空地人と赤熊人とアニマ教徒

 ミリアは、魔法でエンボル工業国から、ボルドのいる村まで転移した。そのまま村の門まで移動しボルドに会った。

「ん?あんたクレアか?」

 ボルドは似ていると思って声をかけた。

「違う。私はミリアだ。アニマ教の死の使徒をしている。ここには、クレアという商人に頼まれて来た。ボルドと言う者に、この剣を渡すように言われている」

 ミリアはクレアだった時の愛想の良い態度ではなく、不愛想に無表情で淡々と話した。

(別人か……。本当に顔が似ているのだな黒樹人くろきびとは……)

 ボルドは何も疑わなかった。

「そうか、だが、受け取ることになっている武器と材質が違うようだが?」

「ああ、それは、ガドフという鍛冶師が、剣が折れたのは俺の技術が未熟だったからだ。今度こそ約束の剣を作った。代金は要らないから受け取って欲しいと言ったそうだ」

「そうか、ガドフ殿が……。?、どうやって1日で往復したんだ?エンボル工業国まで、歩きだと1ヶ月以上かかる距離だぞ!?」

「簡単な事だ。アニマ教徒は魔法が使える。フレアから聞いているだろう?」

「なんと!そんな事まで可能なのか……」

「それと、これはクレアからの贈り物だ。予想外に生け捕りしたシルバーウルフが高値で売れたので、この武器も受け取って欲しいとのことだ」

 そう言って、ミリアはガドフから買った剣5本と槍5本をボルドに渡した。


「良いのか?」

「ああ、突っ返されても困る。私は運搬だけを依頼された」

「分かった。もし、クレア殿に会うことがあればお礼を言っておいてくれ」

「分かった。伝えよう。で、本題に入るが、明後日、ここに空地人そらちびとが襲撃に来る。私は、それを妨害したい。村に入れてくれないだろうか?」

「明後日に来るだと!?何故わかる!」

「これは、宇宙人の装置で携帯端末と言うらしい、とても便利だ。衛星と言う装置が地上の映像をリアルタイムで配信しているらしい。それを受信できるアプリを携帯端末にインストールすると、こんな感じで、空地人の空地が何処にあるかが分かる。一昨日時点の位置がここで、今日はここだ。明後日には、この村の近くを通る。意味は分かるな?」

「そうか、来るのか、今度こそ皆殺しにしてやる!」

「勝算はあるのか?」

「そんなものは無い。ただ全力で戦うのみ!」

「だから、勝てないのだ。バイクの対処法は?クレアが提供したアサルトライフルの扱いは?協力を申し出ている私とフレアをどう使う?シールドベルトは誰に持たせる?」

「分からない……」

「それでは勝てない。私は勝つ方法を知っている。私の指揮下に入る気はあるか?」

「どうすれば勝てるか言ってみろ、その内容によっては従っても良い」

「いいだろう。私の作戦を教えよう」

(勝った。ボルドは私の話を聞いて従うだろう。ただし、アニマ教徒にはならない。フレアがジルドを簡単に洗脳したツケだが、それでいい)


 ミリアはボルドに作戦の内容を詳細に説明した。

「なるほど、上手く行きそうだな。従っても良いが、あんたに何の得があって、協力するんだ?」

「私はアニマ教の使徒だ。信徒を増やすために活動している。この戦いで魔法の有用性を証明できればアニマ教徒が増える。それが、私の得だ」

「なんで、アニマ教徒を増やしたいんだ?」

「簡単な理由だ。多くの人に幸せになって欲しいんだ。アニマを理解すれば自分が不幸だなんて思わない。ただ、アニマの命じるままに生きているだけだと実感する。だから、人は自由に生きていいと納得できるんだ」

(綺麗事を言うやつは2種類いる。騙して利益を得ようとするやつ。または、ただのお人好しかだ。それを見極めるための質問にどう答える?)

