第12話 2024年4月29日
今日、俺は実家に戻り、父母、そして滅多に会わない兄、父方の祖母、そしてあんまり賢くはないし見目良くもないが噛み付くこともないトイプードルと会ってきた。
今年の2月、母方の祖母が身罷ったことを受け、父母から親族の情報や各々が持つ資産の総額や明細について父から説明を受けたのだ。父はもともと某保険会社の経理部長を務めるような人間であり、この手のことについては並みの税理士より詳しい。事実、この3年で母方の祖父母が亡くなっているが、我が親父殿は依頼した税理士の誤りを指摘したり税務署との長期的なやりとりを見据えた資料作成などに勤しんでいたようだ。親父がボケていないというのは何よりだ。そして、無能ではない奴が俺の上の世代にいる。それもまた俺の緊張感を高らしめ、ひいては俺を成長せしめるだろう。俺は、実年齢はともかく、いまだ若年世代のつもりでいるのだ。上が良い重石なら、俺も緊張感を持ってそれなりの成果を絞り出すであろう。どこかで誰かが俺を叩きのめして、俺が若くはないのだと思い知らせてくれるまで、それは続く。誰か、俺に俺は若くはないのだと教えてくれ。
とにかく、父と兄、加えて俺は企業の経理マンである。帳簿やら税制やらについては余人に比してうるさい野郎が3人も集まって、親族の通帳やら諸口座の出入金明細などを並べて、資産や所得の確認など面倒なことをやったのであった。
俺はこの2〜3年ほど、うつ病ということで休職していたのであったが、そのキャリア上のやらかし分を割り引いても、我が父兄の経理マンとしての腕前に恐れ入ったた。彼らは優秀だ。俺はそれほどでもない。実際的に、俺の血縁者の死ぬ順番など神ならぬ人の身にはわかりかねないが、まあ父か兄か、どっちかが先に死んでも生き残った方がなんとかするだろう。一方俺はと言えば、俺が先に死ねば面倒ごとから解放され、後に死んでも父か兄がなんとかするだろうという塩梅だ。いずれにせよ、俺の経理マンとしての出来は良くない方だな。とにかく、そういう相続やらその税がどうのこうのという話をしていた日であった。
ところで、まあ、あんまり書きたい話ではないのだが、記しておこうと思う。
実家に戻って、俺は家族の老いぼれぶりに動揺したのだ。親父の白髪は多くなり、お袋は蹴躓きやすくなっていた。ちょっと椅子から立ち上がるだけであたふたしていたのだ。また、父方の祖母は、俺の知っている姿よりだいぶ体を悪くしているようだった。さらに、俺自身もかつてはスポーツ青年であったが、今や醜く腹が膨れている。
今、2024年4月29日の21:30に思うことであるが、この先に楽しいことはなさそうだ。遺産を相続する目途はある。そうそう簡単に親父たちがくたばるとは思わないが、その遺産によってまあ俺自身の人生はどうにかこうにかやりおおせるだろうとも見積もることができる。また、復職後はしっかり働き、俺自身もキャリアを積み上げるつもりである。しかし、父母、兄、そして俺が、老いぼれていくこともまた確かな未来ではある。どうなるかな。どうもならないかもしれんな。親父は、兄貴と俺のために頑張って働いて給料を得て資産形成をし、遺産を残したいのだそうだ。親の思いというのも重いものだな。俺はその思いに値するのだろうか?また、今、俺にはそんなことを思える相手はいないから、親や俺の資産を引き継ぐ相手もおらん。受け継いで、俺がパァッと騒いで終わりかもしれん。馬鹿げている。
なんとか俺の人生に価値を与えたいものだ。そうしてこそ、父母の思いに応えることができるのだという気がする。
日記 水場亭田螺 @MizubateiTanishi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。日記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
黒騎士日記最新/有原ハリアー
★96 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2,466話
2024年アニメ映画評新作/@Kan_Itoga
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2話
白い珊瑚礁新作/怪畏腹 霊璽
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます