第6話 天と紅と金髪と
望鏡都市ラミラ、ミラータワーを中心としたから都心から少し外れた郊外の住宅地マンション、6階建のエデンずミラー4階に住むとある望鏡者。
時刻は飯時の11時30分。
布団をしっかり首まで被るのは魔術師としての健康管理、当然のこと……ではなく。
魔術師アイは謎の熱を出してしまい。
いつも通りにクエストをこなし朝目覚めたときにはそうだった。
クソ……合体魔法はりきりすぎたか……。アタマが刺すようにいてぇ……うぇに喉になんか無限にせりあがっうぇ。
「俺としたことが……情報量のパンクだそれに冷えたか……うぇ」
「弱い」
こだわりのなさそうなシンプルベッドに寝転び横になる、魔術師アイを見下す紅い瞳。見慣れた黒パーカーとショートデニムの組み合わせの若者。
聞き慣れた魔術師アイの出力したそよ風を聴き、仕方なく参上したのだ。
「おまえなびょうに……うぇ」
「く薬買ってきてくうぇ……」
「うぃ」
愛想のない平坦な返事で垂れ下がった黒耳を少しぴくりとさせ、部屋からそそくさと出ていった。
▼▼▼
▽▽▽
街中では出来るだけ兎族用にお洒落に作られたおおきなフードを被る、聞き耳を立てていると思われたくないからだ。
黒兎は薬屋を探すが、そういえば何も詳しいことを聞かずに出てきてしまったと都心の綺麗に舗装された街路をゆく道中で気付いてしまった。
魔術師に効くクスリ、魔術師に効くクスリ……魔術師アイに効くクスリ? 頭痛、腰痛、感情調整薬?
黒兎は思考しながらたどたどと歩きつづけ、アイから受け取った黒紫の巾着袋の重みを確かめている。
引き返すか適当に小綺麗な外装の質の良さそうな薬屋で取り揃えるか。
聞き慣れた声質────ピクリと反応した耳、立ち上がりそうになったソレを左手で抑え。急に、立ち止まった。
立ち止まり追うようにじぶんを見つめる紅い瞳、黒パーカーの怪しげな様子に。
「なんだ?」
刺すような視線に既に気付いていた青髪。休日の人混みの中で吸い寄せられるように歩み寄っていく両者。表情を変えない紅い瞳に訝しむ青い瞳は────。
「魔術師の熱に効く薬……しらない?」
「魔術師の熱?」
巾着袋から取り出された1枚の金貨がそっと差し出され、青髪の女の手の平に置かれていた。
▼▼▼
▽▽▽
「黒兎おそいってうぇ……お、これは」
「金貨2枚高かった」
「いや金なんて気にすんなナイスナイス! このマジナイは!? ハク十の魔術師様おすすめの薬だ! よく分かったな! よしよしよしうさうさよし」
「…………」
魔術師アイは上体を起こしいつも以上に黒兎の頭と耳をよしよしとすると。さっそくその2粒の丸薬をコップの水で流し飲み。即効性はないはずだがどんよりしていた気持ちと刺すような痛みが不思議と楽になったようだ。
「何をやってるかと思えば少女にお遣いか魔術師アイ」
玄関のドアが開く音は一度だけだった。ゆっくりと近づいて来た足音と、記憶の中に録音されていたクールな女性の声。
「な!? カスミなんでだ」
「魔術師は魔術の事しか知らない、私の知ってる魔術師はそうだった」
纏めていない青髪、黒いハンチング帽子解放されたセミロング。青い髪にはカジュアルな黒の着こなしが似合う戦闘の時とはちがうお洒落をした姿がそこにあった。
振り返った魔術師アイは目を見開き口をポカリと開け、じぶんの部屋に何故か存在する彼女の青い瞳と髪に心を奪われそうになったが──。
「な、なにしにきやがった……俺を追放して」
「それは私の台詞、まだここにいるなんてなぜだ魔術学校に帰ればいいじゃないか」
「はっ、魔術学校なんかで学ぶ事なんてあるかよ。笑いやがって……アッ!? わざとミラー機関に流したな! そこまで嫌うか! 俺は、絶対にあきらめてやらないからな! 魔術師だってな突っ走らない前衛がいなけりゃずっと戦いやすい! まさにソロ向きだね!」
「そうだな……」
「えそうだなって……」
「私ではお前には合わせられない、私に合わせてくれる仲間しかいらない」
「合わせてたろ!」
