第116話 1週間ぶりのライブ配信。皆さんに逢いたかったぇす!


「別にさ、虫が全部嫌いってわけじゃないよ。蝶々とかは好きだよ。2メートルくらい離れて、ひらひらと飛んでる蝶々は」


 近いとダメなんだ。

 確かに間近で見ると、細部がグロテスクだったりするので分かる気はする。

 

 私も虫は苦手だけど、星波ちゃんのそれは完全なる拒絶のようだ。

 何者にも、あるいは何事にも動じないと思っていた星波ちゃんだけど、まさか虫が大の苦手だとは。


 ちょっと意外。

 でもそんな欠点? が知れてより一層、星波ちゃんに親近感が湧きましたっ。


「そうなんぇすか。虫が大っ嫌ぃですか。でも今までも虫系のモンスターと戦ったことはあるんぇすよね?」


「うん。どうしても戦わずを得ない場合はあるから。そういうときはとにかく早く滅殺して視界から消すようにしてる」


「滅殺……」


「どうしても動揺とかが顔に出ちゃうのだけど、視聴者には見せないようにしてるつもり。イメージと違う私見せて、幻滅させたくないから」


「幻滅なんてしませんよ。むしろ、新たな一面が知れて嬉しいんじゃないぇしょうか。事実、私がそぅですし」


「え? そうなの? うーん、そういうものなのかなぁ」


 その態度からして、絶対に知られたくない一面というわけではないようだ。

 とはいえ、積極的に見せたいわけでもない。

 一応、訊いておいたほうがよさそうだ。


「あの、これから私のライブ配信が始まるのぇすけど、星波ちゃんのこと映さないほうがいいぇすかね?」


「ううん。映して構わないよ。今日はコラボってことでお知らせしているのだし、そこは視聴者を裏切ることはできないでしょ。大丈夫、いつも通りやればいいだけだから」


 星波ちゃんがそう言ってくれるのであれば、私も首肯するのみだ。

 ただ、一抹の不安があるのは事実だった。

 


 ◇



 立ち入り禁止ルートの入口へと着いた。

 丈夫そうな扉まで設えてあって、そこにはKEEP OUT立ち入り禁止の文字がでかでかと書かれていた。


「本当にしっかりと立ち入り禁止なんぇすね。ロープとか張ってあるだけかと思ぃました」


「そういえば、赤だったっけ」


「え? なんぇすか」


「扉の色。立ち入り禁止ルートへの扉の色には二種類あって、黄色もあるんだ。でもここは赤。公式のアナウンスではないけど、って話は聞いてる」


「やばい、ぇすか。でも何がやばいんぇすかね?」


「さあ。あ、よっつ、ライブ配信の時間、大丈夫? 時間確認したほうがいいんじゃない」


「そ、そうぃえばっ!」


 慌ててスマホで時刻を確認すると、10時28分。

 なんというタイミング。

 5分前行動には遅れたけれど、開始時間は超えていない。


 私はドローンの位置とモニターの映像を確認。

 表示を見れば、待機人数はすでに10万を超えている。

 

 バトル系のライブ配信は、その緊張感が視聴者に伝播する。

 ゆえに中毒性があるのか、同接数はその他の配信を凌駕していて圧倒的だ。

 特にクラスS以上のダンジョンに挑むダンチューバーの同接数は、チャンネル登録者数の3分の1になるときもある。


 つまり星波ちゃんの場合、200万人弱。

 それに比べれば10万人は少ないほう。

 とはいえ、10万人である。

 東京ドームの収容人数が5万5千だから、約2倍。


 そんな、とんでもない人数を前にして私はライブ配信を行う。

 渋谷Bダンジョンぶりだから1週間ぶり。


 よぉし、楽しむぞーっ。

 

 大きく深呼吸すると、モニターの配信開始を押した。

 

「みなさん、おはようございまぁぁす。ダンチューバー四葉でーす。うぇいうぇいっ」



【コメント】

 ・うぇいうぇい!

 ・うぇいうぇいッッッ!

 ・きたきたきたあああああっ

 ・うぇいうぇいうぇいうぇいいいいっ

 ・よっちゃんに会いたかったっス♥

 ・よっちゃああああああああああ

 ・俺のうぇいうぇいが響いたのか隣の部屋から苦情www

 ・サイドポニーテールが可愛いーっ

 ・一目見たときからよっちゃんに蛇化です 

 ・なんか久しぶりって感じで逢えて嬉しいぜ!



 光学モニターに流れる視聴者のみなさんのコメント。

 みんながみんな、私のことを待っていてくれたと思うと感極まるものがある。

 涙腺があとほんのちょっと緩かったら、泣いていたかもしれない。


「1週間ぶりなので久しぶりと言ぇば久しぶりかもしれませんね。なんかお待たせしてすぃません。私もすごぃすごぃ、皆さんに逢いたかったぇすし、こうやって逢うことができて、すごぃすごぃ嬉しいぇすっ。だから今日はすごぃすごぃ気合を入れて、配信のほうがんばろうと思ってますっ!」



【コメント】

 ・www

 ・すごすぎて草

 ・今日はすごい1日になりそうだねw

 ・語彙力w

 ・頑張り屋さんだもんね、よっちゃんは

 ・俺もよっちゃんのこと、すごいすごい応援します!



 え? 語彙力?? 

 まあ、いいや。そこはあとで動画で確認。

 私の気合は伝わりましたよね!!

 

「あ、今日は渋川Cダンジョンに来ているんぇすけど、久々になってしまったのは、この日のためにダンジョンに潜らなかったからなんぇすよ。えっと、つまりこの日が大事ってことなんぇすけど、みなさん、分かります?」



【コメント】

 ・正解率100パーセントの問題w

 ・おや、近くに誰かの影が見えますが・・・

 ・え? なんだろー(棒読み)

 ・え? 今日はアフロの社長とコラボとか??

 ・分からんやつがいるわけがない 

 ・よっちゃんの推しがいるということですね、はい 

 ・ずばり、星波ちゃんがおるからや!!



 まあ、ばればれですよね。

 タイトルにも書いてありますし。


 私は星波ちゃんに目で合図する。

 すると、こくりと頷く私の推し。


 では、勿体ぶらずに紹介しちゃいましょう。

 前のときのコラボとは違ってサプライズじゃないですしね。


「はい、正解でーす。私の推しにしてお友達の星波ちゃんが今日は一緒なんぇすよ。ではでは、どうぞー」


 私は一歩横に移動して、場所を空ける。

 すると星波ちゃんが、ぴょんっとその空いたスペースに飛んでくる。


「みなさん、おはようございます。よっつにめちゃめちゃ推されている仲良しの鳳条星波です。今日は渋川Cダンジョンの立ち入り禁止ルートに入って、よっつと一緒にそのさきにある温泉に向かおうと思います。温泉では、よっつのぽろりもあるかもしれませんよ?」



 ぽろり!?

 星波ちゃんっ!??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る