第2話 春男と夏子の恋(こってりバージョン)

大学で彼氏ができた。

でも・・・。


「やめときなよ、夏子」


夏子は学食のテーブルの上で、コーヒーが入ったカップを一口、飲んだ後、名残惜しそうにチラリとカップを見つめながら、再びテーブルに置く手前で言った。


「えっ・・・どうして?」


私は無理して砂糖抜きの紅茶にしたことの後悔を引きずりながら、紙コップを握ったまま冬子の前髪の寝ぐせがいつも通りだなんて、思いながら聞き返した。


大学一年生の秋。

親友の冬子だけに、こっそり打ち明けた恋バナ。


だけど。

速攻、否定された。


「有名なタラシらしいよ」


「タラシ」って、どういう意味?

ああ・・・「女タラシ」のことか、めんどくせぇなあ。


・・・という。

思いよりも、胸のざわめきの方が強かった。


「そんな・・・」


自然と目がウルウルするのを、冬子に見せた方が女子力が評価されるか、友達だから今更感があって、却って、マイナスかもと、迷いながらも私は、声を震わせた。


確かに。

春男さんはモテそう。


薄っすら茶髪でロン毛。

それでいて、切れ長の瞳が私の胸をキュンとさせる。


背も高いし。

無口でクールで、そして。


だから。

学園祭の片付けの時に。


私の頭の中で回想シーンがグルグル回る。

勿論、私にとって都合の良いシーンをトリミングしているのは、言うまでもないが。


テーブルを運ぶのに苦労していたら。

片方を持ってくれた仕草が、凄く自然に思えた。


その時。

彼の左手の腕時計が端までずれていて、時間を確認する時、イチイチ、腕を振って正しい位置にしている姿を一瞬、想像してしまった。


※※※※※※※※※※※※※※※


それから。

春男さんと付き合う様になった。


デートも、まだ二回くらい。

映画とか、たわいもないもの。


私はラブコメとかライトなものが好きなのに、彼はアカデミー賞候補とか、俺って映画通?的な作品を推薦するから、「えぇー・・・わたし、むずかしいの、にがてぇ・・・」とかわい子ぶりっ子したら、「じゃあ、中間をとって、スラムダンクにしよう」と、訳のわからないことを言ったけど、ルカワ君がイケメンだったから、まあ、いいか・・・と。


でも。

私も噂は聞いていた。


「彼女を、とっかえひっかえ、してるそうよ・・・」


冬子はアニメのモブキャラそのままに、意地悪そうに、楽しそうに囁いた。

別に声を潜める必要は無いのに。(笑)


だけど。

冬子の言葉を否定もできずにいた。


それでも。

私は春男さんが好き。


だって、背が高いし、イケメンだし。一緒に歩いたら見栄えがパナイし、女友達なんかに鼻息荒く、「ふんがぁ・・・」と心の中だけで(当たり前でしょ?)自慢できそうなんだもん。


もう、この気持ちはとめられない。


だから。

今日、思い切って彼の住むマンションに行ったのです。


キャーッ!

ファーストキス、ファースト●●、喪失~?


マンションといっても。

五階建てで、古い。


エレベーターはあるけど。

凄く、遅い。


「階段の方が早いくらいなんだけど、部屋が5階だから」

言い訳するように微笑む彼。


白い歯が私は好き。


でも、前から四番目に虫歯があるなんて、昔、パパから聞いたギャグそのままだとは、思わなかったけど。


私が寄り添うように歩く肩を。

そっと抱いてくれる。


フッと感じる。

タバコの匂い。


電車の中での他人とかは、嫌だけど。

春男さんなら、大人の匂いのような気がして。


好き・・・。(汗)


何故か、不良の、ヤバイ匂いなんだよね。

女の子って、やっぱり、ヤバイの好きなのかな?(笑)


遅いエレベーター。

中々、来ない。


インジケーターが。

各階で止まるし。


やっぱ、安物マンション。

セレブじゃ、無かったのか。(汗)


まあ、いっか・・・。(笑)


でも、今は。

彼の腕の温もりが嬉しくて。


全然、平気。

とりあえず、今は。(笑)


むしろ。

もっと、遅くなればいいと願っていた。


※※※※※※※※※※※※※※※


彼の部屋。

初めての男の子の部屋。


キャーッ!

まじまじまじ?


エロ本!

ベッドの下?


絶対、どこかに隠してるよね。

何気にオシャレなホックニーのポスター。


裏には妹アニメなんかが、隠されたりして。(笑)


春男さんは慣れた手つきでマールボロのタバコの箱を。

前列か後列か一瞬、迷った後、一本、引出して。

口に咥え、両手でくるんだ中でジッポーで火をつけ、「ジッ」と先端が赤くなるまで吸った後、美味しそうに煙を吐いた。


「フッー・・・」


大人感を出そうとしてるなあと、思いながらも私は見つめていた。

特に、嫌じゃ、無かったから。(笑)


「今、コーヒー、入れるから」

キッチンで彼が支度している間、私は正座(無理して)で待っている。


(うわぁ・・・)

私、今、恋人、してる・・・。


はにかむ唇を必死でおさえて待っている。


落ち着け!

落ち着くのよ、夏子!


私は、いたいけな大学一年生の「ウブ」な女の子。

万が一にと、ポーチに忍ばせたコンドームは直ぐに出しちゃ、ダメよ!


