとは思いもしなかった。


 そうすると病室のドアが開き、白衣の男性が入ってくる。多分医者だろう。


「目覚めましたか」

「はい」

「どこか具合が悪いところはありますか?」

「……いえ。特には」

「そうですか」


 そう言うと医者はこちらの方に向かってきて詩織と対の場所に座る。


「貴方が倒れた原因ですが……疲労ですね」

「あぁ……まぁ……はい」


 正直原因が疲労なのは分かっていた。


「……その様子ですと分かっていたようですね。今日は病院で過ごしてもらって、諸々検査して異常がなかったら退院と言う事でよろしいでしょうか」

「はい」

「退院は早くても2日後となりますが」

「……予定はありますが都合つけてもらうので大丈夫です」

「了解しました。では」


 そう言うと医者は部屋から出ていく。

 なんか素っ気ない人だなと思いながら私は近くにおいてあった水を一気飲みする。

 そして私は手元にあったスマホを取り、坂本さんへと電話をかける。


「もしもし」

『あっ!アリアさん!?大丈夫でしたか!?』

「ええ。大丈夫です」

『こんな時に倒れて……明日いけますか?』

「早くても2日後に退院って言われたので無理ですね……調整できますか」


 そう言うと電話越しに紙をめくる音がなる。


『企業側にもかくにんしなければいけませんが多分行けると思います。来週とかになりますが』

「それで結構です」

『わかりました。……今後はこんな事にならないようにしてくださいよ!私超心配したんですから!』

「はい。以後気をつけます」

『……本当に、ですよ』

「はい」

『では』


 坂本さんが少し小さめの声を発したあと電話が切れる。

 スマホを近くの机に置き、私のそばにずっといる詩織に視線を向ける。

 詩織は苛立ちを隠せていないような表情でこちらを見ていた。


「……で?なんでこんなむちゃしたの?」

「はい?」

「疲労困憊何でしょ?ならそんなになるまで頑張っていた理由を聞かせて」


 水を飲んでいた私に向かってきて怒気を醸し出した顔で詩織は私に話しかけてくる。

 これは私の問題だし言う必要もないでしょう。


「別に関係ないでしょう」

「関係なくない!」


 そっぽを向きながら答えた私に向かって詩織は大声で語りかける。


「私がこの業界に誘い込んだ!私が叶をVtuberにしたんだ!なら関係なくないでしょ!?」

「それは私の意思です。意思がなければここVtuber業界には来ていません」

「でも……!」

「でもではないです。貴方は関係ないんです」


 そう言うと叶は私の入っているベットの掛け布団をギュッと握りしめる。

 その様子をものともせずに私は窓の外を見続ける。


「じゃあ友達として話してよ!」

「……は?」


 私は詩織のその言葉に目を見開いてしまう。


「関係者がだめなら友達として!」

「いやいや……関係者でもだめなら友達はなおのこと駄目でしょう……」

「違うッ!」


 詩織が私の言葉を遮るように叫ぶ。


「友達ってのは立場とか関係なしに相談を聞くもの!だから私は貴方の話を聞く権利がある!それに……」

「なんですか」

「あなたこのままだと誰にも話さないつもりでしょ」

「!」


 私は痛いところをつかれ、体をビクッと震わせてしまう。


「だから!今!ここで!私に!話すの!」


 私はその言葉に少し憤りを感じた。


「話しません。これは私の問題です」


 詩織はさらに顔を怒りで赤く染める。


「あなただけで解決できなかったからこうなってるんでしょう!?」

「それでもなんですよッ!」

「ッ……」


 私の大声に詩織はさらに気圧され、体を少し後ろにさせる。


「これは貴方にとっては絶対にわからないことなんです……!貴方みた、いな……!」

「わからないことなんてない!」

「ありますよ!これは私だけしかわからないんです!誰も私を助けれないんですよ!だから、ほっといてください……」


 私の目にはいつの間にか涙が溜まっており、それに気づき手でそれを拭おうとする。

 だがそれを詩織に止められてしまう。


「聞かせて」

「だから……!」

「貴方が私に何を思ってるのか知らないけどそんなの関係なしに貴方は今、すごく悲しそうに助けを求めてるように見える。だから貴方だけでは何も解決しない」

「ッ……」

 

 私はその言葉に反論しようと口を開けるが言葉が出ずに半開きのまま口を動かせず、シーツを握りしめてしまう。

 

「だからさ。ね?話してよ」


 そんなわたしをみて詩織はニコッと笑いかけてくる。


「わか……りました……」


 私は観念しぽつりぽつりと言葉を紡いでいった。

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