「欲しいのは権力か?それとも金か?」

「アニマ教の使徒は、ほかの宗教の教祖とは違う。使徒とは単純に戦力でありアニマ教徒の守護者だ。命令に従う必要は無いし、金銭も要求しない。私もフレアも食事は水だけで事足りるし、どこでも寝れるし娯楽も必要としないから他人を隷属させて、利益を得る必要もない。また、私もフレアも不老だ。死んで信念を弟子たちに曲げられることもない。それでも、まだ疑うか?」

「なるほど、白樹人しらきびとと黒樹人は無欲だったな、なら信じよう。ジルド様には俺から話を通しておく、この村を守るために力を貸してくれ」

「ありがとう。アニマ教徒を増やすために喜んで協力するよ」


 ボルドは、ジルドに報告した。

「アニマ教の死の使徒ミリア殿が、明後日に襲撃に来る空地人を撃退するために協力を申し出てくれました。俺の一存で受け入れたのですが、ジルド様は、どうお考えで?」

「お前の判断を信じる。残念ながらワシはもうアニマ教徒側の人間だ。あの教典を受け取れば、否応なく理解してしまう。レッドベアの教えは完全ではなかったと……」

「使徒の命令には絶対服従ではないと聞きましたが事実ですか?」

「それは、事実だ。ワシはフレア様の要望に応えておらんかったろう?」

「確かに……」

(ジルド様は、最初、フレア殿へ布教活動を許可しなかった。だが、フレア殿を様と呼ぶようになっていた。何かしらの精神作用はあるようだが、絶対服従という状況にはならないのか……)


 村に入るとミリアは早速、フレアに接触した。

「ごきげんようフレア。私に要らない手間を取らせてくれてありがとう」

「ごめんミリア。約束守れなかった(テヘペロ)」

「分かってた。だから変装して演技したんだ。上手く騙されてくれてありがとう」

「う~~~~。なんか、ムカつく(オコ)」

「フレアが素直だからボルドを騙せた。彼はアニマ教の闘士の器、今はまだ本を受け取らないだろうけど、彼は必ずフレアから本を受け取るだろう」

「それは、神託ってやつ?」

「そうだ」

「フッフッフ、やっぱり僕のやり方は間違っていなかった様だな(勝ち誇り)」

「今のところはね……」

「なんだいミリア、負け惜しみかい(ニヤニヤ)」

「そんなことより、空地人が来た時の作戦なんだが」

「あ、話題かえた!」

「不毛な会話は止めて、建設的な話をしないと、時間は有限だ」

「ハイハイ、分かりました~。それで、どう戦う?先制攻撃で終わらせる?」

「そんなに簡単な相手じゃない」

 ミリアは、フレアに作戦の概要だけ伝えた。

(フレアには、細かい説明しても忘れるから無駄になる。概要だけ伝えれば、後は雰囲気読んで何とかするだろう)


 2日後、空地人が村に攻めてきた。首領のバラクは、村を見下ろして違和感を覚えていた。

「おい、ヴァラ。なんか、おかしくね?」

「そう言えば、そうだね。なんか、白いのと黒いのが居る」

「あれは、白樹人と黒樹人じゃねぇか!マジかよ(絶望)」

「マジで?20年前、宇宙人の軍隊1000万を相手に、たった200人で勝利した化け物が2人も居るのか……。これって(名を上げるチャンスじゃないか?)」

「おい!お前ら人質を用意しろ!まともに戦って勝てる相手じゃねぇ」

(バラク、ひよってんのか?)

 ヴァラはバラクの弱腰の対応が気に入らなかった。


 ミリアは、村の中心に陣どっていた。ミリアの回りには赤熊人の女性10名がアサルトライフルで武装し土嚢でバリケードを作り、一列に並んで銃を構えていた。

 一方、フレアは村の外に赤熊人の戦士たち20名と一緒に布陣していた。フレアはミスリル製のロングソード、戦士たちは、クレイモアと槍で武装し、半数はシールドベルトも装備していた。

