欄外:孤独な作者が忌々しき考えに想いを巡らし追い詰められた結果

マサラ

その1



 神戸元町 中華街



「ねえねえ竜司。

 どの辺りにあるの?

 そのすっごい辛い麻婆豆腐の店って」


「ちょっと待ってね……

 何せ隠れた名店らしくて表通りには無いん……

 だよね……」


 僕は手に持っているスマホとにらめっこ。

 隣にはそんな僕を覗き込む様に見つめる暮葉。


 今日は中華街にデートに来ていた。

 デートと言っても……


【なあなあ、竜司。

 んで何処に行くんだよ?】


 コブ付きだけど。

 後ろから長い首で覗いているのはガレア。


 緑の翼竜だ。


 元々キッカケは僕がネットで隠れた名店みたいな感じで中華料理屋が紹介されてたから。


 それでそこの麻婆豆腐がシャレにならない程辛いって言うから暮葉を誘ったんだ。

 あ、隣にいる銀髪の女の子は天華あましろ暮葉くれは


 ……僕の婚約者。

 アイドルをやってるだけあって超絶カワイイんだけど、こう見えて竜。


 大きな白翼竜が変化してるんだ。

 それで三人でその中華料理屋を目指してる所なんだけど…………


 どうにも紹介HPの地図が大雑把で良く解らない。


「多分……

 こっちの路地を入るんだと思う……」


【何かすっげぇ狭い所だなぁ】


「ガレア、ブツクサ言わないでついてきなよ」


 僕ら三人は狭い路地を進む。


 ん……?

 何か霧が……


 出て来た様な……


 あれ?

 今日は晴れてる筈なのに。


 足元から霧が立ち込めて来た。

 凄い量。


【ん?

 何か煙たくねぇか?】


「ホントだ。

 何かモヤモヤして来たよ。

 ねぇ竜司、これなぁに?」


 二人もこの霧に気付き始める。

 何かのイベントかな?


「多分、中華街の何かのイベ…………」



 !!!?



 ブワァァァァッッ!


 膝下ぐらいまでしか無かった霧が急速に増大し、瞬く間に僕らを包んでしまった。

 一体なんだコレ?


「ガレアーッ!

 暮葉ーッ!」


 視界も不明瞭になり、二人の姿も見えない。


【そんな大声出さなくてもいるよ】


「竜司、これなあに?」


 近くから声。

 すると僕の視界に緑の爬虫類顔と深紫の大きな目を持つ女の子が映る。


「ホッ……

 良かったァ~~……

 どっか行っちゃったと思ったよ」


 僕は胸を撫で下ろす。


【なあなあ竜司。

 俺らって狭いトコにいたよな?】


 僕の安心をよそにガレアは続ける。


「うん、そうだよ。

 地図だと狭い路地の先にあるらしいし」


【でも何か広いぞここ】


 え?


 そんな馬鹿な。

 僕は纏わりついている濃霧を振り払う。


「え…………?」


 何処ここ?


 僕の頭の中で最初に浮かんだ言葉。

 少なくとも今居る場所は路地じゃない。


 ましてや中華街なんかでも無い。


 空が真っ黒い。

 足元には先程の濃霧が滞留している。


 霧の白が何処までも続いている。

 一体何で僕らはこんな所に居るんだ?


「ガレアッ……

 ちょっとこっちに……

 魔力補給させて……」


 側に寄って来るガレアの鱗に手を添え大魔力補給。


 こんな不可思議な現象。

 考えられるのは何らかのスキル。


 誰かが僕らを攻撃しようとしてるのかも知れない。

 僕は警戒を強める。



「あっっ!

 いたいたァ~~……」



 ドキンッ!


 急に後ろから声がかかった。


 振り向くとそこにいたのは眼鏡をかけた初老……

 いや初老に一歩足を踏み込んでいる様な男性が歩み寄って来ている。


 見た感じ僕より二回りは年上。


 左手に持ってるのは……

 あれビール缶だ。


 右手にはイカフライを持ってる。


 ヨタヨタと僕らの元へ寄って来た。

 足取りで解る。


 この人、酔ってる。


「あぁ~~……

 ずっと書きながら妄想してたけど、ホントにそのまんまだァ~~」


 側まで寄って来た男性は僕の顔をマジマジと見つめる。


 ウッ!?

 酒臭っ!


「あ……

 あの……

 貴方は……?」


「んふふ~~……

 そうだよねぇそうだよねぇ。

 まず君は直近で浮かんだ疑問を解消しようとするよねぇ~~……

 僕がそうキャラ設定したんだもんねぇ~~……」


 何か要領を得ない。

 回答になってない。


「あの……

 ここが何処だか解りますか?」


「そうそう、君は回答が得られないと別の質問をして自分なりに考察をしようとするんだよねぇ~……

 ウ~イ……

 それで仮説を立てて呼炎灼こえんしゃくとか中田を倒したんだよねぇ~~」


 !?


 何で?

 何でこの人が二人の事を知っている!?


 僕の警戒心が更に強まる。


「宜しいィッ!

 質問にお答えしましょうっ!

 まずここは僕の受動技能パッシブスキルで創り出した空間だよ。

 名前は断絶したウザい空間ブレイクオフ・ボザースペース

 出来立てほやほやだよ」


 ズザァァーッ!


