死の使徒と鉱山人
翌日の朝にクレア(ミリア)は、生け捕りしたシルバーウルフと採取した薬草を受け取り、約束通り商品を渡した後、ボルドの折れたクレイモアを預かって村を離れた。
その後、誰にも見られていないことを確認し、魔法で宇宙人の街に移動し、手に入れたものを『万屋』で売却した。その後で、鉱山人の国エンボル工業国に転移した。
鉱山人、外見的特長は、茶髪、黒目、筋肉質、褐色の肌、平均身長150センチメートル、平均体重70キログラムの職人戦士、鉱山に街を造り、鍛冶を生業にしている。
エンボル工業国は、鉱山に造られた国で坑道が道であり、街だった。鉱山の入口付近に商店街があり、商人はここで取引をする。住宅街と王城は、奥深くにあり鉱山人以外は立ち入り禁止だった。
宇宙人がくる前は、この国がこの星の工業の中心だった。だが、宇宙人がもたらした重火器と人口繊維で作られた防刃防弾の防具により、剣や槍といった鍛冶製品の需要は落ち込み、戦場で使える実用的な武具よりも、宇宙人が購入を希望する観賞用の芸術性は高いが実用には耐えられない玩具のような物が好まれるようになった。
鉱山人の職人ガドフは、昔からの職人気質で、宇宙人向けの玩具を作ることに辟易していた。
ミリアは、商人クレアの役を演じる事を止め、アニマ教の死の使徒ミリアに戻っていた。服装もいつもの黒ドレスを着ていた。向かった先は、以前、自分とフレア用に神器以外の予備武器としてミスリル製のロングソードを購入した工房『鉄筋工房』だった。そこは、ガドフの工房だった。
依然来た時と変わらず、客は少なかった。他の工房は宇宙人や、宇宙人と交易をしている平野人で繁盛していたが、実用的な武具ではなくお飾りの玩具が売られていた。そんな中、ガドフの工房だけは実践重視の武器を売っていたので、ミリアとフレアはミスリル製のロングソードを購入したのだ。
「すみません。修理を頼みたいのですが?」
工房の入り口で店番をしているガドフの娘、オレオにミリアは話しかけた。
「あ、これは、ミリア様。いつもお世話になっております。修理ですね。どのような武器ですか?」
オレオは愛想よくミリアに応対した。
「これだ、赤熊人用のクレイモアなんだが、2日で直せるか?」
「え?これを2日ですか?ちょっと聞いてきます」
そう言って、オレオはガドフに折れたクレイモアを持って確認に行った。
「父さん。以前、ロングソードを購入してくれたミリア様が、この剣を2日で修復できないかって聞いてきたんだけど?」
「ミリア?何もんだそいつは?」
「父さん忘れたの?閑古鳥が鳴いているうちの工房からロングソード2本、定価で買ってくれた上客だよ!(怒)」
「おお、あれか、道化みたいな白樹人と、殺し屋みてぇな黒樹人の片割れか……。で、武器の状態は?」
「これだよ」
ガドフは、その武器を見て、一目で自分が作った武器だと理解した。
「おい、こいつの使い手は死んだのか?」
「知らないよ。直してくれって頼まれただけだし」
「分かった。俺が対応する」
ガドフにとって、このクレイモアは大切な物だった。玩具が重宝される時代になり、それでも武器は身を守るため、突き詰めれば人を殺すための道具であるべきだという信念を持って武器を作っていた。それが、宇宙人の武具に負けて、多くの同胞が玩具を作ることに敗北感を感じていた。
そんな中、武者修行と称して、各地の種族で必要とされている武器を作る。という信念の元に、赤熊人の村で出会ったボルド(当時15歳)から、依頼された。
「バジリスクでも宙族でも、どんな敵でも、俺の腕力で叩き切るか、叩き潰す。そういう剣が欲しい」
その時、ガドフは刃渡り3メートルのクレイモアをボルドに作った。その剣は使い込まれていた。幾千の戦闘で、ボルドが盾に使い、硬い敵に対しても容赦なく叩きつけたと理解した。その結果、折れたのだ。ガドフにとってそれは屈辱だった。相手が何であろうと切り伏せる剣、それを作ったと自負していた。その対価に貰ったシルバーウルフの毛皮は一切刃物を通さない素材だった。
絶対に切れない防具を貰ったのに何でも切り裂く剣をボルドに渡せなかった事をガドフは理解した。だが、ガドフは当時の自分の未熟も理解していた。ボルドに売ったクレイモアが折れたのならば、それは自分の責、ならば、なんでも切り裂ける剣を渡すのが筋、だから、ガドフは作っていた。
ボルドに相応しい剣を……。ボルド自身が剣が折れたと持ってきたのなら、無料で渡すつもりだった。だが、持ってきたのは殺し屋のような黒樹人だった。ガドフは、ボルドの身に何が起こったのか知るためにミリアと対峙した。