「アニマ教徒よ!仮面を取れ闘いの時が来た!」

 ミリアの掛け声で戦士の半分が空中から白い仮面を女性の半分が黒い仮面をミリアは青、フレアは赤の仮面を取り出して顔に着けた。その仮面は目は鋭く口元だけ笑って見える不気味な仮面だった。

 それは、魔法の仮面だった。着けた者の身体能力を上げ、敵対するものには恐怖を与える効果があった。仮面から覗く目は怪しい光を放っていた。


「なんだあいつら、変な仮面なんか取り出して……」

 バラクは、得体のしれない恐怖を感じていた。

「確かに、不気味だね~。まあ、それだけだけど」

 ヴァラは、恐怖を感じていなかった。


 ボルドは、この日を待っていた。静に黙祷し、亡き息子に誓う。

(ソルド、仇は取るぞ)

 短い黙祷の後でボルドは、声を張り上げた。

「戦士たちよ!戦いの時だ!我が呼び声に応えてくれ!」

 空が割れんばかりの雄たけびを上げて、ボルドは自分の体を叩きながら歌い踊り始めた。

「森に住みし偉大なる神、レッドベアにこの戦いを捧げる」

「「「応!応!応!」」」

 ボルドの叫びに呼応し女子供も含めて村人全員が歌い踊り始める。すると魔法陣が出現し、村全体を囲んでいた。


「おいおい、今度はなんだよ!」

 バラクは、さらなる恐怖を感じていた。

「あれが、魔法ってやつか……」

 ヴァラは、好戦的に笑っていた。


「我らは森の子、神の血をひきし戦士」

「「「応!応!応!」」」

「恐怖は我らのものにあらず!我らに仇成すものたちのもの」

「「「応!応!応!」」」

「我らに勝利を!勝利を!勝利を!」

「「「勝利を!勝利を!勝利を!」」」

 ウォークライが終わると村人全員の顔に光り輝く文様が浮かび上がった。これまで以上に身体能力が上がった。

(なんだ、これは、これがアニマ教徒の魔法の力なのか……)

 ボルドは自分の身に起こったの事が信じられなかった。いつも以上に力がみなぎっていることを感じていた。


 空地人は、半重力装置搭載型ホバーバイクで空に散開して布陣していた。その数は50、いつもの倍以上の人数を出していた。そして、赤熊人の奴隷5人をバイクのカウルに鎖で括り付け盾にしていた。

 それを見てフレアはため息をつきながらボルドに言った。

「ミリアの予想通りの展開になっちゃったね~。ボルド殿~。おもしろくな~い」

「奴らにプライドは無いのか(怒)」

「ないんだろ~ね~。でも、だからこそ、こちらも遠慮なく叩き潰せる♪」

「フレア殿!それでは作戦と違う!」

「ウソウソ、冗談だよ。今回は我慢しないとね~。てか、良いの?ミリアの作戦を信じて……」

「俺は、真正面から立ち向かう以外思いつかなかった。ミリア殿の作戦を聞いて、俺は自分がバカだという事を理解した」

「そうかい、ボルド殿が信じているのなら、何も問題ないな。僕もミリアの作戦通りに動くとするよ」

「ああ、頼む」


 空地人の男略奪者がヘラヘラ笑いながらバラクに提案した。

かしら~。ちょいとビビりすぎなんじゃねぇですか?赤熊人をさらうだけですよ~?いくら白樹人と黒樹人が強いと言ってもたった2人、魔法の力があろうが、全員で突っ込めば子供さらうだけなら楽勝でしょう」

「そうか、同じ意見奴は居るか?」

 バラクの問いにヴァラを含め全員が手を上げた。

「ヴァラ、お前もか……。敵をなめすぎだ。痛い目を見るぞ?」

「これは、チャンスなんだよバラク。白樹人と黒樹人に勝ったって実績を得れば、宇宙人との商売で、もっと金をふんだくれる様になるじゃないか」

「そうか、それがオマエラの総意なら仕方ねぇ。分かった。行くぜお前ら!」

「そう来なくっちゃっ!」

 ヴァラはバラクの決定を喜んだ。

「さっさと5人さらってずらかろうぜ!」「おう」「ひゃっは~」


「赤熊人、白樹人、黒樹人、動くな!動けば人質を殺す」

 バラクはそう宣言し、バラクとヴァラを先頭に50人略奪者たちが、村の中心に向かって空から一直線に突撃を開始した。

「やれやれ、面倒なことだ……」

 フレアはぼやいた。

「今は、我慢だ」

 フレアのボヤキにボルドが答えた。

「野郎どもいつも通り戦士たちの脚を撃ち抜いて足止めだ!」

「「「イエッサー!」」」

 バラクの合図で、略奪者たちは、一斉にアサルトライフルで射撃を開始した。それに対して戦士たちは直立不動のまま動かずに被弾した。

 フレアはシールドベルトを装備しておらず魔法も使わなかったが、無傷だった。

 ボルドを含め10人の戦士たちはシールドベルトを装備していたので無傷だった。

 ジルドを含めシールドベルトを装備していないアニマ教徒になった戦士たちはウォークライと仮面の効果で、防御力も上がっているため軽傷ですんだ。そして、受けた傷も命の使徒フレアの範囲スキル『回復の波動』で、即座に治った。

「な!?あいつら、シールドベルトを装着しているのか。しかも、ナゼだ!傷が治っている……」

 ヴァラは、予想外の出来事に衝撃を受けていた。

「うろたえるな、こっちには人質がいる。奴らは動いて居ないだろぅ?」

 バラクは冷静に戦士たちの動きを観察していた。

(バカか相手は魔法を使う種族だぞ!何が起こっても不思議じゃない。ヴァラは、他の奴らと同じバカだったのか……。この戦いが終わったら捨てよう)

 バラクはヴァラと別れることを決めた。


「戦士たちは、無視して、直接村に乗り込むぞ!」

 バラクは人質は有効だと考え、前衛であるフレアと戦士たちの頭上20メートルを通過し、そのまま村の塀を飛び越えようとしていた。

「あれ?僕たちを無視して村に入ろうとしてるのかな?僕たちをなめてるね~(ニヤニヤ)。距離的にはもう良いんじゃない?ミリア」

 フレアとミリアは、戦士と銃で武装した女性全員に無線通信用のインカムを渡していた。だから、いつでも誰とでも会話可能な状態だった。

「そうだな、では作戦通りに私が電波遮断の魔法で通信妨害、フレアは砂嵐の魔法で視界を妨害」

「はいは~い。ボルド殿は行けるかい?」

「もちろん!」

「白の戦士たちは、人質の救出、黒の戦士たちは、人質救出後に敵を殲滅してくれ」

「「「了解」」」

「あ、ミリア、全員捕虜にするの?それとも絞る?」

「出来れば全員を捕虜にしたいけど、それはきっと無理だから生き残った奴だけで良いよ。あ、でも、フレアは一応手加減してよね。他の戦士たちは全力で戦っていいよ」

「了解了解~♪」「「「了解」」」

「では、行きますか~。サンド・ストーム(砂嵐)」

「ジャミング・バリア(電波妨害障壁)」

 フレアの魔法で村と村の外に布陣していた戦士たちを覆う半球形の巨大な砂嵐が発生し、ミリアの魔法で同じ範囲に不可視の魔法障壁が出現した。これは、障壁の内部と外部を遮断するものなで、内部での通信は阻害されない代物しろものだった。


 バラクは、砂嵐を見て、その意図を理解した。

(砂嵐だと!?空地から孤立させる気か?)

