第5話 初めてとこれからと
「……」
夢から覚めた私は、まだ少し重たい目蓋を擦る。
あれだけ酷かった頭痛は綺麗さっぱりと消え去り、体はすっかり元気になっていた。数年ぶりにあの言い表しようのない倦怠感から解放された快感は、とても言葉では言い表せない。
それも全て、隣ですーすーと穏やかな寝息を立てて眠る、マオのおかげだった。
……女の子みたいに綺麗な寝顔。
これはこれで、見ちゃいけないものを見ているみたいで、ちょっとドキドキする。
……キスしたら、怒られるかな?
……今ならまだ、大丈夫だよね。
私は、どうしてもキスをしたい衝動を抑えきれずに、彼の口元へと顔を近づける。
そして、そっと唇を重ねた。生まれて初めて経験する感触に、私の胸これまでにないは高鳴りを見せる。
正真正銘、これが私にとってのファーストキスだった。
「……」
この初体験を永遠のものとするために、何度も感触を噛み締めながら、ゆっくりと唇を離すと、彼と目と目が合ってしまった。
「……ッ!」
怒られるかもしれない。そんな恐怖で、私は反射的に目をつぶる。
しかし、いつまで立っても、マオの叱責はやってこなかった。
代わりにやってきたのは、頭の上に、ぱさりと柔らかいものが落とされる感触だった。
「え……!?」
何事かと目を開けると、そこには大事なものを慈しむような顔で、私の頭を撫でているマオの姿があった。
「どうして……だって、女の子は嫌いだって」
あれは嘘だったのか、と私は言う。
すると、彼は照れ臭そうに笑った。
「君が男であろうとする限り、僕が君を嫌いになることはないさ」
その一言で、私は身も心も、完全にマオに奪われてしまった。
「また、今日みたいなこと、お願いしてもいい?」
私が恐る恐る訊ねると、彼はもちろん、と頷いてくれた。
それから毎日、私とマオの夢デートは続いた。
男装天使と半夢魔の夢デート しずりゆき @shizuriyuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます