第117話 立ち入り禁止の理由を皆さんに聞いてみました。


「い、いやいや、ないぇすないぇすっ! ぽろりとか絶対、ないぇすからね!? タオルしっかり巻きますし、巻いたあと、湯に沈んで地蔵のよぅに微動だにしませんし、とにかくぽろりとかないぇすからね!? それだけはここではっきりとさせたおけますかあねっ!?」



【コメント】

 ・いつにもなく顔が真っ赤w

 ・そうだ、温泉に入るんだったよね

 ・全く動かんとか草

 ・コメントに困るな・・・

 ・え、いや、あっても……よくないっ!!

 ・大丈夫だよ、ぽろりしても。絶対に見ないから♥

 ・動揺しすぎで噛みまくりwww

 ・これは星波様が悪い(小声)

 ・それだけはここで――はいっ!?

 


 動揺している自分が恥ずかしーっ。

 でも、まさか星波ちゃんがあんなこと言うなんて。

 

 あまりにも意外なところからの不意打ち。

 私は、うーっと、ちょっと頬を膨らませて星波ちゃんを睨む。

 すると星波ちゃんは慌てたように、


「ご、ごめん、よっつ。そんなに動揺するとは思わなかった。悪ふざけが過ぎたみたい。ごめんね」


 と両手を合わせて平謝り。


「い、いえ。冗談だって分かっているのに真正直に受け止めて、慌てふためいている私が悪いんぇす。ここはあれですよね。〝ぽろりですかー、もしかしたらあるかもしれませんよー、こうご期待っ!〟くらいのノリが良かったぇすよね」


「いや、それだと視聴者の人達、本当に期待しちゃうから。そこは最後に、〝って、そんなわけないじゃーん〟って締めればいいと思う」


 なるほど。

 自分で乗って自分で突っ込む。

 これなら場を盛り上げつつ、本来の着地地点に落とすことができますね。


 星波ちゃんだったらどんな感じなのだろうか。

 ……よーし。


「と、私のポロリはないんぇすけど、お隣の〝深淵を統べる美女〟こと星波ちゃんならもしかしたら――」



 えぇぇぇ。



【コメント】

 ・で、ですよねー

 ・宇宙って・・・

 ・そこはせめて地球で

 ・不可抗力さえ寄せ付けない星波様の覇気

 ・こうなるとむしろよっちゃんのほうが期待できるレベル

 ・大丈夫!妄想で補うから!



 ◇



 立ち入り禁止ルートの扉を開けるにも潜章カードが必要らしい。

 もちろん、立ち入り許可を得ている潜章カードであり、星波ちゃんのがそれだった。


 扉の脇の機械で潜章カードをスキャンする星波ちゃん。

 するとピピッと電子音が鳴って、扉が開いた。


 扉の向こうは、こちら側と何ら変わらない薄暗いダンジョンが続いている。

 立ち入り禁止ルートと聞いて身構えていたのだけど多少、肩の力を抜いても良さそうだ。


「こっち側と同じよぅに霊光石の光がダンジョン内を照らしていますね。誰かが入ったことはあるようぇすね」


「うん。立ち入り禁止になる前には普通に入れたはずだからね」


 それはそうですね。

 アホなこと言ってすいません。


 ……でも本当に、なんで立ち入り禁止になっているのだろう。

 星波ちゃんも知らないということは、探索者ギルドのホームページにも書かれていないのだろう。

 

 あ、そうだ。

 これは視聴者さんとのコミュニケーションのチャンスっ。


「みなさーん。今から入る立ち入り禁止ルートなんぇすけど、なんで立ち入り禁止なのかが分からないんぇすよ。なので、こういう理由かもしれないなぁ、ああいう理由かもしれないなぁ、というのがあったら上げてほしいかもです」



【コメント】

 ・とんでもなく強いモンスターがおる

 ・超危険な罠がある、かなぁ

 ・異世界へと通じているとか

 ・放送禁止な何かがあるんちゃうん?