「おい、見張り台アルファ、応答しろ」

 バラクは、空地にある見張り台にバイクの無線通信で連絡を取ろうとしたが、応答は無かった。

(クソッ、やられた。だから、俺は嫌だったんだ。なのに、あの馬鹿ども簡単にできるだと!?言った言葉の責任は取れよな)

 バラクは、自分たちが罠にはめられ、これから狩られる事を予見していた。だから、バイクの速度を緩め略奪者集団の中央付近に移動した。


「さて、狩りの時間だボルド殿、僕は先に行くよ。カット(瞬間移動)」

 フレアは、人質をバイクに括り付けて盾にしているバイクの前に瞬間移動し、鎖を断ち切り、人質を抱えて魔法でミリアが居た場所に戻り人質を置いた。その時、すでにミリアも魔法で、人質の鎖を断ち切り抱えていた。

「カット(瞬間移動)」

 ミリアも人質を抱え村の中央に設置した本陣に戻って、フレアに告げた。

「これで、二人」

 ボルドとジルドとミリアが選んだアニマ教の赤熊人の戦士1名は、事前にミリアから指示のあった人質を解放するべく跳躍し、それぞれのクレイモアを振り下ろし一撃で鎖を両断し、人質を救出した。 

(やはり、こうなったか、だが逃げたら誰も付いてこなくなる。仕方ない、敵との交戦を避けて、奴隷を確保したら逃げよう)

 バラクは、他の略奪者が自分生き残るために指示を出した。

「野郎ども!人質は奪われたがチャンスはまだある!今回は制限なしだ!すれ違いざまに子供をさらえ!な~に家の中に隠れているだろうが、バイクで吹き飛ばせば問題ない!交戦は避けてさらう事だけに集中しろ!撃墜されなければ失敗しても文句は言わん!」

「分かったぜお頭!」「今回は大儲けだな!」「撃墜される間抜けは居ねぇよな!」「撃墜された奴は空地人じゃねぇ、ニワトリだよ!」「ぎゃはは、違いねぇ!」

(まったく、お前らは扱いやすくて助かる。これで、俺が何の成果も上げずに村を通過しても文句は言われない)

 バラクにとって他の空地人は道具でしかなかった。空地人は自分たちを神の使いだと思っている。バラクもそうだが、神の使いは失敗をしない。失敗した奴は偽物だという思想を持っていた。多くの空地人はバラクから見たらバカだった。空を飛べるというアドバンテージに胡坐をかき、努力する事を怠っているバカだった。

 バラクは努力し、宇宙人の言語を習得し、奴隷商人として宇宙人とのコネクションも作りかしらに成りあがった。怠惰な空地人が多い中で、ヴァラは努力し、銃の腕も近接格闘技術も磨いていた。バラクは初めて自分と同じ賢い空地人に出会えたと思っていた。ヴァラを運命の人だと思っていた。だが、今回の敵戦力と自戦力の分析の甘さをバラクは容認できなかった。


(ハン!やるじゃねぇか!だが、そっちは防衛戦、こっちは奴隷をゲットすれば終わり、しかも、速度はこちらが上、人質に気を取られている隙に、子供たちは貰う!)

 ヴァラは、まだ勝利を確信していた。


「さて、人質も居なくなったことだし、人狩り行きますかね~」

「遊ばないでねフレア」

「お任せあれ~」

 フレアは腰に履いてあるロングソードを抜き放ち、赤い仮面から覗く赤い眼を怪しく光らせて獲物を定め魔法を使った。

「カット(瞬間移動)」

 フレアは略奪者の先頭に居たヴァラの頭上に転移した。フレアはロングソードを大上段に構えて、振り下ろせばヴァラを両断出来る体勢だった。

(バカな!なんで!こんなとこに!いや、それよりも防がないと死ぬ!)

 ヴァラはフレアの転移に即座に反応し、バイクを傾け背中の翼に装着してあるブレードでフレアの一撃を受流した。

「アハッ、良い反応~。キーメタ、君は僕が捕らえることにする(喜)カット(瞬間移動)」

 フレアは元の位置に戻り、ミリアに宣言した。

「ミリア、あの先頭の奴、僕が貰っていい?アレは僕が捕まえたい(ウキウキ)」

「良いけど、遊ばないでね」

「任せたまえ(自信)、他の連中は任せたよミリア。カット(瞬間移動」

(本当に大丈夫かしら?)