 僕はそれを聞いた途端、間合いを広げた。


「……目的は何ですか……?

 何故僕達を……?」


「うっわ、はっや。

 そんなの普通の人間の動きじゃ無いじゃぁん。

 グビッ……

 今の魔力注入インジェクト使ったの?

 自分で考案しときながら何だけど、完全ドラゴンボールじゃん……

 アハハハッ!!

 ……グビッ」


 高笑いしながらビールを飲む男性。

 一体何なんだこの人。


 それにさっきからちょくちょく気になるワードを発している。


 キャラ設定とか。

 自分で考案とか。


「…………僕達に何らかの妨害をしようと言うのなら実力行使に出ますよ……」


 先手必勝。

 僕は足に力を込め始める。


「うわわわっ!

 ちょっとストップッ!

 タンマタンマッ!

 竜司君っ!?

 君、魔力注入インジェクト使って僕を殴ろうとしてるよねっ!?

 やめてやめてっ!

 普通に死ぬからっ!

 落ち着いてっ!

 ちゃんと僕が誰なのか話すからっ!

 それとここがどう言う所なのかもちゃんと説明するからっ!」


 慌て出す男性。

 何か物凄く必死だ。


 でもお爺ちゃんが言ってた。


 竜河岸のスキル戦って言うのは振る舞いや体格等は関係無いって。

 警戒は解く訳には行かない。


「何かゴゴゴゴって感じするんだけど……

 ハァ……

 しょうがないか……

 この慎重な性格も結構気に入ってる所だし……

 えー、コホン。

 改めまして自己紹介をするよ。

 僕の名前はマサラ。

 君達の作者だよ」


 ???


 何を言ってるんだこの人は。


「YESッ!

 なぁ~るほど。

 キョトン顔ってそんな顔なんだね。

 まあそりゃ君からすればナニイッテンダコイツってなるよね。

 うん、わかる。

 わかるよぉ、でもこれは事実なんだよ。

 すめらぎ竜司りゅうじ君、天華あましろ暮葉くれはさん。

 そしてガレア。

 三人共……

 って言うか君達が知ってる人はぜーんぶ僕が産み出したキャラクターなんだよ。

 書いてる小説のね」


 あ、わかった。

 この人多分、頭がアレな人だ。


 そうだ。

 そうに違いない。


「ねぇねぇ竜司。

 この人、何言ってるの?」


【何言ってんだコイツ。

 言ってる事が良く解んねぇぞ】


 二人共キョトン顔で僕を見つめて来る。

 僕に聞かれてもなあ。


 そんな僕を尻目にマサラと名乗るその人はじぃっと暮葉を見つめている。

 何かいやらしい眼。


 バッ!


 僕はすかさず暮葉を身体で隠した。


「やぁ~っぱ、暮葉はカワイイなぁ……

 そりゃそうだァ~……

 リゼロのエミリアまんまって言うガワの設定なんだから当然かぁ~……

 グビッ……

 ウィ~~……

 性格は暮葉ちゃんの方が天真爛漫だけどねぇ~~……」


 ホント何なんだこの酔っぱらいは。

 こう言う時は立ち去るに限る。


「あー、はいはい。

 良かったですね。

 じゃあ僕達は行く所があるのでこれで……」


「何処にどうやって行くの?

 だから言ったでしょ?

 君達は今、僕の断絶したウザい空間ブレイクオフ・ボザースペースに囚われているんだ。

 言っとくけど進んでも進んでも一緒だよ。

 何処までもこの空間は続いている。

 条件を達成しない限りこの空間からは逃れられない」


 うって変わってハッキリとした口調。

 僕の目の前には真っ黒な空間。


 何処まで続いているか見当もつかない。


 この人の言ってる事は真実なのだろう。

 裏付ける様に空間は広がっている。


 それにしてもこの人の目的は一体何なんだ?


「…………その条件って一体何ですか……?」


 この問いをしてしくじったと思った。

 僕らを何らかの形で妨害するつもりであれば教える訳が無い。


 けど…………



 反応は僕の斜め上を行くものだった。



 じわ


 じわ?


「うっ…………

 僕の鬱憤を晴らしておくれよぉぉぉぉぉぉっっ!

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!」


 急に突っ伏して泣き出した。

 訳が分からない。


「あ……

 あの……

 急にどうしたんですか……?」


「もう限界なんだっ!

 限界なんだよっ!

 誰にも何も言われないまま書き続けるのが限界なんだよぉぉぉぉっっ!」


 一体何の話だ。


「ねえねぇ竜司。

 この人なんで泣いてるの?」


「さぁ……

 僕にも何が何だか……

 あのマサラさん……

 でしたっけ?

 とりあえず落ち着いて下さい。

 落ち着いて順序立てて説明して下さい」


「……はい……

 グスッ……」


 グスグス言いながら顔を上げる男性。


「あのですね……

 僕が今日仕事をしてまして……

 あ、仕事って言うのは小説書きの方じゃ無くて別の仕事ね。

 それでその仕事がずぅっと黙々とデータを作成する仕事なのよね……」


「は……

 はぁ……」


 説明してとは言ったが何だコレ。


「んでずっと黙ぁーって仕事してるモンだからふと頭を過ったのよ。

 孤独死が」


 !?


