第3話 在りし日の闘技大会 ①
某日。
第二支部へ阿頼耶識剣技大会へ出場する者達が続々と集結していた。
阿頼耶識の支部は各地に点在しており、任務により出場出来ない者もいるが、それでも今大会、近年稀に見ぬほどの強者が各地より集まっていた。
大会へは誰でも参加できるわけでは無い。大会の参加条件としては、知力、魔力、腕力など、様々な総合の成績の優秀者が選抜される。なお、任務での功績なども高く評価され、年齢などの制限もない。
集められた挑戦者は名を持たないネーム、半ネームドを入り交えたトーナメント形式で上位3位まで、名を持たぬ者には名を。仮の名を持つ者は、現ネームドへの挑戦権を与えられる。
「今年もなかなか活きのいい者達が集まっているようだな」
施設内に設けられた地下大闘技場。その闘技場を一望出来るVIP席に、ルビーやダイヤモンドなど阿頼耶識のネームド達が出席していた。
「おっ!あれはもしや」
ルビーは出場者の中で一際存在感を放つ者を発見。
「前回大会で優勝し、名を与えられた者。凄まじい剣戟で、他を寄せ付けず圧倒する才女、名をプラチナ」
「私も去年大会は見させてもらったが、彼女の力は我らネームドに匹敵する実力だろう」
ルビーは前回大会を思い返す。当時も各地から様々な実力者が集まっている中、名も持たない銀色の髪の少女が次々と強者を薙ぎ倒し、優勝したあの日の事を。
稀に見ぬ強者が現れたあの日の事を思い出し、全身の魔力を荒げて胸を高鳴らす。
「ルビー様?……ルビー様?」
「ハッ!?」
一瞬、我を忘れてしまいそうな高揚感に包まれていたルビーは、心配そうに声を掛けたダイヤモンドによって我に帰る。
「すっ、すまないダイヤモンド。彼女の事を考えると、胸の高鳴りを抑える事が出来なかった」
「はっ、はい……。ゴホンッ、まもなく開式のようです。統括として、皆に一言挨拶をお願い致します」
「了解した」
観客席から飛び交う無数の声援。高らかに響く多彩な楽器の音色と共に、今大会へと出場した32名の阿頼耶識が入場、一同整列する。
「阿頼耶識のネーム、半ネームド、及び出席した全ての阿頼耶識諸君。多忙を極める任務の間を縫って、年に一度の剣技大会へ出席してもらった事を、大変喜ばしく思う」
「成績、任務、その他理由でこの日に出席出来なかった者にも、日頃の感謝を込めて、阿頼耶識統括として礼を言いたい」
「今日出場した者達へは、己の力を十二分に発揮し、全力を尽くして勝負してもらいたい」
「そして最後に一つ、必要な事は結果で全てを語れ!以上、これを開会の挨拶とする」
ルビーの演説が終わると共に、会場内から溢れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。
その後、ルビーに代わりダイヤモンドが壇上上がると、大会の細かな説明が行われた。
今大会の主なルールとして、勝敗は相手の戦意を削ぐ(相手を気絶させるなど)、もしくは審判による介入があった場合とする。
持ち込める武器は一つ、魔装の仕様は禁止とする。
※ 魔装とは、力の源である己の魔力の真髄に近づいた者が持つ最大の武器。個々に形などが違い、全ての者が扱えるが、まだまだ発現者は少ない。
その他様々な伝達がなされ、一旦出場者達を解散させ、数分後に第一試合が執り行われる事となった。
「久しぶりだねルビー。さっきの演説、なかなか良かったよ」
「……相変わらずの隠密能力だなオニキス」
突如ルビーの背後に現れた、死神のような黒いドレスに身を包んだ、長い黒髪の女性。
「この隠密能力を買われて、他国で暗殺任務に勤しんで来たけど、そろそろ飽きちゃってね。そろそろお屋敷に召し上げられたいと思ったのさ……」
(キンッ)
突如オニキスは、ダガーでルビーに襲い掛かる。
「何の真似だオニキス!」
「流石だねルビー!これをかわすなんてやるじゃないか」
間一髪のところで、殺気に気付いたルビーは自前の剣でこれを防ぐ。
「冗談もいい加減にしろ!それとも、本気で私とここで戦うつもりか!」
「はっ!それも悪く無いね、ここで白黒付けようじゃないか!」
両者力は拮抗し、どちらも譲らぬまま時間は流れる。
しかし、その均衡を破ったのは、来賓として招かれていたダイヤモンドと翡翠。一度部屋を離れていた2人は、凄まじい殺気に気付くと急いで引き返し、異変に気付いたダイヤモンド瞬時にダガーを弾き飛ばし、翡翠がオニキスを取り押さえた。
「貴様なんのつもりだオニキス!これは立派な反逆罪だぞ!」
翡翠の拘束に、抵抗の意思を示さないオニキス。そればかりが、両手を上げて降参する。
「やだやだ冗談よ。このダガーも偽物、本気にしちゃった?」
「なんだと貴様!」
「大丈夫だダイヤモンド。剣をおろせ」
「ですがルビー様!」
「おろせ!」
強く言い放ったルビーの一言に、ダイヤモンドは渋々剣を下ろす。
「翡翠すまない、彼女を離してやってくれ」
「よろしいのですか?」
「ああ構わない」
「了解致しました」
翡翠はゆっくりとオニキスを離すと、警戒は解かぬまま後ろに下がる。
「オニキス、私に用があるなら大会を勝ち上がれ。その時には全力で相手になってやる」
それを聞いたオニキスは、そのまま何も言わずに部屋を後にした。
「いったい奴はなんのつもりでここに!」
「わからない。だが、全ては結果が証明してくれるだろう。彼女も阿頼耶識の一員、自ずと答えが出るだろう」
それから間もなくして、何事もなかったように、第一試合が執り行われた。
今大会、半ネームドの出場は4人。中でも注目選手は前回大会で優勝したプラチナ、そして前回大会には出場しなかったものの、実力はネームド並で、かつ過去にルビーと互角に渡り合ったと言われているオニキス。
試合はAブロックからDブロックの各ブロックに分かれ、各ブロック1名ずつ半ネームドが配置されているため、勝ち残ればこの2人の対戦も夢ではなく、順序よく行けば決勝カードとなる配置であった。
試合が進む中、ダイヤモンドはルビーの忠告もオニキスに対して警戒を解いてはおらず、警備の護衛数人と共に、オニキス周辺を警備。翡翠はそのままルビーと共に試合を観戦していた。
「続きましてBブロック第二試合、半ネームドプラチナ対、第四支部主席合格者の試合を行います」
闘技場の中心に設けられた特殊な鉱石で造られたリングに、両者壇上。激しい声援の中、両者向き合うと、間髪入れる事なく審判によって試合開始の合図がなされた。
「半ネームドだかなんだか知らないけど、このブロック、あんたさえ倒せれば勝ち上がったも当然よね!」
ネームの女はそう言うと、手に持った剣の剣先を相手に向け、足へと集中させた魔力を一気に解き放ち、爆発的な加速力でプラチナへ向かう。
プラチナはそれを、軽くいなすようにかわすが、すかさずさらなる追撃、さらにさらにと繰り出される四方からの追撃は、次第に加速度を増してプラチナを追い詰める。
「どうしたの防ぐので手一杯?それじゃ、さらに加速度を増して!」
次の瞬間、違和感を感じた時には全てが遅かった。繰り出していたはずの剣は刃先が無くなり、同時に感じる腹部への鈍い痛み。
「嘘、いつの間に!?」
「白狼技・白刃」
一瞬のうちに鞘から抜かれ、目にも止まらぬ速さの斬撃は、相手の認知する速度を超える。ネームの女はそのまま地面に倒れ、それを確認した審判が、試合終了の合図をした。
「すっ、凄い。彼女、いったいいつ刀を抜いたの?」
食い入るように見入る翡翠。自身でも追うことが出来ないほどの一撃が目の前で繰り出された事に驚愕する。
「……その昔、東北にあったとされる王国では、巨大な狼の霊獣から編み出された秘剣が存在すると書物にあった……」
「私も見た事が無い剣技だ、加えて彼女の潜在魔力量と、僅かな支出でそれを制御する技術は阿頼耶識の中でも指折りだろう」
様々な憶測を立て興奮と高揚するルビーに、翡翠は少し恐怖を覚えた。
阿頼耶識メイド残歌 甘々エクレア @hakurei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。阿頼耶識メイド残歌の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます