第111回 ペンギンSFアンソロジー

 秋待諷月様の自主企画「ペンギンSFアンソロジー」に参加している。( https://kakuyomu.jp/user_events/16818093072976348283 )

 この自主企画のユニークな点はペンギンとSFを絡めるという部分がまず挙げられるだろう。ペンギンという生き物のSF性を掘り下げるのがまずミッションとしてある。


 同時期にpixivで日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト2024というコンテストがあり、その縁もあってかコンテストのレギュラー投稿者たちが続々とペンギンSFアンソロジーに参加しているという点も見逃せない。いわばウェブ投稿で一癖も二癖もある参加者が一堂に会しているのだ。


 また運営の仕事もユニークだ。ユーザーのほとんどがX(Twitter)アカウントを持っているためにポストで応募票を発行している。かわいらしいペンギンの描かれた応募票は作者のみならず欲しい人は多いのではあるまいか。

 いっぽうで作者サイドの交流も盛んに行われている。ポストによる感想の交換はもちろんレビューを行うひと、出てくるペンギンの種類を数える人などさまざまだ。

 ひとつのコミュニティイベントのような様相を呈している。


 ★その魅力をお伝えするためにSFファンの視点で選りすぐりの作品を紹介する。


 「講義―ペンギン学史序論―」作者:瘴気領域@漫画化決定! (https://kakuyomu.jp/works/16818093073012582696

 ペンギンに関する驚きの学説が披露される作品である。教授のようなひとが語るペンギンの真のすがたはペンギン好きだけではなく、多くの人間に啓蒙の光を与えるだろう。


「僕はペンギンを見たことがない」作者:武石勝義@『神獣夢望伝』発売中!

https://kakuyomu.jp/works/16818093072920998612

 ペンギンSFの裾野を広げた作品として評価が高い。カクヨムではスペースオペラ、商業作品では中華ファンタジーを得意とする作者のたしかな文章力が光る作品。ペンギンが出てこないペンギンSF。


「ペンギン星を中心とした朝貢システムと貿易の実態」作者:辰井圭斗

https://kakuyomu.jp/works/16818093073416048540

 前述した武石勝義氏が太鼓判を押す作者のペンギンSF。ペンギン星を中心とした朝貢システムなんてどうして思いつくんだ? というアイデアが光る傑作。


「ペンギン・ボックス・パラドックス」作者:紫陽_凛

https://kakuyomu.jp/works/16818093073370905537

 仮想現実とペンギンを架橋する現代的なアイデアのペンギンSF。たしかな文章力でキャラクターに引き込まれる作品である。


「さよならスイートピー」作者:あぼがど

https://kakuyomu.jp/works/16818093074822814919

 SFの遊び心をふんだんに使った逸品である。とにかく濃い目のSF成分で成り立っているペンギンSF。


「大気圏流氷に暮らすナギサペンギンたちがかわいい理由」作者:久乙矢

https://kakuyomu.jp/works/16818093075795846167

 SFウェブマガジン、anon pressでも掲載経験のある作者のペンギンSF。ペンギンのかわいらしさを探究しつつもSFとしての着地点を模索する意欲作。同一作者の作品はネットでは見つけられること自体がないのでレア度を上げている。


「ペンギンの国」作者:秋待諷月

https://kakuyomu.jp/works/16818093075935425971

 司法や行政法をSFモチーフとして操る作者のペンギンSF。癒やしのペンギンがだんだんと人間の理性を壊していく、そんな現代の狂気を描いてみせる。


「人間になったペンギンの話」作者:つるよしの

https://kakuyomu.jp/works/16818093076240579745

 ジャンルとしてはホラーに当たるが、ペンギンと人間の狭間を行く人間の不確かな階調を描いた。結末は恐ろしい。


「『クレイジー小西』」作者:古賀裕人

https://kakuyomu.jp/works/16818093076702132106

 ネット上の創作イベント、古賀コンの主催者である古賀氏自らが筆を執る。たしかな文芸的な面白さを内包した作品で一読の価値あり。


「ペンギンはなぜ空を見上げるか」作者:木口まこと

https://kakuyomu.jp/works/16818093077381241266

 日本SF作家クラブ会員の彼が描く、日本の村を舞台としたペンギンSF。ロックをモチーフにしており、また笑いのセンスも秀逸である。円城塔賞最終候補にも選出された彼がペンギンを題材に何を描くのか。なお、某ペンギン村は関係ない模様である。


 いかがだっただろうか? 自主企画ペンギンSFアンソロジーでは月末を目途に人気投票企画が動いている。この週末をきっかけにペンギンSFを読んでネット上の人気投票企画に参加してみるのもいいだろう。

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