 唐突に物騒なワードを入れ込んで来た。

 そのままマサラは話を続ける。


「オイちゃん、別に孤独死は構わへんねん。

 君らがおるから。

 これでも心血注いで書いてるつもりやしね。

 リアルで一人でも頭の中に竜司や暮葉やガレアとか蓮とか元とか思い浮かべながら死ぬんやったらええやんとか思ってたんよ……」


 おいおい、蓮や元の名前も出て来たぞ。

 にわかに信じ難いけど本当に作者なのか?


 ってか作者って何だよ。


 グビィッ!


 マサラはビールを一息に呑む。


「あ、つまみ切れとるわ……

 ほんじゃ次は柿ピーにしようっと」


 パッ


 え?


 ゴシゴシ


 僕は両眼を擦る。

 今この人の手に柿ピーが現れた。


 それも唐突。

 突然にだ。


「……それも貴方のスキルですか?」


「ん?

 この柿ピーの事?

 違う違う。

 だから言ってるやん~、オイちゃん作者やって。

 作者言うたら神さんも同然やねんから柿ピー出すぐらい余裕やっちゅうねん……

 ポリポリ……

 柿ピーって何でこんなに美味いんやろ……」


 そう言いながら柿ピーを齧り出したマサラ。


 あれ?

 話の腰、折れてないか?


「……孤独死を受け入れたんならそれはそれでいいんじゃないんですか?」


「あぁそうそう……

 んでな思ったんよ。

 最近一所懸命書いてるけどだーれからもなーんも言ってもらってへんなぁ……

 って……」


 良く解らないがとりあえずこの人が作者だって言う部分は呑み込んだ上で話を進めよう。


 その方が話はスムーズだろう。

 きっと。


「そ……

 その作品って……

 何処かに投稿とかしてたりするんですか……?」


「うん……

 なろうとカクヨムにね……

 って竜司君、この作品てエラい他人行儀やなあ。

 キミらの物語やのに」


 なろうって言うのは多分小説家になろうってサイトの事だ。

 カクヨムって言うのは知らないけど多分同じ様なサイトの事だろう。


「は……

 はぁ……

 で、言って貰ってないからどうしたんですか?」


 じわ


 あ


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!

 何かもう面白いものを書いてるって自信が無くなって来たんだおよォぉォぉっ!

 うぇぇぇぇぇぇんっっ!

 何を書いても何も言って貰えない様な気までして来てェェェェェェッッ!」


 また大号泣。

 手が付けられないな。


「ちょ……

 ちょっと落ち着いて下さい……

 マサラさん……

 で良いのかな?」


 ガバッ


 這い蹲って大号泣かと思ったら急に起き上がり満面の笑み。


「エヘ……

 エヘヘ……

 何か自分の産み出したキャラに名前呼ばれるって……

 何か照れますなぁ。

 オイちゃんの事はマサラで良いよ。

 何だったらマサラ先生でも可。

 なんちって」


 情緒不安定か。


「じゃあマサラ。

 貴方が自分の作品に自信が持てなくなったのは解りました。

 けど、それが何でこの状況に繋がるのかが解らない」


「……先生の部分はスルーなんやね……

 確かキミ竜司ってそう言う奴よね…………

 えっと……

 とにかく今の状況がごっつキツく感じたんよ。

 何を書いても何も言われへんって状況が」


「それって突然そうなったって事ですか?

 ……いや、さっきの話を聞いてると徐々にって感じかな?

 単純に読者が減ったってだけでは?」


「……いや、そんな事は無い。

 ちゃんとカウントは増えてるもん……」


「一体今まででどれぐらい読まれているんですか?」


「二つのサイト合わせて3万人ぐらいかな……?」


 思ったより多い。

 けど、なろうってサイトは百万人とか普通に行くサイト。


 そう考えると少し寂しいかな?


「……んでちょい前までは結構ちょこちょこ感想も貰ってたんよ……

 その度物凄く嬉しくてねぇ……

 感想って言うものが賜るものやと実感したなぁ……

 あのね竜司君……

 感想言うけど舐めたらアカンで……?

 おもしろかった……

 たった七文字確認出来るだけでどれだけ勇気が貰えるか!

 どれだけまた書こうと思えるか!」


 何か熱弁している。


 面白いって言うのは前提なのか。

 何だかんだ言ってても自分の作品は面白いって思ってるんだなぁ。


 まあそう思わないと書いてられないか。


「は……

 はぁ……

 それでそのちょこちょこあった感想が無くなったのは何故なんですか?

 原因とか心当たりあります?」


 弱弱しく首を横に振るマサラ。


「直接的な原因はオイちゃんもよくわかんね……

 ただ気が付いたらだーれもなーんにも言わなくなった……

 ハッ!

 アガサクリスティのそして誰もいなくなったかっつーのっ!」


 ……って僕も何、普通に話を聞いているんだ。


「何か話が脱線してばかりですね。

 それで感想を貰えない状況が何で今のおかしな状況に繋がるんですってば」


「あぁそれな。

 んで誰かにその事に付いて愚痴りたくなったんやけど、オイちゃんのリアル友達で読んでる人なんかおらんからなぁ……」


「その友達に薦めて見たらどうですか?」


「アホな事言え。

 自分で自分の作品、おもろいから読んでなんてよう言わんし言うたとしてもカウントに変化が無かったらオイちゃん立ち直れへんで?」


 カウントに変化が無いと言う事は読んでいないと言う事。


 そしてそれは社交辞令。

 もしくは体よく流された事を意味する。


 確かに友人にそれをされると辛い。


「よしんば読む気があったとしても君らが出会ってからマザーが死ぬ所まで合計370万文字やで?

 ドン引きされるだけやて」


 370万。

 400字詰め原稿用紙で考えて9250枚。


 確かにおいそれと読める量じゃ無いな。


「オイちゃん、ハート弱いからな。

 こう言う自信無くす事って結構あったんよ。

 んでも前までは風化したり、山で遭難しかけたりして何とか持ち直してたんや……

 んでも今回のはちょっと大きくてなぁ……

 正直もうやめよかなって思ったぐらいやもん……

 んでもやっぱり中途半端な状態で終わりたくはないとかも頭過ってなあ……

 そんで辿り着いた結果がコレ」


 そう言いながらマサラは僕を指差す。


「自分らに愚痴ったらええやんて思ってん。

 スキル考えてそん中に閉じ込めたれって。

 んで思う存分愚痴ったれって。

 そんで今に至るって言う訳やのよ~~」



 ……ハァァァァァァッァァァァ~~



 深く長い溜息が出る。


 何か……

 色々ダメな人だなあ。


 元引き籠りの僕が言えた事じゃ無いかも知れないけど酷く内向的。


「……で、何でそんなに酔ってるんですか?」


「ンなん、言うてる事完全アタオカや言うん解ってるからやん。

 自分の創ったキャラクターに自分の愚痴聞いて貰うなんてシラフじゃとてもでけへんでけへん。

 元々自著投稿なんてただのオナニーやけどな。

 自分のキャラクターに愚痴るなんてそれに輪をかけた盛大なオナニーやで」


「ちょ……?

 何言ってるんですかっ?」


 突然何を言い出すんだこの人は。


「ねぇねぇ竜司。

 おなにぃってなあに?」


 唐突に暮葉から質問が来た。

 何でこの子は毎回毎回言い辛い事を聞いて来るんだ。


「…………えぇっっとぉ~~……

 ……自分で自分を慰める行為の事……

 かな?」


 よし、何か語感的にはまだキレイ。

 あまりエッチくない。


 それを聞いた暮葉は目を真ん丸としたキョトン顔。


「???

 自分で自分を慰めるの?

 どうやって?

 誰も慰めてくれないって事?」


「おーっ!

 さっすが竜司君っ!

 結構キレイにまとめたなぁ。

 んでも暮葉の好奇心はそれぐらいじゃ止まらんで~~……?

 これ拗れたら教えてガックンが来るで~?」


 え!?

 僕、その名前誰にも言ってないのに何で知ってるんだ!?


「もうっ……

 暮葉はあっちに行ってガレアと遊んでてっ!」


 グイと暮葉を押す。


「ちょっ……

 ちょっと何するのよ竜司ーっ?」


「この話の続きは帰ってからしてあげるからっ!

 今は向こうに行っててっ!」


「もうっ!

 絶対だからねっ!」


 とりあえず暮葉とガレアを少し離れた所に持って行けた。


「…………エロい事したらあかんで。

 話題が話題なだけに」


 やかましい。


「…………じゃあ空間の解除条件はマサラの愚痴を聞くって事ですか?」


「う~ん……

 半分正解かな?」


 勿体付けた物言いに若干イラつく。


「もう~~……

 イライラすんなよう。

 確かに愚痴を聞いて貰うのもあんねんけど、そんでオイちゃんがもう一度書こうと思える様になったら解除されんで」


 何だそりゃ?

 要するに励まして欲しいって事かな?


「わかりましたよ。

 じゃあ聞きましょう。

 それでまた書こうと思えるかは解りませんけど」


 じわ


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!

 聞いてよ聞いてよぉっ!

 AさんもBさんもCさんもそれまでは色々言ってくれてたのに急に何も言わなくなってさぁっ!

 酷いと思わんっ!?」


「えっ……

 えぇ……

 まぁそれは……」


 また泣いてる。

 この人はいちいち涙を流さないと主張できないのか。


「でしょでしょぉっ!?

 本当に急にだよぉっ!?

 三人共誕生日プレゼントに作品書いてあげたりとかしたのにさぁっ!?」


「へぇ……

 どんなの書いたんですか?」


「……えっとねぇ、Aさんはドラペンが好きだって言うからAさんとドラペンの物語を。

 ベックも出て来る結構面白い作品だったんだよ?

 んでBさんはルンルが好きだって言うから蓮とルンルとBさんの物語を。

 これはバトルシーンとか歌うシーンとかがお気に入り。

 んでCさんが困ったんだよ。

 杏奈が好きだって言うんだよ?」


 何かつらつらと知ってる人が少ない単語が出て来ているぞ。

 この人が作者って言うのって…………


 ひょっとしてマジ?


「杏奈って……

 あの杏奈ですか……?

 名児耶杏奈みょうじやあんな


「うん、そう」


 あっけらかんと答えるマサラ。


 あぁ、なるほど。

 僕とかと協力して杏奈を倒すとかかな?


