第113話 潜姫ネクストVSヴァルハラプロジェクト??
いつの間にかトラックがいなくなっている。
どうやらダンジョン保護団体の人間は逃走したらしい。
待機中だった御巫さんがタッタッタと、二人の仲間のもとへ走っていく。
「お二人さーん。お疲れ様です。バトルのほうもしっかり撮らせてもらいましたヨン。それでは一言づつお願いしまーす。じゃー、まずはカグラちゃんから」
マイクを持っている
「おう、みんな見てくれたか。拳闘神カグラ様の雄姿。ド派手に極の
痛恨のミスなのだろうか。
髪の毛をわしゃわしゃとかき乱す禅院さん。
どうやら極の技は、クラスSダンジョンで使用予定だったらしい。
極の技は、3日に1度しか使えない技。
今日使ってしまうと確かに明日には無理である。
禅院さんはショックそうだけど、金剛力士の手の生極の技を見れた私は大満足ですっ。
「あらあら、可哀そうなカグラちゃん。どうやらクラスSダンジョンの攻略は延期のようですネ、プッフーっ」
「夜、お前、何わろぉとんねんっ」
「さてお次は、夜よりもチャンネル登録者数が44,685,690人くらい多い、ヴァルハラプロダクションのトップダンチューバーにしてドラゴンマスターの蘭丸さんでーす。ではでは一言、どうぞ」
数字、細かっ!
なんとなく棘があるように感じたのは私だけでしょうか??
蘭丸さんがドローンの前にやってくる。
「夜の〝使い魔さん〟達。または、いるかもしれない〝蘭丸組〟のみんなこんにちは――」
刹那、蘭丸さんの周囲が輝き始める。
まるで、アニメのキラキラ演出かのように。
そして――、
「蘭丸だよ」
真っ白な歯を見せて、にっこりと笑う蘭丸さん。
でた。
それだけでファンが激増&卒倒すると言われる、老若男女射程型キラースマイル。
まさか生でも、周囲がキラキラするとは思わなかった。
私もクラッとしかけたけど、推しだったらやばかった。
ちらっと鋳薔薇さんを見ると、ほぼ無表情。
蘭丸さんみたいなのはタイプじゃないようだ。
そんな蘭丸さんがドローンに向かっていくつか言葉を並べると、こちらをちらり。
そのまま私のほうへやってきた。
え?
「キミは湊本四葉ちゃんだよね?」
「へ? は、はい。そうぇすけど……」
私のこと、知ってる!
しかも話しかけられるなんてっ。
「やっぱりそうだ」そしてサラっとこんなことを言う。「湊本さんの動画、色々見させてもらってるよ」
「え? 私の動画をですかっ? 蘭丸さんが?」
「うん。エンシェントドラゴンの動画。あれは凄かったね。倒した瞬間の映像がないのが残念だけど、扉バーンで倒したのは衝撃的だったなぁ。感服したね。狙ってできるようなことじゃないから。本当にすごいよ、湊本さんは」
はい。本当に狙ってません。
まぐれなのに、ダンジョンシーカー並びにダンチューバー界のスーパーアイドルに感服されても困りますっ。
訂正、訂正っ!
「は、ははは。運がよかっただけぇすよ。蘭丸さんも仰ぃましたけど、狙ってできることじゃないぇすから」
「そういった謙遜も感心、感心」
「い、いや、あの」
「それはそうと、先日の渋谷Bダンジョンは本当によくがんばったね。正直、湊本さんがいなければ、前代未聞の悲劇として世界中に拡散されたはずだ。そうなれば国際問題のみならず、日本の全ダンジョンシーカーが肩身の狭い思いをしていたと思う。だから湊本さんは僕達の救世主でもあるんだよ。本当にありがとう」
蘭丸さんの瞳に宿る、混じり気なしの感謝の気持ち。
考えてもみなかった。
あの日、もしナユタちゃんが亡くなっていたらなんて。
でも、もしそうなっていたら、蘭丸さんの言った通りになっていただろうか。
日本で日本人である私がナユタちゃんを救えなかったら、もしかしたら――。
ううん、止めよう。
ナユタちゃんは生きている。
それが全てであり、敢えて辛い想像をする必要なんてない。
「いえ、自分にできることをしたまでぇす。それに、私だけの力じゃありません。カイさんとルカさん、それにソーラさんがぃたからこそ、全員無事にダンジョンを脱出できたんです」
「ああ、そうだった。彼らの活躍も忘れちゃいけないね。皆が皆、英雄であり、四人がいたからこそナユタ王女は生還することができた。――ところで湊本さんにお願いがあるんだ」
お願い?
