第118話 気持ち悪い虫系モンスターがどんどん現れております!


 立ち入り禁止ルートを進む私と星波ちゃん。

 

 この渋川Cダンジョンは台東Cと同じく、天然系に属するらしい。

 天然系とは、〝一切、あるいは加工されていてもほんの僅かである〟ダンジョンのことを言うのだけど、確かにここは天然といった感じだ。


〝映え〟の観点からすれば正直、あまり面白みはない。

 

 渋谷Bダンジョンみたいな、現代の建物が入り込んでいる混成系。

 あるいは、自然に満ちた原生系とかだったら視聴者目線でも楽しめたと思うのだけど……。


 そういえば、もう一つあった。

 確か、文明系。


〝地球ではないどこかの文明で構成されている〟らしいのだけど、そういえば一度も見たことがなかった。

 

 ネットで探せば出てくるかな。

 なんてことを考えていると、いきなりウー、ウーと近くで電子音が鳴り響いて私は飛び上がりそうになった。


「なんぇすかっ、この音!?」



【コメント】

 ・え? 警戒アラームだよね?

 ・それ、モンスター警戒アラームです

 ・警戒アラームじゃね?

 ・いや、モンスター警戒アラームだろ

 ・警戒アラームとしか・・・

 ・わからんのかーいw

 


 すいませんっっ。


「うん。いるね。そのさきを右に曲がったところから、6、7体くらい」


 星波ちゃんが、ドローンの斜め下に照射された立体映像に目を向ける。

 ドローンを中心とした半径100メートルの、ミニチュアサイズの疑似空間。

 色もほぼ灰色一色で完全再現ではないけれど、とても分かりやすい。


 星波ちゃんの言った通り6、7体のモンスターがこちらに向かってきていて――、

 そして前方の曲がり角から姿を現した。


 光沢のある暗黄褐色に黒い斑点。

 6本の脚をぶらぶらさせながらこちらに飛んでくるあれは、


「みなさん、えっと、あれは……ス、スティンクカメムシが現れましたっ。確かレベル90だったような気がします」



【コメント】

 ・お、詳しいね

 ・お勉強、がんばってるのかな

 ・よっちゃん、よくできましたっ

 ・もう銀潜章だもんね、よっちゃんは

 ・カメムシか。嫌な予感・・・

 

 

 はい、勉強は頑張っていますっ。

 モンスター大図鑑に載っているモンスターも7割は覚えましたから。

 ダンジョン語もまあ、それなりに。


 ところで、スティンクカメムシと言えば厄介な攻撃があったはず。

 その攻撃は、対象との距離がある程度離れたところから仕掛けてくる。

 正に今がその距離であると気づいたとき、


 スティンクカメムシ達が一斉、お腹をこちらに見せる。

 次の瞬間、臭腺開口部から紫色の気体を放出させた。


 出たっ、悪臭攻撃!

 

 普通のカメムシでも、その匂いは強烈だ。

 それよりもはるかに大きなスティンクカメムシの悪臭攻撃である。

 並の臭気測定器だったら爆発するかもしれない。


 ただ、距離を取ればなんてことはない。

 ここは私の魔法で――、


「はああああああああああっ」


 星波ちゃんが怒涛の勢いで、スティンクカメムシ達に突っ込んでいく。

 

 えっ? 


 いくら超絶剣技を用いる星波ちゃんでも、それは無謀……だと思ったのだけど。

 

 紫色の気体が一か所に吸収されていく。

 そこは、星波ちゃんが装着している右の黒焔の籠手ウロボロスガントレット

 

 そうだ。

 ウロボロスガントレットには、〝ガス系の攻撃や罠を全て吸収する付帯能力〟があったのだ。

 

 悪臭という障壁が消え去った今、星波ちゃんにとってスティンクカメムシなど、雑魚中の雑魚。あっという間に片づけてしまった。本当にあっという間に。



【コメント】

 ・さすが星波様っ

 ・優秀過ぎる換気扇ガントレットw

 ・雑魚相手にやけにガチモードだったな

 ・気合の入り方が高レベルボス並なの草

 ・何かに急かされている感じに思ったのはワイだけか?


 

 何かに急かされている。

 それ、惜しいですっ。


 星波ちゃんは虫系モンスターが苦手なんで、さっさと視界から消したいんです。

 ――という皆さんの知らない情報を持っているわけですけど、これは今のところお口チャックですねっ。

 

「よっつ。こっちに来て。先に進むよ」


 にこやかな顔。

 

 うんうん、うまく動揺は隠せているようですね。


「はーい」

 


 ◇

 

 

 しばらく進むと、再びモンスター警戒アラームが鳴り響く。

 

「待って、空間解析上にはモンスターらしきものは映っていない。ってことは――」


「故障、ぇすかね??」


「違う」星波ちゃんの顔が険しくなり、刹那、緊迫を思わせる声を張り上げた。「私は上っ、よっつは下に目を向けてっ。どっちかからモンスターが出てくるはず――」


 ボコンッ、ボコボコボコンッッ!


 音が聞こえた。

 と思った瞬間、いくつもの影が地面から飛び出した。


 モンスターっ!?


 私は飛び出した10数匹の何かを視認する。


 鞭のように細長い15対の脚。

 体の背面には一列に並んだ気門。


 うっ、こ、このモンスター達は……っ。


 ムカデ綱のゲジ目ゲジ科に属するゲジゲジ。

 それを巨大化したラージゲジゲジゲージだ。

 モンスターレベルは65と低いが、見た目のインパクトがとにかく強烈で、眉を顰めること必至である。



【コメント】

 ・うわ、気っしょいの出てキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 ・わさわさわさわさわさわさ

 ・放送禁止レベルに気持ち悪いな

 ・モザイク、モザイクゥゥゥ

 ・でもゲジゲジは益虫えきちゅうだぞ。いいやつなんだ

 ・ゴキブリ食べてくれるもんな

 ・俺、飼ってるぜ、家で

 

 

「益虫っていうのは知ってますよ。庭にいたら放っておいてもいぃと思ってます。でもそれは虫の話であって、このラージゲジゲジゲジゲジラージゲジ??はモンスターぇすからね。人間を害虫だと思って襲ってきます。なのでやられる前にや――」


「はあああああああああっ!!」


 推しが私の前を必死の形相で走り抜ける。

 そのさきで、ウロボロスソードを上下左右と振り回す星波ちゃん。

 一陣の風が吹いたかのように、数体のラージゲジゲジゲージが血しぶきを上げて宙を舞い、脚が飛散する。


 星波ちゃんが駆ける場所は全てそんな感じの無双状態。

 私も参戦しなきゃと、エンシェントロッドを構えたときには、ラージゲジゲジゲージは見るも無残な死骸だけになっていた。


 ひと段落と思ったら、またしてもラージゲジゲジゲージが襲来。

 どうやらこの辺はラージゲジゲジゲージの密集地帯らしい。


 よーし、今度こそ私のば、


「あーもうっ。よっつ、離れてっ」


「え?」


 星波ちゃんが腰を低くする。

 次に左手を前に出し、ウロボロスソードを持った右手を後ろに構えた。


「轟の技――」


 ご、轟の技っすか!!?

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