 ・ずばり!! 温泉が気持ちよすぎてずっと居座る奴おるから

 ・危険なのは間違いないだろうけど、なんだろ・・・

 

 

 


 強敵モンスターや危険な罠は想像できたけど、それは思いつかなかった。

 

 ないとは言えない。

 あまりにも温泉目当てにダンジョンに潜る探索者が多すぎて込み合うから、立ち入り禁止にした。


 うん、あり得るかもっ。


 と星波ちゃんに伝えると、


「うーん、どうだろ。もしかしたら過去にそういったことがあったかもしれないね。事実、景観の美しいどこかの原生系ダンジョンなんかも、立ち入り禁止の規制を敷いたこともあるし」


「そ、そうなんぇすかっ。だとしたら期待大ぇすねっ。――ということで、温泉が気持ちよすぎて立ち入り禁止になった。に私の中では決定しましたー。そう思ぅと、俄然やる気がでてきましたね。どんなモンスターでもどんと来いって感じですっ」



【コメント】

 ・憶測が決定事項へ昇華w

 ・ものごと楽しもうというその姿勢が好き

 ・普通にあるかもな、それ

 ・熱くなったらタオル取ってもいいんだよ♥

 ・モンスターも温泉に浸かってたりしてw

 ・おい、セクハラコメントすな!



「ふふ、よっつがそう言うと本当にそう思えてくるから不思議。それを願いつつ、先に進もうか?」


「はいっ」


「――の前に、よっつのドローンの設定、もう一度確認してもらってもいい?」


「え? 設定ぇすか?」


「うん。多分、モンスター警戒アラームONにしてないんじゃないかなって。さっき、モンスター近づいても鳴らなかったでしょ」


 モンスター警戒アラームっ。

 ……そういえばそんな便利な機能が私のドローンにはありました。

 台東Cのときは不具合で使えなかったけど、星波ちゃんに直してもらったんだよね。


「――これで、ONになりました。あとこのダンジョン空間解析?もONにしますか? でもなんでしたっけ? この機能」


「もう、よっつは……」と苦笑いの星波ちゃんが説明してくれる。


 半径100メートルのダンジョン内の全体を解析し状態を把握したのち、3D点群と画像に加えて移動体センサから得られるセンシングデータを相互活用し、モンスターの位置を把握する機能――と。


 う、頭から煙がっ。


「えっと、つまり…………モンスター発見器というわけぇすねっ!」


「まあ、そんな感じかな。これがあると、モンスターとの鉢合わせのストレスも緩和されるから、かなりおススメ。ただ、充電の消費が多いから、長時間の連続稼働は止めたほうがいいかもね」


「そうぇすか。じゃあ、今からすぐ使うのは止めたほうがいぃかもですね」


「あ……そ、そうだね。その判断はよっつに任せる」


 ?

 今の星波ちゃんの反応が気になる私。

 でもすぐに、〝ああ、そっか〟とその理由が分かったのだ。


「やっぱり、最初から使おうと思ぃます。だって私、大嫌いなモンスターがいつの間にかそばにいたら嫌ですから」


 星波ちゃんの表情に、安堵の色が浮かんだ。

 

「よっつ、ありがと」


「いえいえ。ちなみに私の嫌いなモンスターはウータンバットぇす」


「ウータンバット……ああ、くそね。落とされたもんね、よっつ、4回も」



【コメント】

 ・。ああ、か。あったなぁ、

 ・確かにと、が4発だったなw

 ・あれはが凄すぎて、こっちまでの臭気漂うレベル

 ・何がって、落としをするウータンバットが

 ・でもモンスターのとかすぎるだろ

 ・よっちゃんのまみれ回とか、俺、わろたけどなw


 

 コ、コメント欄に糞の文字が大量にっ。

 自分のせいだけど、なんか気分が悪くなってきましたっ。

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