「好きだって言うもんだから敵側で出せないし結構苦労したんよ?

 あ、ちなみに杏奈の話には少し成長した君達三人も出てるよエヘン」


 ……一体どんな話なんだろう……

 内容が気になる。


「…………それで贈ってどうだったんですか?」


「喜ばれはしたよ。

 まあテキストだけだから真意はわからんけどね…………

 いや、多分社交辞令だったんだ…………

 くれるから貰う程度のものでしか無かったんだ…………

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!」


 また泣き出した。

 泣き上戸なのかな?


「ちょ……

 ちょっと待って下さい。

 何でそう思うんですか?

 仲が良いんじゃ無いんですか?」


 そう言うと首を弱弱しく振るマサラ。


「ううん……

 急に何も言わなくなってその空気に耐えられなくなって縁を切った……

 んでその後からカウントに変化が無いから多分読むのも辞めてると思う……

 うっ……

 うっ……」


 あちゃあ。

 何とも言えないなあ。


 テキストだけって事はネットのチャットとかSNSでの関係って事かな?


「えっと……

 まぁお察しはしますけれどもあくまでもネットだけの関係ですよね?

 相手側の事情とか状況とかも見えない。

 何か生活が急変して忙しくなったのかも知れないじゃ無いですか?」


「…………それはそうだけどぉ~~……

 けど面白かったの五文字……

 いや、読んだの三文字が打てない程忙しいなんて有り得るぅ……?

 ……グビィッ!」


 そう言って再びビールを飲むマサラ。


 また面白いって言ってる。

 もしかして面白くないって選択肢は無いのかな?


 そもそも必ず読んでるが前程だ。

 それもおかしい。


「えっと……

 マサラ……

 ちょっと言いにくいんだけど……

 そもそも必ず読むって発想が少し違うのかも知れませんよ?

 僕なんかは優先順位としてまずアニメでその次に特撮かマンガと来るので小説はその後ですよ?

 それに小説も自分が継続して買ってる物をそりゃ優先しますから……

 多分マサラの小説はその後辺りなんじゃ……」


 ガーーンッ!


 そんな音が聞こえそうな表情をしている。


「……いや……

 そりゃオイちゃんもオタクだからぁ~……

 解るけどもっ!

 解るけどもヨォォォっ!

 オイちゃんと友達じゃ無かったのかよォォ……

 グスッ……

 オイちゃんの方を優先してくれても良いじゃんかぁ~~……」


 あ、それは何か違う。


「ちょっと待って下さい。

 友達だから優先するって言うのはいわゆる社交辞令なんじゃないですか?

 さっきマサラは社交辞令だって嘆いてましたよね?

 それって作品の面白さを見てくれてないって事を言いたかったんですよね?

 なのにいざ読まれる側だと社交辞令に頼るってのはおかしくないですか?」


「う…………」


 あ、やば。

 言い過ぎた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!

 じゃあどうしろってんだよぉぉぉぉぉっっ!」


 駄目だ。

 手が付けられん。


 僕の前で突っ伏して大号泣をかます初老に足を突っ込んだ男性。


「え……

 えっとぉ~……

 それじゃあ今は誰が読んでるか解らない状態って事ですか?」


 フルフル


 これも首を横に振る。


「ううん…………

 一人だけ……

 Jさんって人は読んでくれてるっぽい……」


 ぽいって何だ。

 ぽいって。


「じゃあ今は毎回投稿するとカウントが1増えるだけですか?」


 首を横に振る。


「ううん…………

 多い時は百ぐらい増える時もあるよ……」


 じゃあそれでいいじゃないか。


「じゃあそれで良くないですか?

 僕、思うんですけどそんなに感想って重要ですかね?

 書きたいもん書いてたらそれで良い気もしますけど……」


 くわっ!


 僕の言葉を聞いたマサラの雰囲気が変わった。


「重要に決まってんだろぉぉぉぉぉっっ!

 感想が重要じゃ無けりゃあ祝いの席とかで述べる祝辞とかも全く重要じゃないってなるだろぉぉぉぉっっ!

 確かにあぁ言うのは適当に誰かが書いたものを読んでるって場合もあるけど、卒業生に贈る祝辞として一生懸命感想と願いをしたためて来ている人もいるんだよぉぉぉぉっっ!

 別にオイちゃんはそんな長々とした感想が欲しい訳じゃ無いっ!

 ただ言葉が欲しいだけなんだよぉっ!

 言葉と言うのは意思の疎通だぁっ!

 読んだってたったっ!

 ほんの三文字送るだけでも読んだって意志は相手に伝わるんだヨォォォッッ!

 それで良いんだよ……

 それだけ……

 たったそれだけを望む事が……

 たった三文字の言葉を欲しがるオイちゃんがそんなに強欲ですか……?

 他人の生活を脅かす程強欲って言うのかヨォォォォッッ!

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!」


 何かスイッチが入っちゃったみたいだ。


 何となく言いたい事は解らなくは無いけど祝辞とかって社交辞令の様な気がする。

 いい意味でのね。


 生徒と教師。

 社長と社員。


 その関係があって初めて成り立つ様な気がする。

 けど、これだけ泣くって事は相当溜まってたんだなあ。


 何か気が晴れそうな楽しい話は出来ないものか。


「うっ……

 うっ……」


 あ、そうだ。

 効き目があるか解らないし、話じゃ無いけど。


「おーい、暮葉ーっ!

