第24話
「いやぁ、ひさびさに死ぬかと思った☆ あぶねぃあぶねぃ♪」
「も~、みんな油断しすぎだよ~」
「ハナだってあっさり捕まってたじゃない……」
……思わず鼻で笑ってしまう。
踏み潰されたことなど気にもとめず、泥まみれのまま談笑する少女たち。
その後ろ姿があまりに頼もしくて。こいつら一体どうやったら死ぬんだと、俺は驚きを通り越して呆れて果てる。
俺の気配に気付いたのか、はたとこちらに振り向く赤髪ギャル。
そうして地面に転がる俺の姿を目にとめると、ニカッと小気味よく破顔した。
「おっす、マウスてんてー☆ さっきは助けてくれてありがとねーっ♪」
(……ふん。言っておくが、お前たちのためじゃないぞ。あのままじゃ全滅しちまうから仕方なく──)
「あはは! ツンデレじゃん☆ ウケる♪」
(デレてねえわ!)
反射的に益体もないツッコミを入れる。赤髪ギャルに続き、やり取りに気付いた黒金ギャルもひらひらと手を振ってきた。その間にもドラゴンゾンビは容赦なく距離を詰めてくる。
「マウスくんなんだって~?」
「〝俺はもうここまでだ、愛してるぜマイハニー……〟だって☆」
「絶対嘘じゃん」
(おいぃぃぃぃ! 前見ろ前ェェェッ!)
動けない俺は心の声を飛ばす以外に術がない。
助走を付けたドラゴンゾンビが、隙だらけのギャル共に前腕を振り下ろす。
過たぬ死の一撃は、今度こそギャル共の頭蓋を粉砕する──はずだった。
振り下ろされた巨大な腕が、ふっと俺の視界から消え失せる。
空振りし、失くした片腕を不思議そうに見つめるドラゴンゾンビ。数瞬遅れて断面から鮮やかな果汁が迸り、切り飛ばされた腕の先がギャル共の真横に突き立った。
……刹那に何が起きたのか、正確な答えはわからない。
ただ、ふわりと翻った赤髪ギャルのスカートと、高く上げられた眩しい脚が、目前の光景を生み出したことを物語っていた。
怒り狂ったドラゴンゾンビがけたたましい咆哮を上げる。
しかしギャル共は臆さない。それどころか不敵に笑い、紅い瞳をギラリと妖しく光らせた。
「……さて、やられた分はキッチリお返しさせてもらうわ」
「マウスくんはそこで見ててね~」
「いやっふぅぅぅぅ! ドラゴン狩りじゃぁああああああああいっ☆」
──そこから先の出来事は、もはや闘争と呼べるものではなかった。
振るった尻尾がはじけ飛び、突き立てた爪が砕け散る。広げた翼が一息の内に毟り取られ、見る見る内に龍の姿が解体されていく。武器を持たずともギャルゾンビの力は凄まじく、素手による蹂躙はむしろ凄惨さを際立たせた。
(あ、野菜の残党がギャル共に突っ込んで……あーあー、遊ばれちゃってまぁ)
劣勢のドラゴンゾンビに救わんと、踏み付けを生き延びた野菜ゾンビが特攻を敢行。しかし油断してないギャル共を捕らえることは叶わず、逆に伸ばしたツタを掴まれてぶんぶん振り回されていた。
(一時はどうなるかと思ったけど、もう大丈夫そうだな)
俺はおもむろに起き上がり、手近に転がっていたにんじんの破片を拾い上げる。瑞々しい果肉がふたたび動き出す気配はない。憎たらしい野菜ゾンビもこうなってしまえばカワイイものだった。
そうしてしばらく見つめていると、俺のお腹がくぅと短い悲鳴を上げた。
(……うーむ)
疲労困憊の身体は迅速な補給を所望している。
だが、俺の頭はこうなる前のセクシーにんじんを想像してしまい、このまま齧り付くことにいささか以上の躊躇いを覚える。そういえばこいつら、人間の股間っぽい部位もあったような──
(ま、考えてもしょうがないか)
押し寄せる空腹には抗えない。
俺はちいさく溜め息をつき、ええいままよとにんじんに齧り付いた。
(──あ、うまい)
思いきって咀嚼すると、優しい甘味が口いっぱいに広がる。噛み応えも抜群で、一度食べれば病み付きになる味だった。
食前の躊躇いも忘れてあっという間に食べ終える。──うん、気にしなければめちゃくちゃ美味いなコレ。思わず次の欠片にも手が伸びてしまう。食指が動くとはこのことか。
「あ~! マウスくんが先にお野菜食べてる~!」
「なんですと!? てんてーズルいぞー!」
「……まぁ、今日のMVPだしいいんじゃない?」
(ははは。キリキリ働けよギャル共)
「やっぱりあとで泣かそうかしら」
ちょっぴり悔しがるギャル共をよそに、手にしたにんじんをポリポリ囓る。
ギャル共の消化試合が終わるまで、俺ははじめての勝利の味を噛み締めていた。
終末はらぺこギャルゾンビwithモルモット ~人類滅んじったけど、食って笑って遊んでハシャげばこの世はすべてこともなし~ 八咫村ゆう @yatamura0846
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