第114話 星波ちゃんと渋川Cダンジョンに潜ろうと思います!
と、代々的に星波ちゃんと一緒にいたい宣言をしちゃった翌日。
一番合戦さんからビデオ通話のお誘いがあった。
カメラの位置が上向きらしく、私はずっと彼女のアフロだけを見せられていた。
とってもシュールな映像。
だけどその通話の内容は胸躍る内容だった。
私はもう一度、一番合戦さんとの会話を再生させる。
〈四葉、5日後に渋川ダンジョンに行ってほしい〉
〈は? 藪から棒になんぇすか。大体5日後って私、日光Cダンジョンに行く予定ぇすよ。だからちょっと無理だと思ぃます〉
〈あ、それキャンセルしておいた。おっと大丈夫だぞ。延期の後のキャンセルで旅館に悪いから3倍の金額払っておいたからな〉
〈ち、ちょっと、何勝手なことしてるんぇすかっ。大丈夫じゃなぃですよっ。ここは怒っちゃってもいいところぇすよねっ?〉
〈いや、怒る前にまずは聞け。渋川ダンジョンなんだが四葉一人で行ってほしいわけじゃない。星波と行ってほしい〉
〈え――? せ、星波ちゃんと、ぇすか〉
〈ああ、1泊2日となるが、星波とだったらいいだろ? なにせ、〝大好きな星波ちゃんとずっと一緒にいたいですぅぅぅぅぅ〟と生配信で叫んで、武具市にその声を響かせたんだからな。一夜を共にするから、星波と一緒の布団でイチャイチャちょめちょめ♡♡♡♡し放題。旅費だって全て事務所が持つ。断る理由なんてないだろう。これでも怒るか? よっしゃ、怒ってみろ、ほら、来いよ、ちっぱい。カモン、カモォォォンッ〉
〈ちっぱ――っ、……それが事実だったら怒、りません。寧ろ嬉しいぇすけど……星波ちゃんはそのこと、知ってるんぇすか?〉
〈もちろんだ。星波は、四葉さえよければ喜んでって言っているぞ。まあ、無理強いはしない。お前は正式なうちのメンバーじゃないからな。どうする? 行くか、あるいは行きたいか。どっちだ?〉
〈行きますっ、行かせてくださいっ〉
〈よっしゃ。そう言うと思って全て手配している。ああ、ちなみに渋川ダンジョンだが、踏破が目的じゃない。別に〝してほしいこと〟があってな、それは――……〉
そこで会話の脳内再生が終了する。
星波ちゃんとの旅行。
いつか行けたらいいな、って思っていた。
それがまさかこんなにも早く実現してしまうんなんて――……。
一番合戦さんの口にした〝別の目的〟には驚いたし少なからず抵抗はあった。
でも、星波ちゃんとの1泊2日のダンジョン旅行を断るほどには至らなくて――。
5日後、私は星波ちゃんと一緒に群馬県渋川市に向かっていたのだった。
◇
私と星波ちゃんを下ろすと、ミニバンが去っていく。
探索者であり、且つ行く先がダンジョンであれば使用可能な送迎車。
探索者ランクが金潜章以上であれば無料で利用できるのだそうだ。
なので、今回は星波ちゃんも一緒だったので私も無料。
旅費は全て潜姫ネクストの事務所持ちと言っていたけど、私まで無料なのは間違いなく星波ちゃんのおかげである。
「へえ、いい旅館じゃん。社長にしてはセンスあるかも」
星波ちゃんが今日、宿泊する木造建築の旅館に目を向ける。
「そうぇすね。歴史と情緒を感じさせて昭和って感じが懐かしくていいぇすね」
「ぷっ。よっつ、昭和の人間じゃないのに懐かしんでるし」
「え? あ……ま、間違えましたっ。う、恥ずかしぃ……」
「ふふ、――それでどうしよっか? チェックインはもうしてもいいんだけど、すぐにダンジョン行っちゃう? それとも少し休む?」
「いえ。ダンジョンに行きたいぇす。ライブ配信の都合もありますし、それに、この日までずっとほかのダンジョンに行くの我慢してたので、すぐにダンジョンに行きたぃですっ」
別にほかのダンジョンに行っても良かった。
それでも行かなかったのは、ダンジョンに潜る楽しみを今日までとっておきたかったからだ。
星波ちゃんと一緒にダンジョンに潜る。
その幸せゲージは、できる限りマックスにしておきたかったのだ。
「なるほど。欲求不満でパトスが暴発しそうなわけね。じゃあ、荷物置いて着替えてすぐに行こっか」
「星波ちゃん、言い方……。でも渋川Cダンジョンって、ここからすぐに行けるんぇすか?」
「すぐにもなにも、ここから歩いて5分のところだよ。あ、それとさっきの〝社長のセンス〟がいいってやつ、訂正。近いからここにしただけだと思う」
「はい。そっちのほうがしっくりきますね。だって一番合戦さん。服があのセンスぇすから」
同時に笑い出す私と星波ちゃん。
一番合戦さん、ネタにしてごめんなさい。それと笑いの提供、ありがとうございますっ。
◇
渋川Cダンジョンに着いた。
ダンジョンの周囲は背の高い樹木に覆われ、木々の香りが心地よい。
気分は森林浴であり、思わず深呼吸をしてしまう。
星波ちゃんが潜章カードをゲートにかざして、先に進む。
銀潜章の私は普通に入れるのだけど、今回は同伴者として後に続いた。
ああ、私、銀潜章なんですよね。
改めて、すごいじゃんと自画自賛っ。
入口前の広場には、30人近くの探索者達。
武具も付けずにカメラを持っている人もいるけど、おそらく撮りダンだろう。
「それじゃ、この辺で装備と持ち物をもう一度、チェックしておこっか」
私は星波ちゃんと一緒に持ち物の確認を始める。
ドローン、よしっ。
スマホ、よしっ。
霊光石、よしっ。
おにぎり、よしっ。
お菓子、よしっ。
タオル、よしっ。
卵、よしっ。
「ちょっと待った。よっつ。卵ってなに? ゆでたまご?」
と、星波ちゃんが訊いてくる。
「いえいえ、違います。ナユタちゃんにもらった卵です」
「ああ、そう言えばそんな卵、もらってたよね。まだ孵化してなかったんだ」
「はい。あれからベッドで一緒に寝たり、お風呂に一緒に入ったりして、温めたんぇすけど、全然」
「そうなんだ。いっそ、とんかちとかで割っちゃえば」
だから、硬い殻のゆでたまごじゃないですよ!?
「そ、そんな怖いことできませんよ。……温泉もあるからそこで温めたらどうかなって思って」
「そういうことね。でも、どんな生物が入っているんだろうね。モンスターじゃないとは思うけど、もし孵化した場合は、ちょっとは警戒したほうがいいかもね」
警戒。
そういえばモンスターかもしれないということを全然考えていなかった。
でもそれは私が楽観的なのではなくて、この卵に一切の邪悪さを感じないからだった。
本当にどんな生物が入っているのだろう。
早く、逢いたいな。
私は、優しく卵を撫でた。
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