「その剣、どういう経緯で手に入れた?」
ガドフは、半ば喧嘩腰にミリアに聞いた。
「赤熊人に修理を頼まれて持ってきた」
ミリアは淡々と事実を述べた。
「赤熊人の名は?」
「ボルドという」
「なんで、あんたが?」
「私は、商人でもある。赤熊人との取引で、この武器の修理を引き受けた。だた、それだけの事だ。出来れば2日以内に修理してほしいのだが、可能か?」
「なぜ、2日なんだ?」
「2日後に、この剣が必要になるからだ」
「赤熊人の危機か?」
「まあ、そうなる」
「その剣の修理は無理だ。だが、あんたの話が本当なら、この剣を持っていけ、代金は要らん」
ガドフはミリアを信じた。赤熊人の置かれている境遇をガドフは知っていた。空地人の襲撃を受け、奴隷として売られている。それに対抗するために、自分の武器を欲してくれたボルドの為に、実用重視で装飾もない無骨なクレイモアを嬉しそうに受け取ってくれたボルドが、武器を必要としている。ならば、今度は折れない刃こぼれもしない完全なる武器をボルドに渡したかった。
ガドフが差し出したクレイモアを見てミリアは理解した。この剣は名品だと……。職人が長い年月をかけて技術を磨き、技量の全てを注いで作られた物だと……。
「ただでは受け取れない。この剣には魂が込められている。価値あるものに値段をつけずに受け取るのは、泥棒だ。私は、この剣に1000万デルの値段をつける。この金を受け取らないのなら、私はそのクレイモアを受け取らない」
「何を言ってやがる!俺はボルドに頼まれたんだ。どんな敵でも、腕力で叩き切るか、叩き潰す。それが出来る剣を作って欲しいと、その対価を俺は受け取った。その時、作った剣が折れたんだ。職人の恥だ。俺は嘘を言った。だから、今、渡すクレイモアは、約束通りの品だ。だから、対価は要らねぇ」
「それで、この店は立ちゆくのか?」
「ぐぅ」
ミリアはガドフの店が経営難なのを知っていた。だから、正当な報酬を受け取るように交渉を持ちかけた。宇宙人がもたらした技術は、有益だった。銃はさほど訓練せずとも一般人が兵士として戦場に立てる有益な武器だ。だが、古代人が残した技術シールドは、量産できれば戦場が近接格闘の時代に逆戻りする。そして、宇宙人はシールドベルトを量産する事に成功していた。
今は、まだ銃が主流だが、いずれまた剣の時代が来るとミリアは読んでいた。その時、この実用重視の鍛冶屋が必要になる。だから、ここで潰れぬように投資したかった。
「ダメだ。店が潰れようとも俺のプライドが許さねぇ」
「頑固だな、分かった。そのクレイモアはタダで受け取ろう。それとは別に武器を1000万デル分、売って欲しい。今、無いのであれば、作ってくれ、日数がかかるのなら後で取りに来る。材料はミスリルが良い。武器は取り合えず赤熊人が使う想定で剣と槍を頼む、本数は半々で」
「おい!どういう意味だ?」
「貴方の言い分は分かった。だから、クレイモアはタダで受け取りボルドに渡す。それとは別に赤熊人に武器が必要だから発注した。だた、それだけの事だ」
「まあいい、そういう事にしておく。恩にはきねぇぜ」
「ああ、それで構わない」
(まあ、こういう手合いは、恩にきないと言っても、必ず恩にきるんだがな……)
「おい!オレオ!1000万デル分の赤熊人用の剣と槍を半々で渡せ!足りなかったら俺に言え、すぐに作ってやる!」
「1000万デル!?ミリア様!毎度ありがとうございます!すぐに用意しますね」
(これで、借金も返せるし、当面の生活費も稼げる。ミリア様マジで神!)
オレオは、ガドフが作ったミスリル製の武具から赤熊人の体格に合う様な大きめの武器を見繕った。刃渡り2メートルから2.5メートルのクレイモア5本と全長10メートルの槍5本をミリアに渡した。
「こんなところでどうでしょう?」
「これが、1000万デルか?元は取れているのか?」
「ああ、はい。ちゃんと利益は出ています」
「もっと、取っても良いと思う出来だが?」
「そう言ってくださるのはミリア様だけです」
「半年後、この店は繁盛する。それまでの資金として足りているか?」
「1年でも持ちますよ!」
「そうか、なら安心だな。また、注文に来る」
「はい、ありがとうございます」
(実用重視の無骨な武器が必要とされる状況って結構ヤバイのでは?)
オレオは、これから起こるであろう戦争を予感しつつも、鍛冶職人の娘として店が繁盛するのなら良いかと割り切った。
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