エピローグ

 温かな海水に包まれながら、今日もカメラを構えている。目の前には、色とりどりの珊瑚、海藻、そしてお魚さん達。相変わらず、私を快く出迎えてくれているようだった。


 一枚、また一枚とシャッターを切る。最高の一瞬を逃さぬよう、海の中でバランスを取りながら……。あぁ、現像するのが楽しみだな、なんてことを考えながら。


 この仕事を続ける内、一度の呼吸で潜れる時間は随分と長くなった。相当肺が鍛えられたのだと思う。だが、やはりいつかは限界が訪れるわけで……。名残惜しく思いつつ、海面を目指すことにした。



「――ぷはっ」


 大きく息を吸い、酸素を取り込む。暖かな日差しと心地よい潮風が、私を出迎えてくれていた。さてと、じゃあ撮れた写真の確認を――。


「カイリ〜、助けてー!!」


 バシャバシャと水を弾く騒音と共に、叫び声が聞こえた。見ると、単独で海を漂う浮き輪の傍で、ゴポゴポと海水を飲みながら踠いているユキの姿があった。


 私は慌てて彼女の元へ近寄り、近くにあった浮き輪を持たせてあげる。


「もう。浮き輪は絶対に話さないでって、言ったでしょ!?」


 はぁはぁと息を弾ませるユキに向け、私は言った。


「えへへ、ごめんごめん。早くカイリの隣で泳げるようになりたくて、つい離しちゃった」


 苦笑いをしながら、ぺろっと舌を出すユキ。……この子は、全く。考えなしに行動する所は、ちっとも変わっていないんだから。


「あ〜あ、せっかく海水の温度に慣れたのになー。まさか泳ぐことが、こんなにも難しいなんてなー」


 ユキは浮き輪にしがみついたまま、大きなため息をついた。


「ゆっくり、少しずつ慣れていけば良いから。私達には、時間がたっぷりある……そうでしょ?」


 銀色の髪を優しく撫でる。その手を取り、ユキは柔らかく微笑んだ。


「ふふっ、そうだね。……じっくりと、優しく教えてね、カイリ」


 繋いだ手から、ユキの体温が染み込む。目と目が合い、見つめあった私達。互いに吸い込まれるように、そっと唇を近づけた。


 うん。何度でも、どんなことでも教えるから。私の今まで、そしてこれからは、全部ユキの物だよ。だってそれが――。




 常夏の島で育った私が、雪のように冷たい君へ贈るプレゼントだから。

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常夏の冷たい君へ 小夏てねか @teneka-0525

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