 ジルドは、人質を若い戦士に預け、上空を通過しようとしているバイクの一つに狙いを定めて魔法を使うことにした。

(新しく手に入れた魔法の力、試してみるか)

「ファイア・アロー(火矢)」

 ジルドの詠唱で、火の矢がジルドの眼前に出現し、狙ったバイクに直進し突き刺さった。バイクは破損し制御を失い墜落した。乗っていた空地人の男略奪者はバイクを捨てて自力で飛行していた。

(マジカよ。今のは魔法か?だが、俺には空を飛ぶ翼がある。このまま遠距離から一方的に射撃してやる)

(その場所に、留まるか、愚かな、先ほどの跳躍を見ても高度を上げんとは……。ワシの身体能力は、仮面とウォークライの効果で、その距離なら、切り殺せるのだぞ?)

 ジルドはクレイモアを振り上げると同時に飛び上がり、20メートル以上の高さで飛行していた、男略奪者の眼前に迫った。

(ウソだろ!)

 男略奪者がそう思った瞬間、ジルドはクレイモアを振り下ろし、男略奪者を両断した。

(これが、魔法の力か、圧倒的だな。ならばワシは子供たちを守るために、この力を使おう)

 ジルドは、村の塀を飛び越えて、村の中で防衛を行うことにした。


(ジルド様が魔法を使った!あれがアニマ教徒の力か、俺も負けてられんな)

 ボルドや他の戦士たちもジルドに続いて敵を撃破しようと跳躍したが、鳥頭の略奪者たちもさすがに高さが足りないと理解しさらに高度を上げていた。だから、一機も落とさずに略奪者たちは村に侵入してしまった。ボルドたち白の戦士は、略奪者を追って村に入った。


 フレアはヴァラのバイクのカウルの上に移動し、直立していた。ヴァラは、バイクを自動走行モードに設定し、アサルトライフルを構えてフレアの出現を待ち構えていた。カウルの上に出現したフレアに対してヴァラはアサルトライフルの銃口を即座に向けて発砲した。銃弾の雨は確かにフレアに直撃した。

「無駄だよ。僕に銃撃は効かない。まあ、他の白樹人も一緒なんだけどね~」

 フレアは、自分の表皮を魔法で強化し、戦車以上の装甲を身にまとっていた。

「なめるな!あたいは、接近戦も得意なんだ!」

 ヴァラは、アサルトライフルを捨て、ミスリル製の短剣を2本取り出し両手に持って、フレアを切り刻むべく振り回した。さらに、背中の刃を装着した翼も使って斬撃を繰り出した。だが、フレアは、ヴァラの攻撃を全て避けた。

(これが、白樹人なのか!こんな足場で、この距離で、あたいの攻撃を難なく避けていやがる)

(アハハ、楽しい!こいつボルド殿にも負けない逸材だ。是非、アニマ教徒に欲しい。きっといい闘士となる!)


(ああ、フレア。遊んでるわね。分かってた。だから、他の空地人は私が対処する)

 ミリアは、前衛部隊が撃ち漏らした略奪者に対して攻撃と防御を実行した。

「黒の戦士たちよ、私はこれから魔法を使う、銃弾を防ぐ魔法だ。だから、恐れることなく戦ってくれ。アクセラレータ・スキン・バリア(一方向皮膚障壁)」

 ミリアの魔法が発動し、土嚢に布陣していた10人の女性赤熊人はバリアに覆われた。

「夫の仇!」「息子の仇!」「娘の仇!」「母の仇!」「父の仇!」

 赤熊人の女性たちは、それぞれ戦う理由を叫んで引き金を引いた。結果、突撃してきた空地人はアサルトライフルの射撃を無効化され、一方的に銃弾の雨を受け、10人の重傷者を出した。


 ヴァラは、バラクが加勢に来ないことを恨んでいた。

(なんなんだコイツ。勝てる気がしない!だけど、バラクが加勢してくれたら状況は変わるかもしれない。なんで、助けてくれないんだ!恋人だろう?何処に居るんだバラク!)

 その時、バラクは略奪者の集団の中央に居て、かしらとして仕事をしている感を出す為にバイクを走らせていた。


(チクショウ!こうなったら一人でも多く道連れにして死んでやる!)

 ヴァラは、フレアに攻撃するのを止めて、全力で村に中心に集められた人質の元に向かった。

「アレレ~。逃げるの~」

 フレアの挑発をヴァラは無視してジルドに向かった。

(ほう、ここに向かってくるか……)

 ジルドは、村の中央で奪還した人質を守るように立って居た。接近してくるヴァラを魔法で迎撃するつもりで呪文を唱えた。

「ファイア・アロー(火矢)」

(ハハッ、それを使うと思ってたよ。目線で狙いは丸分かりなんだよ!そんな攻撃当たるわきゃねぇ~だろバーカ)

 ヴァラは火の矢を避けてジルドに接近した。

(お前がシールドベルトを着けていないことは確認済み、これでくたばりな!)

 ヴァラは、ジルドに向けてすれ違いざまに手榴弾を投げた。ジルドが逃げれば後ろの人質に当たる。ジルドはとっさに手榴弾を両腕で抱きしめるように受け止めた。次の瞬間、手榴弾は爆発し、ジルドは全身血だらけになり、膝から崩れ落ちた。

「ジルド殿!ヤローブッコロス!」

 フレアは激高して、ヴァラを殺しに行った。魔法で、ヴァラの近くに出現し、一刀両断するつもりでロングソードを振り下ろした。だが、それを受け止めた者が居た。それは、ミリアだった。

「殺すな」

「はぁ?ふざけんな!ジルド殿の仇を討つ!アニマ教徒が殺されたんだぞ!ミリア!」

「私はふざけていない。ジルド殿は生きている。君が回復魔法を使えば、まだ間に合う。私がそいつを捕縛する。君はジルド殿を救え、命の使徒の使命を果たせ」

「分かった。後は頼む、もうこいつを自由にするな。カット(瞬間移動)」

 フレアは、ジルドの側に移動した。

「もちろんだとも、私は死の使徒、殺すのも殺さないのも得意だ。カット(瞬間移動)」

 ミリアは、ヴァラが乗っているバイクカウルの上に移動した。

「早速で悪いが、捕縛する」

 そう言ってミリアは一瞬でヴァラの手足と翼を素手で枯れ枝を折る様に無造作に折った。

「あ、がぁ!」

(ハァ?なんだよコイツ!なんなんだよコイツ、強すぎんだろ!)


 フレアは、ジルドの側に転移し、まだ息があることを確認した。

「ジルド殿、ごめんなさい。僕が、戦いを楽しんだせいで、あいつにしてやられた……」

 フレアは、しおらしく反省して赤い宝石をはめ込んだ白銀の柄のロッドを空中から取り出した。それはアニマ教の神器『命の聖杖』だった。命光火風属性の魔法の威力を強化する効果がある杖だった。その杖を掲げ、魔法を使った。

「リカバリー(回復)」

 フレアが、そう唱えるとジルドの体内に食い込んだ手榴弾の鉄片が押し出され、焼けただれた皮膚が再生した。

「フレア様、ありがとうございます。この老いぼれ命を拾いました」

 そう言ってジルドはニカッと笑った。

「僕を許してくれるのかい?」

「許すも何も、してやられたのはワシの不覚、フレア様のせいではありません」

「でも!」

「良いのです。フレア様、あなたはそうある様にアニマに作られた。ワシはそれを知っております。それに、ワシは死んでおりませぬ。お気になさらずに」

「本当にそれでいいの?」

「ワシが良いと言ってるのです。フレア様の御心は、この老骨、身を持って理解しております」

(瀕死の重傷を負った。ワシを回復させた。もう、疑う余地は無い。フレア様もミリア様も赤熊人を救うために来ただけだ)

 ジルドは、フレアとミリアの心を理解した。

(瀕死の重傷すら魔法で治せるのか、アニマ教徒になれば、その恩恵を受けられる。それに、ジルド様のなんと幸せそうな顔、苦悩から解放されたようだ……)

