第75話躾の成果
体調を崩した日の夜。
何食わぬ顔で夏樹は部屋で過ごしている。
風邪を引いた俺の看病をしている夏樹はウイルス性の風邪で感染する恐れがなさそうだからか俺と一緒に寝る気が満々そうだ。
移るような風邪だったら困るし、俺は夏樹に告げた。
「ほら、そろそろ帰省のお時間だろ」
そう、こんなこともあろうかと俺たちはちゃんと考えていた。
幸いなことに夏樹の実家は近くにある。相手にうつしやすい感染性の病気を患った時、夏樹が実家へ避難するという取り決めをしていたのだ。
「別に平気でしょ」
だがしかし、俺の風邪が明らかに疲労からくるものでわかりきっているからか、夏樹は帰る気はないようだ。
夏樹に居て欲しいが、やっぱり病人と一緒のベッドで眠らせるわけには……。
最近の夏樹はわがままで聞き分けの悪い子。
というわけで、俺は夏樹が実家に帰りたくなるようなことを言ってみた。
「うつったら夜のお遊びができない期間が長引くぞ」
「……わかった。思ったより湊も平気そうだし帰るね」
頭の中がピンク色な夏樹に言うことを聞かせたいのなら、こういうに限る。
俺も夏樹の扱いがわかってきたな。
などとうなずいていると、夏樹はベッドの下をゴソゴソと確認しだした。
ストーカー気質というか、ガチでストーカーな夏樹。
そんな彼女の思考回路を俺はだいぶわかるようになってきたわけで……。
「監視カメラでも仕掛けてたのか?」
恐る恐る聞いたら、夏樹はさも当然かのように答えた。
「まあね」
うん、『まあね』じゃないんだが?
「いつ?」
「同棲始めた日に」
「……お、おう」
「なんでそんなに引いてるの? 駄目だった感じ?」
……愛が重すぎる彼女を持つと本当に大変だ。
ただまぁ、俺も俺である。
俺は勝手に監視カメラを仕掛けていた夏樹に言った。
「ま、別にいいけどさ」
普通に常軌を逸した行動を許せてしまうのだから。
※
風邪がうつらないようにと夏樹を実家に帰した。
薬も効いてるし、ウイルス性じゃないからか体調はちょっとしんどいくらい。
昼間は寝ていたこともあり、目がさえて眠れない俺はというとスマホで動画を見ているのだが……。
ベッドの下に仕掛けられた監視カメラの存在を思い出した。
「見張られてるんだよな」
なんて思うと悪戯心が沸き上がってしまうもの。
長らく見るのを封印していたアダルトな動画を大音量で見ることにした。
嫉妬深い夏樹さんは、基本的に自分以外の女の子を性的な目で俺が見るのは許せないお方である。
ともなれば、アダルトな動画を見ていると知ればきっと面白い反応をしてくれるに違いないというわけだ。
「……え?」
夏樹への悪戯とはいえだ。
長らく見ていなかった動画を見ているんだから、久しぶりだし高ぶるのかな~と思っていたのだが……。
下半身はピクリとも反応しなかった。
いや、まじでか……。
夏樹以外ではガチで反応しなくなってきた俺の男心。
それに驚きを俺は隠せない。
「こ、これはどうだ?」
なんか悔しくなってきた俺は別の動画を見た。
さっきのは巨乳でかわいい子だったが、今回のは俺のドストライクなスレンダーで綺麗目な子だ。
きっとこれなら俺の俺も元気になるに違いない。
食い入るようにスマホを見つめる。
綺麗だなぁとかエロいなぁとか思いはする。
しかし、俺の下半身はやっぱり反応しなかった。
「……」
夏樹に頭を馬鹿にされてしまったという事実に俺は言葉が出なくなった。
え? ガチで夏樹以外で反応しないの?
そんな感じで困惑をしているときだった。
夏樹から電話が来た。
『あのさ、さっきからエッチな動画見てるでしょ。音がバリバリ監視カメラが拾ってるんだけど?』
ちょい文句ありげな夏樹。
そんな彼女に俺は言った。
「……俺、ガチでお前以外で元気にならないんだけど」
『は?』
「いや、見るなって言われてるエッチな動画を見てるのがばれたら夏樹はどう反応するかな~っていたずらで動画を見てたんだよ。で、まぁちょっとはクるモノがあるかなって思ってた。でも、あれだ。一切、反応がない」
『……え?』
さすがの夏樹も想定外な俺の発言に困惑を隠せなかったらしい。
俺はそんな彼女に今言ったことが真実であると知らせるため、通話をビデオ通話に切り替えて下半身を見せつけた。
『ガチじゃん』
元気になるとなかなかに収まらないタイプの俺のアレ。
あれほどアダルトな動画を見ていたのに、平常時な俺のアレを見た夏樹はというと俺の言うことを信じてくれた。
「な? ガチで反応してないだろ?」
『風邪ってのもあるんじゃないの』
「いや、帰り際に元気になったの見ただろ」
そう、帰り際に夏樹は冗談で俺を軽く弄ってきた。
その際、風邪も良くなってきたこともあり元気になったのをしっかり見たはずだ。
『そっか』
ビデオ通話に切り替えたこともあり、俺のスマホには夏樹の顔がハッキリとうちっているわけで……。
夏樹は口元を抑えてニヤニヤとしていた。
「……おい、なんで笑うんだよ」
『私でしか反応しないとかキモすぎない?』
「うっ……」
確かにキモい。うん、めっちゃキモいと思う。
ぐうの音も出ない正論を言われてしまうも、俺は勢いよく反論する。
「お前が悪いんだからな!」
俺がキモいんじゃない。
こうしたお前が悪いんだというと、夏樹はクスッと笑った。
『はいはい。てか、元気になってきたとはいえ、そろそろ寝たら?』
「……まあ、それもそうだな」
『じゃ、私以外に興味がなくなっちゃった変態さん。お休みなさい』
「おまっ!」
とんでもない罵声を浴びせてきた夏樹に反論しようとする。
しかし、夏樹は俺に何も言わせまいと電話を切ってしまうのであった。
クールで素っ気ない彼女が今日も寝かせてくれない くろい @kuroi
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