その時。

電話のベルが。


今時、自宅に電話って、珍しい。

両親が転勤で留守になっての一人暮らし。


って、ことは。

結婚したら、家賃、只!


いいじゃん。

いいじゃん・・・。(笑)


(だから、かぁ・・・)


春男さんは気づかない。

代わりに取るわけにもいかず。


留守電のコメント。

ピーッの電子音。


その時。

液晶画面に浮かんだ文字。


(秋江・・・・)


苗字も無い。

名前だけなんて、彼女以外、あり得ない。


呼び捨てかぁ・・・。

秋江ちゃん・・・と、どっちが彼女率、高いかしら?


やっぱ私。

クズ男に二股、三股、かけられてるのか。


しかも。

伝言の女の人の声。


「ハルッー・・・?

 アタシ、アキちゃん。


 携帯、出ないし。

 明日、泊まるからぁ・・・。

 

 愛してるよぉ・・・」


酔っぱらってるような感じ。

凄い、彼女感。


やっぱり。

アキちゃん・・・。


彼女率、高いよぉ・・・。(泣)


やっぱり・・・。

タラシ、なんだ。


コーヒーを入れている彼の後姿。

急に怒りがこみ上げて。


差し出されたカップをスルーして。

カーペットの床に置いた右手に力を入れて膝を立て、立ち上がると扉の前まで二歩半歩いて、ドアノブを右手で掴み、左に廻して扉を開き、彼に背を向けたまま出ていった。


「クズ・・・」

言ってしまった。


だって。

どうせ、一夜の慰みものになるのなら。


ハッキリ。

断った方がカッケーよね?


いつも冷静な彼。

目を泳がす様にしている。


私は焼きもちやき、なのだろうか。

タラシと知ってて、部屋にきたのに。


でも。

やっぱり、無理。


そのまま。

部屋を出て。


廊下に出て急いで履いたヒールをコンコン、やった後、映画のシーンのようにカツカツと音をたてようとしたたけど、ゴム製の床のせいか、あまり音がしなくて、悔しかった。


エレベーターのボタンを押した。


振り返ると。

彼は追いかけてこない。


やはり。

慣れているのかしら。


何度も何度も。

こんな修羅場をくぐったのよね。


だって。

貴方はタラシ、クズな男なんだから!


そのまま。

エレベーターに乗る。


そう。

これで、良かった。


付き合う人じゃない。


でも。

好き、だったの。


都内の家賃無しのマンションとか。(笑)


エレベーターの扉、閉まるのが遅い。

彼に追いつかれちゃう。


でも。

来ない。


やっと閉まり、動いた。


だから。

少し、賭けをしたの。


私が駅まで着く前に。

彼が追い付けば。


別れないでおこうと。


フフッ・・・。

嘘つき。


まだ、未練を残している。


当たり前でしょ?

カッコつけたって、男なんて同じようなものよ。


だったら。

イケメンで。


都内のマンション住まいが良い。(やっぱ、そこ?)


「最低なヤツだよ!」

冬子の声が頭に響く。


やっぱり。

1階に着いたら。


そのまま。

帰ろう。


そう、思っていたのに。


4階で。

母娘が乗ってきた。


2階で。

おばあさんが、ノロノロと。


イライラと。

期待が、入り混じっていました。


少し、期待したけど。

どうせ、タラシの彼だから。


目を伏せてボタンを押さえながら。

みんなが降りるのを優先していた。


※※※※※※※※※※※※※※※


夏子さんが部屋を出ていくのを呆然と見ていた。


突然の怒りの表情。

「クズ」と、捨て台詞。


バタンと閉まったドアを眺めながら。

電話の留守電の点滅が目に留まった。


再生すると。


「ハルッー・・・?

 アタシ、アキちゃん。


 携帯、出ないし。

 明日、泊まるからぁ・・・。

 

 愛してるよぉ・・・」


アキ姉ちゃん。


いい加減、酔っぱらって電話するの、やめてくれない?

これで、何度、誤解されたことか。


だいたい、茶髪に染めたのも。

奥手な俺を「大学デビュー」させようと、アキ姉ちゃんが無理やりさせたんだろう?


別に実の姉なんだから、このマンションから通えばいいのに。

他に借りて住んでいる。


それに。

最初に出来た彼女が超、ケバくて。


交際を断ったら。

大学中に「春男に弄ばれた」と触れ回るから。


今は。

学園一の「女タラシ」と呼ばれている。


ああ、そうか・・・。


夏子さん。

誤解、したんだね。


めんどくせぇなあ。

もう、やめよう・・・。


・・・な、訳、ないだろ!


一目惚れだったんだから。

彼女しか、いないんだから。


だから。

階段を走った。


駅までに。

追いつけるように。


※※※※※※※※※※※※※※※


そして。


「夏子さん・・・」


俺は子犬のように怯えた瞳で待っていた。

吐き出す息を押さえて、肩が震えている。


多分。

階段を走ってきたの、見え見えかな。


はあはあ、息が漏れている。

演技だと、思われてるかな?


「違うんだ、ちが・・・」


言い訳をさえぎるように。

夏子さんが俺の胸に飛び込んだ。


「夏子・・・さん・・・」

呟きながら俺の両腕がギュッとした。


彼女も俺の腰をギュッと・・・。


やわらかい。

やわらけぇ・・・。


ヤバい!


あそこが。

固く、なりそうだ。(笑)

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超、クドイ小説を、書いてみました 進藤 進 @0035toto

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