見栄張る僕はあの頃のまま
かじゅぎんが
第1話
僕がドラゴンボールを7つ集めたり、魔法のランプを擦ったりとかして、なんでも好きな物を貰えるなら、迷うことなくあの日、あの場所で捨てたキットカットの袋を欲しがるだろう。
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バレンタインデーが夏の行事だったら、今のようには流行んないだろう。だって、好きな人に渡す前にチョコが溶けてしまうから。夏ならそうだなぁ、アイスの方が貰って嬉しいかな。あ、アイスも溶けるんだった。
そんな事を2月14日の、チョコのような甘い雰囲気の教室の中で考えていた。教室の前の方では、甘い雰囲気とは無縁な、禿げ散らかした頭の古典教師が授業をしていた。
最前列の生徒以外は、彼の話などは聞かず周りの友達と、今日のこのイベントについて喋っている。
「なあなあお前いくつ貰ったん」
前の席の田島が聞いてきた。
「いくつってなんのこと」
「とぼけんなって。どう考えたってチョコの事だろー。今日 の日付見たんか?」
「あーはいはい。3つだよ」
とっさに僕は嘘をついてしまった。本当はお母さんのスーパーのチョコと、幼なじみの久保から貰ったキットカットの2つなのに。
久保とは幼稚園、小学校、中学校と一緒で自分の数少ない女友達だ。久保からは毎年チロルチョコを貰っていたが、今年はキットカットだった。
朝のホームルームが終わった時、トイレに行こうとドアを開けた僕に久保は声をかけてキットカットを渡してくれた。
久保に今年だけキットカットだった理由を聞いたけど、高校生だからレベルアップしたんだよーとか言ってたな。
僕はその場でそれを食べて、袋を近くのゴミ箱に捨てた。捨てた後、僕は久保にお礼を言った。味はいつも食べてる甘いキットカットだった。
田島に答えた後ににそんな出来事を思い出した。僕が答えた時、田島の隣の席の久保の耳がピクッってした気がした。ほんの少し。
「お前意外と貰ってるんだな」
「まえね。田島は?」
「俺は1個。久保さんありがとねー」
そう言って田島は久保の方を見ながら微笑んだ。久保も田島を見て微笑んだ。田島の手の中にはチロルチョコが入ってる。
あぁ久保はみんなに配ってるんだ、と僕は思った。
久保の方を見ても彼女は僕には目を合わさず、田島の方を見ていた。さっき食べたキットカットの苦みが今になって口の中に広がった。キットカットってこんなに苦かったっけ、当時の僕はそう感じた。
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その後の高校生活はあっという間に過ぎた。あんなに中学校の時勉強が嫌いだったのに、高3は勉強しかしていなかった。勉強をしていると他の事を考えなくてすんだ。
大学生に入って彼女もできたけど、社会人になって安定してきた今、彼女の顔を思い返しても頭に浮かんでこない。そんな学生時代を過ごした。
今日、8年ぶりに田島に会いに行く。久保と結婚した田島だ。今はもう嫉妬する気持ちはない。
待ち合わせのバーに着いて、ドアをゆっくりと開けた。カウンターの奥の方の席に田島は座っていた。ゆっくりとドアを開け、中に入ると田島は僕に気が付きてを振った。
「やあ久しぶり」
田島は髪型は高校時代と変わっているが、雰囲気は変わっていない気がした。
「田島お前変わってないな」
「そうか?皆には変わったって言われるけどな。俺はお前も変わってなく見えるね」
変わらない田島の喋り方を聞いて僕は高校のクラスの雰囲気を思い出した。
「なぁお前もう結婚はしたのか」
早速田島は聞いてきた。いつかは聞かれると思ったけど、早すぎて僕は顔がビクッと震えた。
「いや、まだしてない」
「そうか、まあ頑張れ」
「ああ、頑張るよ。そういえば、高校を卒業する時、お前と久保さんが付き合ってるって聞いた時は驚いたよ。意外な二人だからね」
僕は大人になっても嘘をついてしまう。本当はあの時から薄々気づいてたんだ、二人の関係に。でも見たくなかった、知りたくなかった。
「あぁ、当時は黙ってて悪かったよ。うちの嫁がお前には言わないで欲しいって言っててさー」
「そうなんだ。」
「高校を卒業する前のバレンタインデーの時、久保さんがキットカットをくれたんだ。」
「キットカット?」
「そう。その前の年のバレンタインデーはチロルチョコだったのに」
「ふーん」
僕の心臓の鼓動が高まった。
「で、そのキットカットの袋の裏にメッセージが書いてあったんだよ、『好きです』って」
その後の田島との会話は覚えていない。きっと僕は田島の話に愛髄を打っていただけだと思う。
僕があの時、チョコを貰った個数を、きちんと嘘をつかず
一つと答えていれば未来は変わったのだろうか。
そんなことは今となってはもう分からないが、一つだけ分かることがある。
僕は久保のことを一生忘れられない
見栄張る僕はあの頃のまま かじゅぎんが @kajiyukiya
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