第74話看病してくれる彼女
おもちゃで遊ぶのを我慢できなかった夏樹を襲った次の日の朝。
体力はすでに限界に近かったこともあってか、気怠さと悪寒と頭痛が止まらない。
ああ、うん。
これは絶対に――
風邪を引いた。
「……薬あったかな」
一人暮らしを始める時に心配した親がくれた薬箱。
その中から、総合風邪薬を探しだす。
ごそごそとしていると、胸で遊び過ぎたこともあり胸を気にしている夏樹が俺に声をかけてきた。
「具合悪いの?」
心配そうに俺の顔を覗き込む夏樹。
俺は心配をかけまいと、作り笑顔で言う。
「ちょっとだけな。喉は痛くないし、熱だけって感じだ」
「温度計ってあったっけ」
夏樹は俺の手元にあった薬箱を漁り、体温計を探した。
気の利いた母は体温計もしっかりと薬箱に入れておいてくれていた。
封を開けて体温系の絶縁シールを剥がし、脇に挟んで体温を測る。
ぴぴぴぴと音が鳴ったので、脇に挟んだ体温系の表示を確認した。
「38度4分……。この感じ、疲労からくるタイプだろうな」
市販の解熱剤を飲めばきっとすぐに良くなるレベルで俺は安心する。
薬がすでに用意できているのを夏樹は知っていてか、俺のために水を持ってきてくれていた。
水を受け取り、薬を飲む。
病気の時は安静にするに限る。別に起きていられないほど、つらいというわけではないが俺は再びベッドに入って寝ることにした。
そんな俺に夏樹は苦笑いして俺に謝る。
「さすがにちょっと絞りすぎたかも。なんか、ごめん」
夏樹は俺の具合が悪くなったのは自分にあると自覚はしているようだ。
とはいえ、俺もこってりと絞られてはいるが、なんだかんだで自分の意志で夏樹に絞られてもいいから絞られてはいるからな。
「……ま、気にするな」
こんな風に甘やかしちゃうから、夏樹は手加減をいつまでも覚えないんだろうな~とか思いながら俺は少しだけ笑った。
さてと、早く治すためにもさっさと寝よう。
俺は起きたばかりだが、再び眠るために目を閉じるのであった。
※
熱を出したこともあり、二度寝を決め込んだ俺が再び目を覚ましたのはお昼ごろ。
薬が効いたのか、朝起きたときよりもかなり楽だ。
食欲もあるし、何かを食べようと起き上がろうとしたときだった。
「ナースがいる……」
看護師ではなく、すっかりと差別用語としてラノベや漫画でだすとほぼ必ずと言っていいほど赤字を入れて修正されてしまう単語である看護婦をイメージしてつくられたミニスカのナース服を着た夏樹がいた。
「おはよ。体調は?」
まずはその恰好の説明をしろ。
と言いたいが、俺は夏樹の質問に答える。
「だいぶ良くなった。やっぱり、過労からくるタイプの風邪っぽい」
「そ、ならよかった」
「で、なんでナース服着てんの?」
ガーターベルトで彩られたミニスカのナース服を着ている夏樹に聞いた。
するとまぁ、夏樹はわかってんでしょ? という顔で俺にペットボトルに入った水を差しだしながら言った。
「サービス。少しでも湊に元気になって貰いたいし、この格好でお世話した方が湊は喜んでくれるかなって」
うん、超うれしい。
さすが、俺の彼女だ。俺のことがよくわかっている。
夏樹がくれた水で喉を潤した後、俺は甘えるように夏樹に頼んだ。
「食欲はあるけど、胃に重たいものはあれだから……。おかゆって作れるか?」
というと、夏樹はどや顔でキッチンへ。
そして、小さめの土鍋を持って戻ってくる。
「作っといた」
「……さすがだな」
「さっき作ったばっかだけど、ちょっと冷めたから温めてくるね」
夏樹はキッチンに行き、すでに作っておいてくれたおかゆを温める。
小さい頃に風邪を引いたときのことを思い出す。
熱っぽくて、しんどいからか、どこか心細くて……。
でも、近くに母さんがいるだけで、なぜか安心できたんだよな。
具合が悪い時ほど、一人じゃないのが嬉しいことだというのが身に染みる。
しみじみとした気分でぼーっとしていたら、夏樹が戻ってきた。
夏樹の手にはお鍋からスプーンの刺さった茶碗に移されたおかゆ。
ベッドから抜け出て、机の方で食べようと思っていたのだが……。
「はい、あーん」
どうやら夏樹が食べさせてくれるらしい。
ベッドの上で上半身を起こした俺は夏樹から差し出されたおかゆの乗ったスプーンを口に含む。
うん、美味しい。
無味でがっかりすることが多いおかゆだが、夏樹が作ってくれたのは程よく塩が効いているところが本当にいい。
そして、何よりも……。
「あーん」
いちいち、俺のためにあーんと言いながら食べさせてくる夏樹が好きだ。
ただでさえ、熱っぽいのに夏樹のせいでもっと熱が高くなった気がする。
夏樹が何度も何度もあーんと言ってくれることもあってか、気が付けばあっという間に俺は茶碗によそわれていた分のおかゆを食べつくしてしまった。
「まだ食べる?」
食べるなら鍋からお茶碗によそってこようか?
と夏樹が聞いてくれた。
あーんをして貰えるならいくらでも食べれそうだが、食べ過ぎも良くない。
「いや、ごちそうさまで」
「そ、ほかに何か食べたい物があったら言ってね」
「わかった」
「さてと、湊の体しょっぱくなってたし体を拭いてあげよっか?」
正直に言うと、薬も効いてるしシャワーを一人で浴びられるくらいには元気だ。
でも、俺はナース服の夏樹にお世話してもらいたい。
というわけで、夏樹に体を拭いて貰うことにした。
って、待て待て。
「俺の体がしょっぱい?」
しれっと流しそうになったが、夏樹のとんでもない発言を俺は拾った。
「汗かいてちょっと塩気のある湊のことを舐めるの意外と好きだからね」
「……うん、舐めたんだな」
なんだろう。
わりとドン引きするようなことをされている。
だけど、夏樹だし別におかしくないか……。
と納得してしまえそうなってきているのが本当に怖い。
「どうする?」
「ああ、拭いてくれ」
夏樹に舐められたままなのは衛生的ではない。
俺は夏樹に体を拭いて貰うことにした。
「んじゃ、腕あげて」
夏樹が服を脱ぐのを手伝ってくれる。
Tシャツを脱がして貰うと、夏樹はタオルで俺の体を拭き始めた。
優しい感じの手つきだからか凄く気持ちがいいというか心地がいい。
しっかりと上半身を拭いて貰った後、新しいTシャツを着こんだ。
これで終わりかと思っていたら……。
「下も拭いてあげる」
下半身は汗をそこまでかいてないみたいだし、やらなくていいと言いかける。
しかし、俺はふと気が付いた。
夏樹は上半身だけでなく、しっかりと下半身も舐めるような子だということを。
「じゃあ、頼んだ」
そういや、漫画やアニメでは上半身しか体を拭いてるシーンないよな……。
どうでもいいことを考えながら俺は夏樹に下半身を拭いて貰っていると、夏樹さんの手つきがいやらしいったらありゃしない。
「なにしてんの?」
「風邪の時はどんな風に元気になるのかなって」
「病人で遊ぶなよ……」
「だって、気になるじゃん。ほら、漫画では風邪ひいてても、なんか下半身だけはいつもよりもギンギンでなし崩し的にやっちゃうシーンとかあるし」
大人の漫画に毒され過ぎてる夏樹に苦笑いしつつ、俺は現実を教えてあげた。
「それファンタジーだぞ」
風邪の時は元気になるかもしれないが、普通に反応は悪い。
その事実を教えてあげると、夏樹は残念そうに肩をすぼめた。
「そっか。現実じゃ、やっぱりできないんだね……」
夏樹の様子を察するに……。
もし可能であれば、風邪をひいた俺と合体する気満々だったに違いない。
ほんと、ふざけた彼女である。
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