 ガレアーっ!

 ちょっとこっち来てーっ!」


 僕は遠く離れた二人を呼びつけた。


「お話終わったの……

 ってまだこの人、泣いてるよ?」


 暮葉の細くて白い指先が下で泣いているマサラを指差す。


「あのね暮葉。

 僕が泣いてる時に歌ってくれた歌を歌って欲しいんだ。

 どうにもこの人、ものすんごく沈んじゃってるみたいだから」


「別に良いけど……

 じゃあ」


 ♪~~


 暮葉が歌う。


 か細く高い。

 まるで一本の絹糸の様な声で。


 その絹糸は優しく僕の耳孔に滑り込んで心を癒して行く。

 何て癒しなんだ。


 僕がかつてドラゴンエラーの罪に沈み切った時に歌ってくれた子守唄。

 いつしかマサラの泣き声も止んでいる。


「……どう?

 マサラ?

 落ち着いた?」


 ムクリ


 ゆっくりと身体を起こすマサラ。


「……こんな歌やったんや……

 これって竜司が結婚しよって言った時に歌ったやつ?」


 ボッ


 両頬が熱くなるのを感じる。

 何でこんな見ず知らずの中年がその事を知ってるんだ。


「うん、そうよ。

 でもこれってCDとかで無い筈だけど何で貴方知ってるの?」


「だからさっきも言うたやろ?

 オイちゃんは君らの作者やて。

 暮葉と出会う前の頃。

 何やったら竜司とガレアが出会う頃から全部知っとんの」


「????

 よくわかんない」


「フフフ。

 暮葉のキョトン顔ってこんななんかぁ……

 こら可愛いわ」


 今まで知ってる人が少ないワードがポンポン出て来ている。

 それにあのプロポーズの時はガレアすら居なかった。


 僕と暮葉の二人きり。

 そしてキャラ設定だなんだとまるで近親者の様な口ぶり。


「……えっと……

 マサラ……?

 じゃあ貴方は僕らからしたらいわゆる神様って事……?」


「ウォッホンッ!

 そうじゃよフォフォフォ……

 って威厳出したい所やけどな……

 あんだけ号泣して醜態晒してもたらもう無理やって言うのは解っとるわ。

 オイちゃんの事はしまぶーみたいなもんやと思ってて。

 竜司君、知っとるやろ?

 世紀末リーダー伝たけし」


 知ってる。

 昔、週刊フライで連載されてた漫画だ。


 しまぶーって言うのは劇中で登場する作者の事。

 何かマンガのキャラに弄られていた様な。


 ……しまぶーねぇ……

 マサラは何かニンマリ笑いながら僕らを眺めている。


「……で、マサラーさん。

 僕らが物語上のキャラクターって言う話はにわかに信じ難いんですが……」


「語尾伸ばすなや。

 しまぶーみたいなもんや言うて何で取り入れたエッセンスが伸ばし棒やねん。

 扱いをしまぶーみたいな感じで良い言うてるだけやろ」


「あ、すいません……

 じゃ……

 じゃあマサラさん……

 何か証と言うか本人しか知らない様な事って言えたりします?」


「なるほどなるほど。

 さっすがオイちゃんが長年愛してる主人公。

 慎重且つ的確な質問やね。

 ほんじゃあねぇ……

 あの暮葉ちゃんとちょこっと仲良くなって警備した時あったやろ?

 んで最初はガレアに乗って並走しとったけど途中からワンボックスに乗ったやん?」


 確かそんなのあったな。


 暮葉が一日署長の仕事で県中を回った。

 懐かしい。


「そう言えばそんな事あったっけー。

 で、何でこの人がそれを知ってるの?」


 暮葉も会話に加わった。

 そう、そこだ。


「そん時、竜司くん途中で真っ青になって緊急下車したやろ?」


「そうそう、竜司ってば急に顔が青くなって外に飛び出して行ったのよね。

 確か乗り物酔いとかで。

 それでマスさんから減点されたんだっけキャハハ」


 ホントは違うんだけどな。


「そう、帰って来た竜司君は乗り物に酔うた言うてたけどホントは違うんよな。

 その頃はまだドラゴンエラーのトラウマが払拭で来てへんからコンビニのトイレで吐いたんよな。

 二回」


 !!?


「えっ!?

 そうなのっ!?」


 暮葉が驚いている。

 うん、合ってる。


 この事は元にも蓮にも話してない。

 もちろんガレアや暮葉にだって。


「…………うん……」


 驚きやら恥ずかしさやら色々な感情が膨れ上がって気持ちを圧迫して何か沈んで来る。


「そうなんだ…………」


 暮葉もションボリしちゃった。


 パァンッッ!


 と、ここでマサラが勢いよく柏手を打った。


「はいっ!

 これでオイちゃんが作者言うのは解ったやろ?