「合ってない! お前は日替わりで変な魔術ばかり使うからちっともだ!! 毎日毎日お前の魔術をメモしてシミュレーションもした、なのにお前はコロっと……全然意味がない!!」
「そ、相談すれば?」
「魔術師は魔術! 剣士なら剣! 私に口出しできるか! 互いに努力し自然と合わせていくものだ!!」
「クゥミは合わせてくれている以前よりもずっと剣に集中できる見たことのない魔術も不意に飛んで来ない! これでハッキリと分かったやはり全く改善しようともしないお前がおかしい!」
「え、え、いや……え」
「それにお前は基礎が足りてない! クゥミとの魔術勝負で分かっただからお前はアレンジして賢くなったフリばかりする!」
「待て! 何言ってんだよ魔術師はアレンジイメ」
「うるさい! それに合体魔法? アレからだ! 私の気力も以前より乱れてしまった! まだ調子が戻らない! お前にこの身体をいじられたせいだ私が馬鹿だった! お前なんかにこの身体を好きに! 顔も見たくも!」
出会って早々にとまらなかった。止まらなかった両者。見つけてしまったかのように。
やがて全てをぶつけ吐き出すようにカスミは鋭い眼差しで捲し立て、魔術師アイを圧倒していった。綺麗な女性には似合わない息をはぁはぁ、と荒げ。
もうパーティーじゃない不平不満を垂れ流しても咎められはしないと、モヤモヤと心の内に隠していたものも含めてプランなしに全てを彼にぶつけた。
押し黙るしかなかったのは金髪の男、その場で急に起こった口論に負けベッドから立ち上がる事も出来ず。驚きと彼女の言葉をさまざまな熱でヒートアップする冴えないアタマに通しながら。
「合体魔法はある」
「なに?」
傍観していた傍観者は、すっとその男女の作り上げた静寂に割り込み。青い視線が金髪から外れそちらを向いた。
「合体魔法4回もした、魔術師アイと」
「ナ!? だまされ」
「魔術師アイは天才、わたしも天才黒兎」
「が!? な!?」
気にも留めていなかった少女からの、予期もしない一言。
黒いパーカーは下ろされ、ピンとノーマルな表情とは違い自信に満ち立った黒い耳。
「望鏡パーティー、紅ノ瞳」
黒パーカーの中に手をやり懐をごそごそと取り出し見せつけた鏡の欠片のネックレス。
「ぼ望鏡者、アカノメ!? お、おいアイ!! それはまさかわたしの」
「ソラノメアカノメ……新生魔術師アイパーティー! なんつって……!」
金髪魔術師は、微笑み苦笑いなんとも言えない顔で横に傾げ右の金を掻き乱していく。
「が!? は……わたしの……ソラノ────」
しばし見つめ合った両者からは、魔術師の笑みが消え、晴れ晴れしい青い天の瞳はそこになく。どんよりと曇っていくのが伝わってくる。
黒く洒落たハンチング帽子を被り直しては。
それからカスミは少し下を見つめながら帰っていった。
▼▼▼
▽▽▽
驚き、反省、反芻。
青い事件が帰っても無言のじかんは何故かつづいたが。
「にしても魔術師アイは天才か」
「……うざ」
「なんでだ! ま、いいや天才魔術師アイと天才黒兎? はははは、いやーなんかスッキリした」
「ほんとうに?」
「……魔術師なら魔術、でも天才魔術師なら魔術だけじゃないぜ!」
「うん合体魔法、紅ノ瞳」
「あぁ合体魔法に……紅ノ瞳は天ノ瞳よりアカいからな! じゃんじゃんこなしていずれ追い抜く! アオいソラなんて染め上げてやる!」
「……うん」
時刻はわからない、昼を過ぎた飯時。
アタマの熱も冷えて、いまは心の方が変に高まってアツい。……お粥よりおにぎりをしっかり頬張りたくなった。
「待て黒兎、この塩胡麻梅ソルトとその醤油味のイカナゴの相性は」
「うざい……はむっ」
「あぁ!! まぁいい一口目はシンプル王道ってのはわかる、じゃあお次はアレンジイメ──────」
黒耳はなかなか垂れ下がってくれない、そんな事も気にしてはいなかったけど。うざいソレを強制されたときには────。
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