第119話 やっと温泉に着きましたっ。でも入る前に……。
どうやら本気らしい。
巻き込まれないように私は超俊足でその場から離れる。
「黒の咆哮ッ」
星波ちゃんが剣を横に大きく一閃する。
すると黒色の輪がドーム状に膨れ上がり、周囲の壁と天井を覆いつくす。
ドーム状の中は全てが攻撃範囲だ。
しかも、レベル250くらいまでのモンスターなら即死必至の強力奥義。
レベル65のラージゲジゲジゲージなど一溜りもないだろう。
いや、やりすぎですけどねっ。
やりすぎで、ラージゲジゲジゲージに同情するくらいですっ。
終始、ドローンに背中を見せていた星波ちゃんが、振り返る。
「ラ、ラージゲジゲジゲージって可愛いけど、しつこいのは嫌かな」
微妙に強張っている顔の星波ちゃん。
多分、私にだけ分かるレベルで。
やっぱり、イメージを守るために隠し通す気なんですね。
そう決めたのなら私も協力を惜しみませんっ。
【コメント】
・容赦ねえええええええw
・クラスCの雑魚に轟の技使うとか大サービスだな
・さすがに黒の咆哮使うとは思わんかった
・またしても雑魚敵に全力投球の星波様
・バトルに飢えているのか
・可愛いか? にしてはやり過ぎのような気が・・・
「そ、そうなんぇすよ。星波ちゃん、今日はちょっとバトルがんばりたいみたいなこと言ってましたんで、かなり張り切っているんぇすよ。だからやり過ぎに見えるのかもしれませんね」
私は視聴者の憶測を事実へと変換する。
こうしておけば、このあとのバトルで全力を出しても違和感はないだろう。
10分後。
数珠状の触覚と咀嚼型の口器を持つ、モンスターと遭遇。
社会性昆虫であるシロアリを巨大化したような、ストロングシロアリだ。
モンスターレベルは40と、クラスCダンジョンでは最弱。
しかし質より量なのか、その数は30~40匹ほど。
もちろん、ここも打撃よりかは魔法だよね。
モンスターレベルは低いし、フラッシュアローの連発で切り抜け――
「はあああああああああっ」
星波ちゃんの無双スイッチがオン。
ブラックプリンセスが縦横無尽に舞う。
瞬く間にストロングシロアリの死骸の山が築かれた。
12分後。
背が曲がり、触覚の長く、発達した後脚を持つモンスターと遭遇。
飛び跳ねる様が馬を思わせるカマドウマ。
それを何倍にも大きくしたデスカマドウマだ。
モンスターレベルは135と、クラスCダンジョンでは強敵の部類。
数は5体と少ないけれど跳躍での移動は厄介で、魔法を当てるのが難しい相手だ。
だけど私にはホーミングレイがある。
威力は弱いけれど、何度か当てれば確実に倒せ――
「はあああああああああっ」
星波ちゃんに無双ブーストが掛かる。
闇の剣聖がウロボロスソードを手にして踊り狂う。
あれよあれよという間に、デスカマドウマの死体が周辺に転がった。
9分後。
細長い体型で、
数は8体。虫であればハサミムシという名のそれは、ハサミクラウン。
モンスターレベルは110であり、そこまで強い相手ではない。
しかしあの大きなハサミで挟まれれば、体が2つになるのは間違いない。
聖魔法があまり有効ではなかったはずなので、打撃あるのみ。
ハサミは後ろにあるので、一気に速度を上げて頭部をぶん殴れば――
「はあああああああああっ」
星波ちゃんが三度、無双を発動。
黒の伝説がまたしても烈の技を披露する。
瞬きを2回する間に、ハサミクラウンは体のいたるところを損壊して
7分後。
ダニを大きくしたダダンダニと遭遇。
「はあああああああああっ」
11分後。
ヤスデを巨大化させたヤスデヤスデと遭遇。
「はあああああああああっ」
6分後。
コイガをとにかくでかくしたデッカイコイガと遭遇。
「はあああああああああっ」
8分後、ヒルを肥大化させたモンスター。7分後、おっきなゾウムシ。数分後アシナガグモ、シミ、カツオブシムシ、
「もう、いい加減にしてっ! 極の技――黒の暴食ッ!!」
堪忍袋の緒が切れたのが、ガチギレの星波ちゃんが極の技を使い出す。
隻眼のオゥガを真っ二つに両断したあれだ。
単体専用の大技だと思っていたがそうではないらしい。
【コメント】
・うおおおおっ、かっけえええええ
・極の技までキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
・アリンコに本気のゾウみたいだな
・クラスCで出していい技じゃないw
・ダンジョン崩落させる気っすか?
・星波様、ストレスでもため込んでいたか??
ウロボロスソードに纏う、ドラゴンの口を模したような黒い波動。
それが、星波ちゃんが剣を振るうたびに数匹のモンスターを飲み込んでいく。
まるで、渋川Cダンジョンの食物連鎖の頂点に立つのは自分だとばかりに。
全てのモンスターを食してお腹いっぱいになったのか、黒い波動が消えていく。
肩で息をしている星波ちゃん。
いつもより張り切りすぎたのか、相当疲労感が溜まっているにちがいない。
振り返る星波ちゃん。
「はぁ、はぁ、……温泉、早く入りたいかも」
やや弱々しい笑み。
そこには、もううんざりといった感情が見え隠れしていた。
でもそれで、星波ちゃん=虫嫌いと繋げて考える視聴者はいないだろう。
ふと、ドローンから照射される立体映像を見ると、開けた空間がさきにある。
あれ? これはなんだろう。
「あの、星波ちゃん。ここに大きなへこみがあるみたいなんぇすけど、これって穴ですかね?」
「穴?」と立体映像を見る星波ちゃん。すると「これ、温泉だよっ。絶対に温泉っ」と弾んだ声を出した。
温泉。
言われてみればそうかもしれない。
事実、さっきから眼前に湯気が漂い始めている。
なんだか体も熱くなってきた。
これはもう間違いない。
「ですねっ。行きましょうっ」
そして、開けた空間に辿り着く私と星波ちゃん。
覗き込めば、正しく温泉としか形容できないものがそこにはあった。
なぜ覗いたか。
開けた空間に入るには、アーチ状の解放部を通らなければいけなかったからである。
「立ち入り禁止ルートにもボスがいるんだ。これは知らなかったな」
「ボスと戦わずに温泉に浸かるのはさすがに無理そうぇすね」
「うん。そうだね。じゃ、さっさと倒そうっか。早く温泉に入りたいし」
【コメント】
・温泉に入るにはボスを倒せってか
・源泉の守護者・・・なんかださいなw
・ここでたくさん汗を掻くのもいいかもね♥
・何? また虫系? スーパーゴキブリか??
・星波様に瞬殺される運の悪いボスはどいつだ?
・個人的にはよっちゃんのバトルが見たいのだが・・・
・ここはよっちゃんの出番だろ。何もしてなかったしw
その通りだと思いますっ。
私、全然モンスターと戦ってなくて疲れてもいないから、温泉を楽しめないと思うんですよね。
なので、ここで宣言しようと思いますっ。
「星波ちゃん」
「うん。分かってる。ボスは任せた」
やっぱり星波ちゃんは分かっていてくれた。
「はい。――ボスは私が倒しますっ」
よーし、やるぞーっ。
【朗報】底辺ダンジョン配信者の私ですけど、最強のエンシェントドラゴンをある方法を使って倒したら鬼バズりしちゃいました。 真賀田デニム @yotuharu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【朗報】底辺ダンジョン配信者の私ですけど、最強のエンシェントドラゴンをある方法を使って倒したら鬼バズりしちゃいました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます