第115話 星波ちゃんの態度が何やらおかしい気がしますが??
最後に私はドローンを機動させて、ライブ配信の待機人数を確認する。
【星波ちゃんと二人っきりで渋川Cダンジョンへ。温泉にも入るかも!?】
77,854人が待機中 20XX/07/02 10時30分公開予定。
「わっ、多い……っ」
予想より3倍ほど多くて、私は驚いた。
するとその声に反応した星波ちゃんが表示を覗き込む。
「うん、多いね。でもよっつの今の登録者数を考えれば、こんなものなんじゃない?
確か、チャンネル登録者数62万人くらいだったよね」
「はい。おかげさまで渋谷Bダンジョン後にどーんと増えまして、それくらぃだと思います」
渋谷Bダンジョンでの一件はとにかく注目された。
なにせ、一国の王女が生きるか死ぬかの決死の道程でもあったのだから。
あれ以来、私も知名度が上がっちゃったらしく、比例するようにチャンネル登録者数も増えたのだった。
「でもそれ以外の理由は、やっぱりこれだろうね」
と、星波ちゃんが〝温泉に入るかも!?〟の二文字を指さした。
「や、やっぱり、そうなんぇすかね」
一番合戦さんの言った〝してほしいこと〟というのがこれだった。
渋川Cダンジョン内は温泉があるらしい。
その温泉に入っているところもライブ配信してほしいと言われたのである。
星波ちゃんも一緒に。
「私さ、よっつは断ると思ってた。だってこんなの、男性の視聴者に媚びているみたいだから。よっつ、そういうの嫌いそうだし」
「え? 媚びてるとかは考えてなかったぇす。ただ、恥ずかしぃなって言うのがあって躊躇しました。でも着替え中はもちろん配信を一時停止して、温泉に浸かってるときはタオルをしっかり巻くから大丈夫かなって」
「はぁ、よっつって純真だよね。なんか自分の心が薄汚れているかのように感じちゃう」
星波ちゃんの表情に影が落ちる。
「そ、そんなことないぇすよっ。星波ちゃんの心が汚れているわけないじゃないぇすか。星波ちゃんの心はいつだって綺麗で純白で一点の曇りもなぃですっ!」
「うん。やっぱり純真みたい。眩しすぎて死ねる」
くらっとするような演技の星波ちゃん。
「でもそれを言ぅなら、星波ちゃんのほうが断ると思ってました。ダンジョンの踏破に一直線で余計なことには目もくれない、そんな孤高の勇者感がぁりましたから」
「孤高の勇者とか止めてよ。ま、ダンジョンに潜るときはほとんどソロだけどね」そこで星波ちゃんが私を見詰める。どきっとする私。「でも今日はよっつと2人。友達だったら一緒に入るでしょ」
「星波ちゃん……」
「ま、社長としては、そういったお色気サービスで視聴者呼び込んで、収入アップを図ろうという魂胆だろうけどね、絶対」
「ですね」
あの社長にして、このダンジョン内温泉入浴である。
そこは意外でも何でもなかった。
「ちなみに温泉には、確か立ち入り禁止ルートに入らないといけないはず。そこを通ってもいい許可が出たってことなんだろうけど、何したんだろう、あの社長」
「なんで立ち入り禁止なんぇすか? めちゃんこ強いモンスターがいるとか?」
「どうだろ。私も理由は知らない。行けば分かるかもね。それでどうする? よっつのライブ配信開始まであと30分あるけど、それまでここで待機しておく?」
「いえ。ダンジョンの途中まで進んでもいいと思ぃます。願わくば、立ち入り禁止ルートから始められればいぃかなって」
「分かった。じゃあ、そんな感じでライブ配信は始めるとして――いざ、渋川Cダンジョンの中へっ」
星波ちゃんが左手を腰にあて、右手でダンジョンの入口を指さす。
なんだかノリノリな星波ちゃん。
もしかして私といるのが楽しいからなのかな――。
なんてことを考えながら、私も「はい、行きましょうっ。えいえいおーっ」と右に倣えのテンションで入ダンするのだった。
◇
10分ほど歩き、私と星波ちゃんはモンスター徘徊領域へ。
そこには三種類のモンスターがいた。
キングチョウバエ。
レベル95。
石鹸カスや皮脂を好物とする、ハートを逆さにしたような羽のあるハエを大きくしたモンスターである。
ジャイアントトビムシ。
レベル100。
湿気を好み、胴が長く足が前の方についていて、ぴょんぴょん跳ねる虫を大きくしたモンスターである。
グレートチャタテムシ
レベル115。
カビを主食とする、ダニに似ているけど、シラミの仲間である茶色い虫を大きくしたモンスターである。
己惚れるわけじゃないけれど、隻眼のオゥガ、アシュラボゥイ、GBレプリカと強敵を撃破してきて私は強くなった。
だから今更、クラスCダンジョンのボスでもないモンスターに恐怖を覚えることはない。
恐怖を覚えることはないのだけど――、
ぶぅぅん、ぴょんぴょん、かしゃかしゃ、ぶぅぅん、ぴょんぴょん、かしゃかしゃ、ぶぅぅん、ぴょんぴょん、かしゃかしゃ、ぶぅぅん、ぴょんぴょん、かしゃかしゃ、ぶぅぅん、ぴょんぴょん、かしゃかしゃ……。
このモンスター達、気持ち悪いですっ!
それもそのはずだ。
じめじめしたところを好む虫達。
それらが、ほぼそのままの造形で巨大化しているのだから。
あんまり視界に入れるのも嫌なので、さっさと片づけてしまおう。
私は星波ちゃんと視線を交わす。
了解といった風に頷く私の推し。
その些細な動きがぎこちなく感じたけど、気のせいだろうか。
私はこの場に最適な魔法を使用する。
「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い
エンシェントロッドの周囲に浮かんだ4つの光。
それらが光線となり、各々のターゲットに向かっていく。
ホーミングレイには及ばないけれど、敵に引き寄せられる補正がいい仕事をする。
一度の魔法で、計7体のモンスターを撃破した。
私達の近くにいるのはあと5体ほど。
これは星波ちゃんに任せてもいいだろう。
その星波ちゃんの
相変わらず、一振り一振りが流麗且つ、かっこいい。
ただなんか雑な気もした。
星波ちゃんがずんずんと近づいてくる。
なんとなく顔が強張っているけど、どうしたのだろうか。
「この辺、片付いたし、行こ、よっつ」
「は、はい。……あの、大丈夫ぇすか?」
「え、何が?」
「なんか、顔色が優れなぃような気がして……。体調、悪いんだったら無理しなぃでくださいね」
「大丈夫、大丈夫。別に体調が悪いとかじゃないから」
そのとき、「すいませーんっ。そっち、行っちゃいましたーっ」と誰かの声が聞こえる。
と同時に、1匹のグレートチャタテムシが、かしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ、と私のほうへ近づいてきた。
――と思ったら、星波ちゃんのほうへ軌道修正。
その星波ちゃんの表情が引きつったと思ったら、
「烈の技――黒の旋風ぅぅッ」
えっ?
前方に突き出したウロボロスソードの生み出す烈風が、グレートチャタテムシを切り刻む。
グレートチャタテムシがバラバラに切断され、破片がそこかしこに飛び散った。
星波ちゃんが、キッとした顔で声の主を睨みつける。
「ちゃんと責任を持って倒してよねっ」
体を縮こませて恐縮の態度を示すダンジョンシーカー。
レベル115のモンスターなんてことはないはずの星波ちゃんである。
だからご立腹な態度を不思議に思ったのだけど……、
あれ?
もしや。
「あの、星波ちゃんって虫とか嫌いなんぇすか?」
「嫌い。大っ嫌い。超嫌い。この世から絶滅してほしい」
強力な言霊のような願望。
思った通りだった。
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