配信切り忘れてカメラにアップでブボッっとしたVTuberの私、バズって大人気魔喪女系アイドルになってしまう。お願い、もうこれ以上バズらせないで!
第19話 賢者は愚者のふりをし、愚者は賢者のふりをする
第19話 賢者は愚者のふりをし、愚者は賢者のふりをする
それからの私は乗りに乗っていた。新たなCMにも出演し、ワイドショーからバラエティーまで幅広く活躍する魔喪女VTuberだ。
テレビで放送事故を起こし二度とオファーは来ないと思っていたのだが、これが逆にオファーが殺到する事態になったのである。
これには意外と例の放送事故が人気だったり、大御所コメンテーターにも怯まぬキャラだったり、ブラック企業や格差に不満のある若者たちの支持が大きかったのだろう。
何故か放送事故をやらかした情報ワイド昼スクでは、準レギュラーのような扱いである。
今日も全国のお茶の間に笑いとバトルをお届けしていた。
「次のニュースです。昨日に引き続き防衛大臣の失言問題なのですが。大臣は『配備中の防衛システムをやるくらいなら、私はその金でヒットマンを雇いますな』と不謹慎な発言をしたんですよね」
いつものように
「言語道断だね!」
すかさず政治評論家の男性コメンテーターが先陣を切る。いつにも増して絶好調なようだ。
「一国の安全保障を監督する防衛大臣が、こんな軽口をたたくなんて。これは更迭するべきだよ! そもそもボクは防衛システムにも反対なんだ。敵が攻めて来ても無防備無抵抗で両手を広げフリーハグの精神だよ。暴力反対だね」
ここは俺に任せろとばかりに饒舌になるオジサン。確か
すかさず私がツッコミを入れておく。
「なるほど、
「何だキミは! ひ、人を変態みたいに。全くけしからんな」
さっそく玄道が乗ってきた。バトル開始である。
「いえ、私は分かりやすく例えているのですよ」
「そんなふざけた例えがあるか! そもそも最近の若者は変な事件ばかり起こしおって。教育がなっとらん! ボクの若い頃は悪いことをしたら鉄拳制裁で拳骨なんだ。躾のなってない若者には二、三発殴って教育するべきだね」
「えええ……さっき暴力反対って言いましたよね。暴力賛成なんですか? ダブルスタンダードですか?」
「何だと! 言って分らんヤツには体で教えるもんだ! 正義の暴力は良い暴力なんだ。徹底抗戦だ!」
「そんな理不尽なぁ~きゃぁあん。暴力はお尻ペンペンだけにしてください~」
と、こんな感じに盛り上がっている。この政治評論家も敵認定の私がいるからなのか、実に生き生きしているようで何よりだ。発言内容は意味不明だが。
因みに、私が出演する曜日は視聴率が三割ほど上がるらしい。
相変わらずネットでは、私の放送事故を期待する書き込みや、放屁音を音楽に乗せてメロディーにしたりとカオスな状態だ。
ある著名な専門家がネットニュースに記事を書いた。
本当に賢い人間は、自分をバカに見せたりするものである。逆に、愚かな人間は必要以上に自分を大きく見せようとするものだ。
昨今話題になっている
これは処世術として有能な証だろう。
「いやいやいや! 狙ってやってませんから! 狙ってオナラ出ませんから!」
毎回ネット記事にツッコみを入れているように見えるだろうが、彼氏いない歴イコール年齢の私としては画面相手にツッコまずにはいられない。
早くリアルで彼氏にツッコみを入れたいところであるが。
「そういえば、ナオキくんは毎回のように投げ銭してくれるけど、お小遣いは大丈夫なのかな? バイトで稼いでるとか? 何だか貢がせてるみたいで申し訳ないけど……」
彼は、近所で会えば明るく挨拶してくれる。何しろ私を激推しのガチ恋勢なからな。
私の中では、付き合うのは彼が成人してからにしようなどと勝手に想像している。それまで私の人気が続いているかは知らないが。
そして私は今日も配信をする。
「おまえら準備は良いか! 吹けよ風! 轟け爆音! 銀河を超えてぶちかませ、私のメガ乙女なノイズキャノン! 魔喪女系銀河の清純派姫、
もう全部ノイズということにした。あれはノイズなのだ。
:ノイズじゃねー!
:出たよノイズ
:苦しい言い訳だな
:認めろよ、ぺろみ
:俺はぺろみがブーブーしても推すぜ
:ブッヒイィィィィ!
「おまえらも相変わらずだな。今夜はオススメの深夜アニメを熱く語るぜ」
:エロいアニメか?
:ぺろみの趣味がオッサン臭い
:いいね
:ガチなやつだな
「今期のイチオシは『ギャルと理系に迫られるヤンデレサンドライト』かな。作画も最高に綺麗だし、何よりヒロインが可愛くてな!」
ガンッ!
「いたぁっ! 手をぶつけたぜ。それで私が――」
:おい、また映ってるぞ!
:魔喪女再登場
:また放送事故かよw
:(´;ω;`)ブボッ
:やっぱりクセになる女だな
:どこまでもついて行きます
:早く気付けよ
:VTuberなのに顔出しとかどうなってんだ
今日も混沌としたネット社会の大海原に漕ぎ出す私。人は見果てぬ夢を追いかけ一生を費やす
後に私は
景気浮揚に必要なのは、いつだって笑いとマインドが重要なのだから。
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お読み頂きありがとうございます。
この作品は中編コンテスト応募作となりますので、ここで一区切りとなります。
賢いヒロインと聞いて一番に思い浮かぶのは、誰しも知識やスキルの優れた才女だと思います。しかし、私としてはちょっとひねくれて、一見アホっぽく見えるけど社会に何か一石を投じて変革させられるヒロインを思い浮かべてしまいました。
実際にぺろみのようなヒロインがいたら、この停滞し問題山積の社会を変えてくれるのではと思ったり思わなかったり。
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みなもと十華
配信切り忘れてカメラにアップでブボッっとしたVTuberの私、バズって大人気魔喪女系アイドルになってしまう。お願い、もうこれ以上バズらせないで! みなもと十華@書籍発売中 @minamoto_toka
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