マントヴァ候妃 イザベラ・デステの活躍を描いた伝記ですね。
いわゆる、イタリアのルネサンス期のお話と申しますと、伝わりやすいでしょうか。
伝記というと堅苦しいというイメージを持たれがちですが、こちらの作品はとても読みやすいです。私も当初、こちらの作品を伝記とは思わず、普通の物語として拝読しておりました。
そして気づけば、主役であるイザベラの生き様に心を掴まれておりました。彼女については私が語るよりも、実際に本文をお読みいただくのが一番かと思われます。
この作品は、イザベラ・デステという人物を知らない方にこそ、ぜひ読んでいただきたいですね。タイトルの意味がわかった時、私は涙が溢れました。
彼女という存在を知ることができたことは、私の人生において大きな糧となりました。
改めまして、この作品を執筆してくださった作者さまにお礼申しあげます。
そして最後に。
プリマドンナ・デルモンド――
マントヴァ候妃 イザベラ・デステ様に、心から感謝と敬礼を。
最初視た時は不可思議な印象な文学でした。
知識、文化の学びが完成されているのにも関わらず、未完成な文体に私自身少し戸惑いました。
しかし、先生が若りし日に描いた作品と判ると又異なる印象です。
今の先生であればより語彙力の高い文体で描けると感じます。
しかし、それはおいても一人の人物に対する熱意、未完成な文体だからこそ別の視点から美しい熱意を感じ取れる文学としてある意味完成されています。
歴史を学ぶ文学としてはとても良い文学です。
それ以上に若りしの先生の未完成な文体を誰かにみせる勇気は早々に真似出来るものではありません。
ここに先生の誠実さが感じ取れる文学です。
逆にこれから執筆を考えていらっしゃる方々にこそこの文学の熱情に燃えたぎる意志を感じ取って執筆を進めて頂きたいです。
それは私自身にも当てはまります。
私も福音主義的万物救済論の求道者として以前熱意をもって文章を描いていた日々を想い返しました。
一つのことを求める人間は強い。この文学はそのことを改めて感じ取れる文学でした。
この小説を読むまで、私はイザベラ・デステという女性を知りませんでした。
ところが、この女性の周りには、ルネッサンス期に有名な偉人達が、きら星のごとく登場します。自分が知っているところでは、
レオナルド・ダ・ビンチ、ルクレツィア・ボルジア(兄貴はあのチェーザレ・ボルジア)、ボルジア家(マキャベリに冷酷な統治者の例で紹介されちゃってます)、ティツィアーノ(イザベラの肖像画を描いた。メッチャ若く)など。
小説でも、様々な人物の行動が詳細に描かれています。
歴史および政治に興味のある方には、堪らない読み物となるはずです。
ルネッサンス期のイタリアに興味のある人は勿論のこと、この時期にイザベラのような素晴らしい女性の活躍があったことを知識の書棚に入れる上でも、一読をお勧めします。
ルネッサンス華やかなりし頃のイタリア、マントヴァに思いを馳せながら、エスプレッソを楽しむのも一興です。
ほんの少し歯車が狂えば、ひとつの国が滅び、諸侯は荒地に逐われる…
戦火の絶えない激動の季節に生まれ、翻弄された侯妃の視点から紡がれる壮大にして繊細な歴史のドラマです。
コンスタンティノープル陥落にメディチ家の覇権。中世の欧州は世界史でも多くの頁を割かれません。ましてや現在のイタリア北部に多数存在した小さな公国や侯国は埋もれてしまい、一般的な知識としては実に乏しい。
作者は、そうした時代の一人の女性にスポットを当てます。幼くして許嫁となり、若くして祖国を離れてマントヴァ侯国に嫁いだイザベラ。やんごとなく、誉高い才媛にして、優しく慈悲に満ちた女性。多感で涙脆いところは長所です。そして、誰よりも文化芸術をこよなく愛し、育もうとする。
しかし、激動期です。大国の思惑が交錯する中、小国は荒波に揉まれ、繰り返し、絶え間なく、存亡の危機に瀕します。故あって侯国の指揮を任されたイザベラは知恵を絞り、勇気を奮い、国安らかなことを祈って、立ち回ります。抗います。
あたかも聖女のよう。小さな瞳が見詰める大きな歴史のうねりが、この物語の横軸となります。
同時に、ルネッサンスの最盛期です。中盤、物語には正に世界史的な天才アーティストが色を添えます。ダヴィンチです。
彼が描いた『モナリザ』は、仏ルーブル美術館の所蔵品。イタリアが産んだ傑作が何故、隣国の国宝級絵画なのか? その疑問を解く鍵、往時の複雑な仏伊関係も、この作品では手を取るように理解できます。
でも、歴史解釈や講釈がメインではありません。小さな侯国を文化の咲き乱れる都にする…そんな主人公の逞しい意志が縦軸です。
ルーブルには同じダヴィンチ作の美人画が所蔵されています。タイトルは『イザベラ・デステの肖像』。そう、本作の主人公、イザベラ侯妃です。向きは違うけれど、豊かな髪や鼻筋、腕の組み方まで、あの傑作と同じ…
重みのある史実に、うっとりするような歴史ロマンも巧みに編み込まれ、読後感も爽やかな、丁寧で美しい作品に仕上げられています。
欧州の知られざる中世史に興味がある方も無い方も、きっと満足される、いわば万人向けの女性一代記です。