 ここで一つ、君らの名前の由来的な部分を話したろか。

 まずすめらぎ竜司りゅうじくん。

 ドラゴンの作品なんやから絶対竜って文字は入れたかったんよ。

 んで難しい方の龍じゃ無しに簡単な竜にしたんも理由があってねぇ。

 こっちの龍やと何かタツノオトシゴみたいな感じやし何か絵的にゴリゴリしてるから簡単な竜にしたんよ。

 んで竜と男の子の旅物語ってのも決まってたから竜を司る子って事で竜司。

 確か源蔵さんも同じ理由で付けたんとちゃう?」


「は……

 はい、そう……

 聞いてます……」


 合ってる。

 やはりこの人の言う事に間違いは無い。


「んで皇って苗字は家が竜河岸の家系ってのも決めてたからスペシャルなカッコええ苗字にしよ思てすめらぎにした。

 蓋開けたらエラい厨二臭くなったけど長年書いてたらもう慣れたわアハハ」


 もう良い。

 この人の言ってる事は多分真実なのだろう。


 信用する。

 ……信用するとなると色々聞きたい事が出て来るぞ。


「んで天華暮葉あましろくれはちゃん。

 実は君の名前を考えたんオイちゃんやないねん。

 前におったグルの子が考えてくれたんよ。

 華をしろって読む珍しさと語感が気に入って即採用したわ。

 あ、でも竜の名前のアルビノって言うのはオイちゃんが考えたで」


「ん?

 ん?

 何言ってるのこの人。

 私の名前考えたのマス枝さんよ」


 暮葉はやはり状況が解ってない。


「暮葉……

 確かにそうなんだけど……」


「えーてえーて竜司くん。

 その部分をこの子に説明したら長なる。

 んで暮葉ちゃんの反応も織り込み済みで話しとんねや。

 んで最後ガレア。

 本名のガ・レルルー・アって言うのは正直な所、適当です。

 なーんも考えてません」


 ズル


 僕はずっこけた。


「おう、昭和アニメみたいな古典ツッコミありがとうね」


【ん?

 何でコイツ、俺の名前知ってんだ?】


「…………えっと……

 後で説明するね」


「うんうん、それが正解やね竜司くん。

 …………いや、ガレアって時々めっちゃ鋭い事あるから案外ツーカーで理解したりして」


「……そ……

 そんな所まで知ってるんですか……?」


「そりゃオイちゃん作者やもん。

 あ、でも竜の名前言うぐらいやからめっちゃ訳解らん名前にしよかなとは思ってた。

 んでガレアって名前も直感で。

 竜司くんにはめっちゃ名前叫んでもらおって思ってたからな。

 そこら辺も関係してんのかもな。

 んで書き出してから白猫プロジェクト……

 あ、君らの世界やったら白犬ミッションか。

 それに同名のキャラが出てる事を知ると言うね」


「あ、それ居ました。

 時々使ってますよ。

 あのソシャゲ、結構コラボが多くて面白いんですよね」


「へぇ……

 リッチーと仲良くなる為に書いただけやのに外でちゃんとやってたんや。

 何か驚き」


 リッチーさんの名前まで出て来た。


 受け入れ難いけどこの人が言ってる事は正しい。

 この人が僕らの世界を創ってくれたんだ。


「………………マサラさんに少しお伺いしたい事があります……」


「ん?

 何?」


「…………ウチの父さん……

 何であぁなんですか……?」


「あぁ~~……

 そこ触れちゃう?

 そこ行っちゃう?

 すめらぎ滋竜しりゅうさんね……

 えっとねぇ……

 書き始めた段階から竜司君の家族は出そうって考えてたんよ。

 んで父親は船長にしようとも。

 もともと妄想絵に巨大タンカーが航行してる隣で並走する巨大海竜ってのがあったから形にしよ思てね。

 いや、ホンマにスマン。

 書いてる本人もまさかあんなド変態になるとは思って無かった」


「……あれ変態の域を超えてますよ……

 もうただの奇人じゃないですか……」


「いやね……

 何であぁなったか言うたらね……

 そん時リケコイ……

 あ、君らの時代やったらまだやってないか。

 そん時みてたアニメで普段は物腰柔らかいのにふとした拍子にムッキムキになる先生ってキャラがおってね。

 それがおもろくてちょっと取り入れた。

 んでムキついとるって事はちょっとホモッ気もあるやろって事で書き始めたらあぁなった」


「あぁなったじゃないでしょーっ!

 アンタ人の親を何だと思ってるんですかーっ!」


「うお、竜司君の大声ツッコミってこんな感じなんや。

 まま、そんな青筋立てんでもええやんねん。

 最初はネモ船長みたいな凛々しい感じの父親ってボンヤリ考えてたんやけどね。

 いざ!

 さぁと動かしてみたらめっちゃおもろいキャラに仕上がった。

 あい、スマン」


 開いた口が塞がらない。


「……多分全国の14歳全員に聞いたらみんなネモ船長の方がいいって言いますよ……」


「そらね。

 みんな自分のチ〇コを息子に押し付ける父親なんて嫌やろからな。

 父親の息子が息子と密着。

 ある種感動の再会。

 バラ珍的な。

 紳助兄やんの出番やわアハハ」


 ……何かムカついて来た。

 やはり一発殴った方が良いんじゃないのか……?


「あぁっ!?

 ゴメンゴメンっ!

 ちょっと調子に乗り過ぎたっ!

