子ども木遣り唄 🍒
上月くるを
子ども木遣り唄 🍒
季節はずれの寒波が来たそうで、近い山並みの向こうの遠い山の頂は真っ白です。
早くも水が張られた田んぼに、青空や雲、畔のシダレヤナギの芽が映っています。
太陽をほぐして地上に撒いたようなタンポポ、白やピンクの芝桜、青いムスカリ、ひらひらに薄いツツジの花びら、一本の樹木に紅と白の花を咲かせるハナモモ……。
公民館前のシダレザクラの老木は満開を過ぎ、その横に並んだ人や猫のお地蔵さんの肩にほろほろと花屑を散らしていますが、咲き満ちているときよりもっときれい。
🌺
集合時間の十時少し前に着くと、もう二十人ぐらいの子どもたちが来ていました。
みんな父親か母親と一緒ですが、カンタロウのママは日曜日もシフトなので……。
出勤前に用意してくれた黄色い法被すがたのカンタロウはうしろの列に並びます。
前の列には真っ青な法被ばかり、そのように立ち位置が決まっているみたいです。
対面に並んだ青年団のおにいさんたちの号令で、木遣り唄の練習が始まりました。
今年はじめて祭りに参加するカンタロウはなにからなにまで知らないことばかり。
――オーイーヤーレテー、テーコーセー。
エーエ、イエー、ホーヤーアーネー。
でも、お空にいるパパのところまで届くよう、力いっぱい声を出して唄いました。
何度も繰り返すと、この土地を守っている神さまに近づくような気がして来ます。
🌞
その夕方、カンタロウはさくらホームにいるおばあちゃんに手紙を書きました。
SNSより手書きの文字や絵を、おばあちゃんはとてもよろこんでくれるのです。
🖊️
おばあちゃん、あれからお元気ですか? ぼくは四月から四年生になりました。
きょうは日曜日なので、公民館前の広場でお祭りに唄う木遣りを練習しました。
お祭り青年団のおにいさんたちに唄の節まわしや掛け声を教えてもらいました。
山から伐り出した木を鎮守さまの境内まで曳いてゆく、その景気づけの唄です。
ぼくたちの気合いの入れしだいで、大木が動いたり動かなかったりするのです。
なので、おおぜいで一緒になにかをすることが苦手なぼくも、がんばりました。
お腹から出すよう言われたのでやってみたら、自分でも驚くほど声が出ました。
新しい家が多いぼくの地域の法被は黄色ですが、古い集落の法被は真っ青です。
青い法被の子どもたちはどことなく得意そうですが、黄色だって負けていません。
ぼくは自分の生まれた土地を大切に思うので、正々堂々と木遣りを唄います。🎶
🔹🌨️ 🔹🌨️ 🔹🌨️ 🔹🌨️ 🔹🌨️ 🔹🌨️ 🔹🌨️
がんばれ !! カンタロウ👦 がんばれ !! ママ👩 by お空のパパ
子ども木遣り唄 🍒 上月くるを @kurutan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます