第7話 黒兎とコーヒー

 モヤモヤとした景色に燃え続けていた何かが一区切りした。ハク十のだれかさんオススメの薬で熱も冷めたし魔術師アイとして何かが本格的にはじまった気がする。


 ここ最近、新しい望鏡パーティーを組んだはいい、いい滑り出しだけど。なんか滑り出しただけで隣のやつの事全然知らないな……。


 それにホームをどうするかだな。魔術師アイの魔術訓練場になってはいるが。


 パーティーは家族も同然だ……と聞いたことがある。それぞれの生活があるクエストの時にだけ集まればいいってやつもいるがやはり命を預け合う仲間それでは上手くいかないのだろう拠点がいる。一種のステータスでもあるし、こういう秘密の場を仲間と共有していると特別感や優越感に浸れるじゃないか。……まぁ俺は上手くいかなくて追放されたらしいが!


 天ノ瞳、当初のカスミやロリババァにやり返してやるって気持ちは…………そんな事より今は。こいつだ。




「てか黒兎おまえ名前なんだ」


「……黒兎」


「なわけねぇだろ母ちゃんは?」


「私が家出」


「そうかって家出! はいはい、まぁわかったどうせその耳を活かして稼いでやろうって来たんだろ」


「うん、でも稼げない」


「そんなこともないだろ?」


「家賃高い」


「ま、まぁそれは……望鏡都市ラミラだからな……ラミラがみんなの憧れラミラでいるためには仕方がない」


 俺が師匠の計らいで割り引かれてるのは内緒だ……。


「……情報も引かれる」


「引かれる? あー、情報屋としてやっていくには互助会的な」


「うん月額制ギンシもうやめる」


「げつがくせいギンシ……なんだそれ」


「って、やめるのはやめとけ」


「なんで?」


 パーカーを下ろしている黒兎はぴくりと垂れ下がって黒髪にとかしていた耳を反応させた。


 だだっ広い野原に足を崩している2人は向かい合いのはなし合い。


「逆に目つけられるだろ、考えてみろ突然田舎から来た右も左も分からない情報屋向きの兎族女子が辞めるんだ。何か美味い話があったのかとラミラ中の情報屋全員がお前の行動を監視しだしたらどうする?」


「……うざい」


 得意のイメージ構築による推測を出力した魔術師アイに対し黒兎は納得したのか。顎に右手をやり唇をすこし尖らせた。


「だろ? 互助会って事は仲間同士のそういうのはある程度表向きは禁止されてるはずだ、俺ならそうする」


「うぃたしかに、だった気がする」


「つまりギンシかなんかしらねぇが入っておくメリットしかなくて抜けたら地獄ってこと、よく出来たシステムだな」


「うざいシステム……」


「ははつまりお前がどんなに天才的に耳の良い黒兎でも抜け駆け禁止、ギンシだけに」


「…………」


 いつまでも変わらない青い天のぽかぽか陽気の下で、静寂と風草の音がただただ流れ。


「ところでお前名前なんだっけ?」


「駆け引きならヘタクソすぎ、名前なら黒兎がいい」


「こんなのが駆け引きなわけないだろ……。望鏡パーティーだよな俺たち……たしかに黒兎はすっと呼びやすいけど」


「ならけってい魔術師アイ」


「はぁなんか振り回されてる気がするけど。ま、いっか、黒兎」




▼▼▼

▽▽▽




「これからどうするの」


「黒兎、俺たちの望鏡パーティーランクは?」


「C」


「だよな」


「Fもふたつクリアしたのにおかしい」


「まぁおかしいっちゃおかしいが」


「おかしいよ?」


「そもそもなランクってのはどうやって決めてると思う?」


「鏡のおおきさ」


「そうだ正解、ぱちぱちぱち。でもな」


「逆に言えば決めているのは鏡の大きさそれだけだ」


「それだけ……あ、悪運?」


「そうだ! 俺たち下っ端は常に運試しさせられてるってこと!!」


「……魔術師アイ天才じゃなかった?」


「おい、はぁ……まぁ実績が足りてないのは認める……追放されたこともあったっけ? わすれた」


「いいか望鏡者としてよく聞け、これは俺が腐る程聞かされた話だ」


「うん」


 髪を好きなだけ掻きむしった後、急にきりりとした表情になった金髪望鏡者は新米の黒兎の目をしっかりよく見て。


「よし。なんでこんな事させられてるかって思うよな大事な人の命だってのに、ミラー機関の奴等はAから順に並べて俺たちを用意した鏡へと向かわせる。AがやられたならD、CがやられたならGを向かわせる。鏡の中はモヤで見えてないらしいから仕方ないんだ、でランクが上がるにつれてこなすクエストって何が多いと思う?」


「……失敗クエスト」


「そうだよく分かったな。死んだ奴らの詳細データだって頼めば渋々見せてくれる。そこから色々良いことよくないことイメージしたりしたぜ……? クエスト前までの日夜ゆっくり斧を研いだりしながらな……それで俺って思ったんだ、だからなお前たちが今やってる事って全然無駄じゃないんだ」


「だって俺天才魔術師アイだろ? 死ぬわけがない」


「意味わかんないけど?」


 姿勢良くそれを聞いていた黒兎は木のテーブルに片肘をつき小さい息を漏らした。


「だよな」


「ふざけてる?」


「ごめんとにかく、俺たち下っ端早く上に行こうぜ! それとも情報屋は命が惜しいか?」


「……ぜんぜん惜しくない、だって今は望鏡者黒兎だから」


 これ見よがしにやる気に満ちた顔というわけではない、でもじっと見据える紅い瞳は燃えるようにアカい。俺の見たこともないものだった。


「それは……いいな」


 にやけ顔で問うて、笑ってやろうと思ったけど。望鏡者として俺は何かを持っていたっけ、魔術師としてのプライドだけで──。


「ところでさっきの話は?」


 ぼーっと前のめりでみつめてくるダークガーネットの瞳に思わず視線を逸らしてしまった。


 私を見つめながらイメージ構築し出すの……キモくてこまる。


 立てた耳と黒髪を幾度か撫でながら話題を変えてみた。


「ん? あぁイメージ構築したんだけどベテラン望鏡者っぽくなかったか? ほら酒奢ったらべらべらしゃべり出すような、はは」


「……うざ」


「はははは、そだコーヒー飲もうぜ。この景色も込みでさ、青い森に青い空に青い草原、ブルーベリーコーヒーなんてアレンジはどうだ?」


「別々?」


「もちろん一緒、フルーツコーヒーっていう師匠と開発したやつでさ! ほら粉にしてあるこれをこう溶かすだけでほらッすご────」

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望鏡の魔術師アイ 山下敬雄 @takaomoheji

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