最終話 目が覚めると

 目が覚めると、ベッドの上だった。

 シーリャが買ってくれた、マコトのベッドである。


「起きたか。いきなり倒れたものだから、心配したぞ」


 脇に座っていたハッサが、安堵したように目じりを下げた。


「あれ、僕……シーリャさんは……あっ、包丁!?」

「落ち着け落ち着け」


 飛び上がったマコトを、ハッサは太い腕で抑えると、順を追って説明してくれた。

 なんでも、包丁を研ぎ終えるなり、マコトは疲れて眠り込んでしまったらしい。その間に時間が来たので、シーリャはコンクールへと向かい、ハッサはこうして看病してくれていたというわけだ。


「商人の目から言わせてもらうが、あの包丁は確かにすごかった。あれなら、きっとコンクールでも負けなしだろう」

「そっか……僕、ちゃんと研げたんだ。……シーリャさん、今どうしてるだろ?」

「さて、そろそろ結果発表されててもいい頃合いだが……」


 話していると、家の外からけたたましい足音が近づいてきた。

 ドガン! と爆弾みたいにドアが蹴り破られて、身構えたハッサは相手の正体に気づいて脱力する。


「なんだ、シーリャか。驚かせるな、強盗かと思ったぞ」


 飛び込んできたシーリャは苦情など聞きもしないで、ベッドに横たわるマコトへと突撃した。


「ウサギ! ありがとう、ありがとう!! ぜんぶアンタのおかげだよ!!」

「むぎゅ!?」

「優勝だよ! 優勝だって! アタシの包丁が一番だって言ってもらえた! 他の誰よりも、真っ先に呪いを解いてもらえるんだって! アハハハハハ!! なんてステキなんだろう。ウサギに研いでもらって、本当に良かった!!」

「やれやれ。これは、俺も礼を言わないといけないな。俺のミスでシーリャが落選するようなことがなくて、助かったよ」

「むっ、ぐぐぐ!」


 マコトを胸に抱き潰し、シーリャは大騒ぎしながら家の中を踊りまわる。台風みたいな勢いに、マコトは目を白黒させることしかできない。

 ハッサは賑やかな二人を眺めながら胸を撫で下ろして、飲みもしないで放っておいたお茶を一息に飲み干したのだった。


【END】

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少年研ぎ師ウサギと呪いのサビつき 黒姫小旅 @kurohime_otabi

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