 謝るっ!

 謝るからっ!

 その握った拳を降ろしてーなぁっ!?

 そない言うけどやね。

 君のお父さんの滋竜さん。

 間違いなく登場キャラの中やったら最強クラスよ?

 多分、お兄ちゃんの豪輝でも勝たれへんのとちゃうかな?

 お父さんのスキル、大渦潮メイルストロームやったら大抵の物理攻撃は効かんしね。

 そんな最強の親を持つって何か誇らしく思わへん?

 んできちんと親らしく君の事考えてる所もあるんよ?」


「…………まあそりゃ……

 そうですけど……」


 確かに。

 父さんは海だと最強だろう。


 お爺ちゃんでも勝てるかどうか。

 父親が最強って言うのは少し嬉しいかも知れない。


「……まぁ確かに行き過ぎた愛情なのか突き抜けた性欲なのか解らんけど息子の前やろうと関係無しに脱いで凸しよるけどな……」


 駄目だ。

 やっぱり嫌だ。


「……で、あの奇妙な体質は何なんですか?

 海から離れるとガリッガリになるってやつ」


「何や竜司くん。

 せっかく作者に会えたのに聞く事お父さんの事、ばっかりやないかい。

 ははーん、何だかんだ言うてお父さんの事好きやな自分」


「…………好き二割……

 嫌悪八割って所ですね……」


「嫌い多っ!

 んで嫌悪て何やねん嫌悪て。

 嫌いでええやんか。

 わざわざ悪の字足さんでも。

 う~ん、何やろ?

 あの訳解らん体質は結構オイちゃんの中で結構よく出来てるって思ててね。

 滋竜さんの受動技能パッシブスキル遠隔吸引リモート・サクションで常にバキラからの魔力が流れ込んで来るから虚弱って言うの」


「どこが良く出来てるんですか……

 どこの世界に潮の香りを嗅いだら筋肉が超肥大する人間がいるんです……?」


「そこはそれ。

 物語やん。

 そう言うトコが面白いんやん」


「ハァ……

 そんな肉親を持つ身にもなって下さいよ……」


「ゴメン。

 ゴメンて。

 んで話の途中で悪いけどな……

 何か断絶したウザい空間ブレイクオフ・ボザースペースが解けそうやわ」


 突然。


「えぇっ!?

 また急ですね。

 もう鬱憤は晴れたんですか?」


「何かようわからんけど、竜司くんと話してたら晴れたっぽい。

 エラいお騒がせしました」


「……全くですよ……

 それでこれからどうするんです?」


「もちろん書くよ。

 君らの物語を書き続ける。

 オイちゃんには君らを産んだ責任ってのがあるからね。

 きちんとドラゴンフライは最後まで書いて見せる」


「へぇ……

 そんなタイトルだったんですね……

 ……知ってます?

 ドラゴンフライってトンボって意味ですよ?」


「おう、さすが大検合格者。

 もちろん知ってるよ。

 んでもこの物語は竜司くんがガレアに乗って現代日本を飛び交うって妄想絵から生まれてんのよ。

 ドラゴン飛ぶフライ

 だからドラゴンフライ」


「…………何かすんごい安直ですね……」


「シンプルと言いたまえ。

 じゃあそろそろスキルは解除されるから。

 今日はオッサンの愚痴に付き合ってくれてありがとうね」


「い……

 いえいえ。

 僕も何か貴重な体験でした」


「多分、これからも孤独なレースは続くと思う。

 またオイちゃんが凹んだらスキル発動するかも知れんからそん時はよろ」


「タハハ……」


「おー、竜司くんの生タハハ。

 頂きましたー」


 ズアァァァァッッ!


 再び辺りを濃霧が立ち込め、そして霧散して行く。

 気が付くと僕らは元の路地に立っていた。


 マサラも居なくなっている。

 まるで散った霧の中に溶け込んだ様に。


【あれ?

 また狭いトコだぞ?】


「あれ?

 ここってさっきの場所じゃない?

 あの人、何処行ったの?」


 二人共キョトン顔になってる。


 そりゃそうだ。

 僕もキョトン顔になりそうな体験だった。


「さぁ?

 言いたい事言えたからどっかに行ったんじゃない?

 それよりも僕らも行こう。

 腹ペコだよ」


「あっそうだったっ。

 んふふ~~、どれぐらい辛いのかなぁ?」


【何だメシ食いに行くのか。

 そうならそうと早く言いやがれ】


 それにしても何とも不思議な体験。

 でもあのマサラって人が言ってる事に間違いは無かった。


 それじゃあやっぱり僕がいるこの世界は小説と言う虚構って事?


 …………いや、考えるのはやめとこう。

 もし仮にそうだったとしても僕らに出来る事は無さそうだし。


 僕らが息をして生きている事には変わりないんだし。


 多分僕らに出来る事とするならマサラが頑張ってドラゴンフライ……

 だっけ?


 その物語を書き切ってくれる様に祈る事ぐらいだ。


 ぐう


 腹の虫も鳴っている。

 とりあえず僕らは中華料理屋を目指す事にした。



 …………もう遭う事は無いよな…………?



 完?

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欄外:孤独な作者が忌々しき考えに想いを巡らし追い詰められた結果 マサラ @masara39

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