「は、はい。なんぇしょうか」
相も変わらず柔和な顔の蘭丸さん。
なのにその双眸はどこまでも真剣で――形のいい唇が開いた。
「ヴァルハラプロジェクトのメンバーにならないか? 是非、キミに入ってほしい」
ん?
んん??
んんんんんんんんんんッ!!?
「お、おい、蘭丸。なにをいきなり勧誘しとんねん? 話変わりすぎやろ」
「そうですよ、蘭丸さん。湊本さんだってびっくりしてるじゃないですか。でも、夜は歓迎ですけどネ」
「ダメかな? 湊本さん。ヴァルプロには個性豊かなダンチューバーがいるけど、キミはまだいないタイプなんだ。健気でひたむきで頑張り屋さん。そんな湊本さんが僕は欲しい」
「……蘭丸。お前、それなんかエロいぞ」
「きゃー、欲しいとか、きゃー。今のも配信されてますヨ?」
嘘も偽りも一切、垣間見えない眼差し。
とても、とても嬉しい申し出だ。
でも――、
「ちょっと蘭丸さん。うちの四葉ちゃんをわたくしがいるところで引き抜こうなんて、いい根性してるじゃない」
鋳薔薇さんが私と蘭丸さんの間に割って入る。
蘭丸さんとは種類の違う笑みを携えて。
「引き抜きとは違うんじゃないかな。確か、湊本さんは特別枠だったよね。つまり正式な潜ネクのメンバーじゃない。言ってしまえば個人勢。彼女には選択の自由があるはずだ」
「そうね。そこは間違ってないわ。でもうちの社長がすでにグッズも作ったので、もう正式なメンバーみたいなものよ。抱き枕なんて予約殺到してるんだから。3種類買っちゃう強者もいるそうよ」
えっ? 私の抱き枕、予約開始してるの!?
聞いてないんですけどっ。
勝手にやるんだろうなぁとは思っていたけど、本当に一言もないなんて……。
「3種類か。少ないね。ヴァルプロだったら7種類は用意できる。しかも、どれもこれも湊本さんの魅力を損なうことなく、一週間をいつも違う彼女と過ごすことができるスペシャルセットをね」
一週間分をセット買い!?
めっちゃ高そう……。
「あら、数が多ければいいってわけじゃないわよ。社長のこだわりはそんなありきたりなことじゃなくって、まるで四葉ちゃんがそのまま抱き枕になったかのような、至高の抱き心地を重視しているんだから」
私がそのまま抱き枕になったかのようなって……っ。
「なるほど。それはとても興味があるね」
あるんですかっ!?
「それはさておき、話を戻そう。――湊本四葉さん」蘭丸さんが再び、私に見向く。「ヴァルハラプロジェクトのメンバーになってくれないか。共にヴァルプロのダンチューバーとして切磋琢磨していこう」
思わず、〝はい〟と答えてしまいそうになるほどの魅力的なオファーだ。
でも答えは決まっていて、迷う理由もない。
事務所の規模とかも関係ない。
うん、とっても簡単なことなんだ。
「お誘いは嬉しいのぇすけど、ごめんなさい。私は……」
ずっと推しのそばにいたい。
「星波ちゃんと一緒にいたぃですっ」
――と一緒にいたぃですっ。
――いたぃですっ。
――ですっ。
――っ。
私の声が武具市にめちゃんこ響いた。
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