 ボルドは、アニマ教徒になる事への抵抗が無くなっていた。


 ミリアとフレアが、ヴァラの対応に追われている間隙を縫って、略奪者たちは、村に侵入し子供たちを連れて行った。

 その中に、ニトラが居た。ニトラは幼馴染の女の子がさらわれそうになった時、ミリアから聞いていた予言通りに、女の子の代わりに自分がさらわれるように動いた。この状況はミリアの望んだ展開では無かった。だが、ニトラには幼馴染の女の子に代わってさらわれる理由があった。

 1年前にさらわれた自分の姉に再会し守るためにそうしたのだ。


 結局、赤熊人は人質5人を奪還し、空地人の捕虜をヴァラを含め10人確保し、10人を殺害した。その代わり、ニトラを含む5人の赤熊人の子供が誘拐された。

「クソッ、誘拐は防げなかったか……」

 フレアは、誘拐を防ぐつもりでいた。だが、結果が伴わなかった。理由はヴァラが優秀だったのと数の暴力には勝てなかったからだ。


 50人の突撃と、その結果を見てバラクは計算していた。

(白樹人と黒樹人は手に負えない相手で確定、赤熊人も仮面を着けてる奴はヤバイ。人質は、商品価値のない老人だから奪還は不要、敵に捕まった間抜けは無価値だから不要、バイクの損失は痛いが、これ以上この村で戦う意味は無い)

「空地人に告ぐ、人質交換に応じる気はあるか?」

 ミリアは、捕虜にした空地人と、墜落したが壊れていないバイクを魔法で空中に並べて、空地に見せつけた。

「断る。敵に捕まるような間抜けは空地人じゃない。それに、奴隷はバイクよりも高値で売れる。交換する意味は無い」

 バラクは、ミリアの要求を突っぱねた。それを聞いてヴァラはこう思った。

(バラク、あたいは恋人じゃなかったのかよ!なんで、見捨てるんだ!)

 ミリアは、バラクの返答を聞いて、こう思った。

(やはりか……、ニトラ頼んだぞ……)

 フレアは、ミリアに話しかけた。

「追わないのか?ミリア」

「言いたいことは分かるよフレア。でも、それは結果的に信徒を増やす機会を失うことになる」

「なぜなんだい?僕にも分かるように説明してくれ」

「フレアか私が行けば、空地人が何人いようとも勝てる。だが、空地人は赤熊人の奴隷を人質に使う。君は空地人が何人いて赤熊人の奴隷が何人いるのか知っているのか?」

「分からない」

「そうだろうね。私も知らないんだもの。敵の数も奴隷の数も分からない。そんな状態で、乗り込んだとして何人助けることが出来る?」

「分からない」

「その通り、分からないんだ。敵の数が分からなければ、どのような結果になるのか予測すらできない。そんな状態で奴隷を無事に奪還できると?」

「出来ないと思う。だけど、このまま見捨てるって言うのか?アニマ教徒を……」

「見捨てる訳が無いだろう?これからやる事は4つ。空地人の戦力の把握と奴隷の人数の把握、それに空地の内部構造の地図の入手、最後に奴隷奪還に協力してくれる赤熊人の戦士の確保だ」

「なるほど、ボルド殿たち赤熊人の戦士は協力してくれるかな?」

「もちろんだとも。こちらからお願いしなくてもボルド殿から申し出があるはず」

「ミリアは何でも分かるんだね」

「何でも分かるわけでは無いよ。ただ、各々の状況と性格を理解して予測を立てているだけに過ぎない。私の知っている情報に誤りがあれば外れる程度の予測だ。大したことは無い」

「そうなんだ~。でも、僕はすごいと思う。あの時、君を誘ってよかったよ(笑顔)」

「そうか(それは、こっちのセリフだよ。フレア)」

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アニマ教の魔女達 絶華望(たちばなのぞむ) @nozomu_tatibana

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